なぜ面白いのか

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時間や社会にとらわれず幸福に空腹を満たす「ハンニバル(ドラマ)」感想

 

huluでS2まで見たハンニバルについて。ネタバレなし感想。

ハンニバル感想目次

時間や社会にとらわれず幸福に空腹を満たす「ハンニバル(ドラマ)」感想 - なぜ面白いのか

時間や社会にとらわれず幸福に空腹を満たす「ハンニバル(ドラマ)」感想・2 - なぜ面白いのか

秩序とその外側「ハンニバル(ドラマ)」楽曲考察 - なぜ面白いのか

 

こんな人におすすめ

  • 映画や原作のファン
  • 腐った趣味をお持ちの人
  • ダイエット中の人
  • 料理を作るのが好きな人
  • 赤ワインが好きな人
  • 自分の中にある程度「芸術観」と呼べるものがあり、それと作中での「芸術観」を比較しながら楽しめる人

 

 

こういうのが苦手な人は注意

  • グロ(内臓系、腐敗系などヴァリエーション多し)
  • 虫(腐敗に伴う)
  • 精神的圧迫感

 

概要・あらすじ

wikipediaでの記事はこちら。(ネタバレなし)


独自の芸術観とともに展開されるグルメ系恋愛ドラマである(本気にしないでください)。

 

 

なぜ面白いのか

視聴者は「レクター博士」のことを知っていることが前提ですべてが作られている。
しかし物語開始時点で、登場人物にとってレクター博士は頼りになる精神科医である。
最初はこの知識のギャップが面白さを生む。
視聴者は常に、登場人物に対して「危ない!」「そこで隙を見せるな!」と感じながら見ることになる。

またレクター博士視点に寄り添って見るのも面白い。
こちらの視点では、すべての登場人物が食材に見える。ほかのドラマではなかなか味わえない感覚である。
ドラマを娯楽として消費する我々にとって、ドラマで描かれる人間と彼らの死も結局は消費されるべくして提供されるものである。
だからレクター博士の視点に寄り添うことは大して難しくない。
そこに憎しみや悪意はなく、ただ「味わいたいから」食卓にのせるだけである。

 

注意してほしいのは、これは一見単発の事件を連続して解決していくタイプのサスペンスに思われるかもしれないが、そうではないという点である。

連続解決型サスペンスドラマとして見てしまうと個々の事件のエピソードを物足りなく感じてしまうかもしれない。

詳しく言うとネタバレになるので避けるが、これはそういうドラマではないと思って見た方が楽しめるだろう。

 

また「羊たちの沈黙」「ハンニバル(映画)」はレクター博士クラリスの恋模様を描いた映画だとわたしは解釈しているが、それと同じ意味でこのドラマでのレクター博士とウィルの関係はほとんど恋愛に近い。

気になる彼のいろいろな表情が見たい、自分の知らない一面をもっと見たい、どんなことに心動かされるのか知りたい……このドラマではそんな欲求がかなり率直に表現されている。

そしてウィルにとってもレクター博士は「必要な存在」である(S1とS2でそれぞれ意味は異なるが)。

互いの執着心とそのありよう、その変化はこのドラマの大きな魅力である。

みどころ

第一にまず、官能的な液体表現

赤ワインの揺れ方や料理にかかるソースの撮り方がエロいし、何よりも血しぶきがエロい。

序盤でウィルの顔にかかる血しぶきなど、完全にそういう意味だと思う。

第一話冒頭からあんなに血しぶきの飛び散り方に偏執的にこだわった映像作品を見るのは初めてかもしれない。

 

たとえば「ホワイトカラー」でいうところのガラスの壁面の多用にあたるのが、ハンニバルでは赤ワイン(と血しぶき)の多用なのだろう。
それがそのまま作品のテーマに直結している。
そのあたりが割とストレートなのは、世界に入りこみやすくていい。

 

それからあれほどおいしそうな料理をまずそうに(というかグロにしか見えないように)撮る技術

もちろんここには、視聴者がレクター博士のことを知っているというバイアスも含まれている。

料理をおいしそうに撮る手法というのは既にある程度確立されている。徹底的にその逆をいけばまずそうに撮ることは可能であろう。

ダークブルーのフィルターと青緑の壁紙などは、おいしそうに撮る定番手法の逆だということはわかる。ほかに一体どんな工夫をしているのかわたしにはわからないが、とにかくひたすらおいしそうなのに食欲減退すること請け合いのドラマである。
ダイエット中の人におすすめしたい。

 

余談だがhuluでこのドラマを視聴中、「ハンニバル」アイコンの隣は大体いつも「孤独のグルメ」であり、非常にグルメ度の高い画面になっていた。

どういうわけかわたしのまわりでは「ハンニバル」ファンと「孤独のグルメ」ファンはかぶっているので、どちらかのみを視聴済みという人はもう片方も見てみると合うかもしれない。

どちらも独自の食事観を持ったキャラクターがストイックに道を追求するドラマであり、人生における食事以外のパートは食事を楽しむための手段、あるいは彩であるというキャラクターの考え方に共通点があるのかもしれない(適当)。

 

 

「時間や社会にとらわれず幸福に空腹を満たすとき、束の間彼は自分勝手になり自由になる。誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。この行為こそが現代人に与えられた最高の癒しと言えるのである」

ハンニバル」のキャッチコピーとしてもぴったりこないだろうか。
レクター博士は食事を人と共有することに積極的という点がゴローちゃんとは違うけども。