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無知とその報い「ゲームオブスローンズ」感想・S4まで

huluでS4を一気見し、そのまま流れるように原作本をポチった

 

今までなんとか自制していたが(未完で翻訳物の大長編小説に手を出すなんて、いいところで終わって悶えるのが目に見えているので)我慢できなかった。

ティリオン愛しい。

ssayu.hatenablog.com

以下S4までのネタバレ全開の感想とか考察とか。

 

 

 

1シーズン見終えて「今回はなんだかんだでティリオンが持っていったなー」と思うのを毎回繰り返してきたわけだが、今回こそ本気で言わせてもらおう。

S4こそティリオンの見せ場だったと!

 

S4のティリオンは、サンサとの結婚によってまずは表面的な行動に変化が現れた。

シェイとの関係を断ち、娼館にも足を運ばなくなる(シェイに入れ込んだ頃から娼館には仕事以外の目的では行かなくなっていたが)。

そして裁判と脱走、その後のシェイとタイウィン殺害を経て、おそらくティリオンの内面も変化するのだろう。

親を乗り越えて「大人」へと成長するための、「少年」にとっての通過儀礼――というにはいささか深刻すぎる、文字通りの「親殺し」であった。

ティリオンは生まれると同時に母を、そして大人になる際に父を殺したわけだ。

 

 

ラニスター家の「無知」とその「報い」

ラニスター家の全員が好きで、それぞれの関係性について言及したいところだが、今回は彼らの「無知」について書いてみたい。

 

 

タイウィン・ラニスター

個人的にこのドラマの中で最もかっこいい名前だと思っているのが彼なのだが、その彼がS4では物語を大きく引っ張った(特にジョフリーの死後)。

彼はラニスター家の長であり中心で、あらゆる意味で家族を支配しようとしていた。

家族を支配しようとするのも、結局は「家を残す」ため。

目的を果たすためにタイウィンが最も重視するのが「知恵」である。

 

ラニスター家を残す」ことを至上命題とする彼の価値観は、必ずしも子供たちに受け継がれていない。

一方あらゆるパラメータの中で「知恵」を最重視する傾向は、概ね子供たちにも認められる。

しかし残念なのは、ラニスター家の誰一人として、いまだ十分な「知恵」を身につけていないという点だ。

そしてこのドラマにおいて「無知」は必ずその報いを受ける

 

タイウィン・ラニスターは確かに賢い策謀家である。

しかし「ラニスター以外は全部敵」と言いながら、そのラニスターの中に最大の敵がいた、というか自らそう育ててしまったことの自覚がない。

ジェイミーもサーセイもティリオンも、もはや「ラニスター家のため」には動いていない。

サーセイはタイウィンにジェイミーとの関係を告白した後、「少しでも私たちのことを見ていたら気づいたのに」と口にした。

タイウィンが守ろうとしたのは「入れ物」であってその「中身」ではなかったわけだが、その「中身」が敵になってしまっては「入れ物」の存続どころではない。

タイウィンは賢いが、入れ物の中身を知ろうとするほど賢くはなかった

彼の受けた「無知の報い」は息子からもたされた死だった(しかもトイレで)。

 

 

サーセイ・ラニスターはいろいろと策謀に手を回してはいるが、あまり「賢い」キャラとしての印象はないように思う。

母としての無茶な言動や感情的な言動の印象が強すぎるからかもしれない。

しかし情報収集力と判断の速さはさすがのラニスター。

彼女が何を目指しているのかについては、なかなか難しい。

子供を最高権力者にしたい? それとも自分が権力を握りたい?

彼女については、子供への愛すら現実逃避で、実際のところは自分の思うように生き、好きな人と恋をして、嫌いな人を殺したいというのが本音(しかしそうできないこともわかっている)ではないかなと今のところは思っている。

結局彼女もタイウィンと同じように自分の子供たちに真剣に向き合う気はなかったし、その「報い」としてジョフリーはあんなふうに育ち、あんなふうに死んだ。

だがこれによって彼女のキャラクターが大きく変化したようには見えないため、まだ先がありそうだ。

 

 

ジェイミー・ラニスターについては、すでに「無知の報い」を片手を失うという形で受けているので、今後は脳筋路線を脱して分別を身につけていくのかもしれない。

S3後半からの好感度上昇ぶりは目を見張るものがある。

ヴァレリア鋼の剣が、エダード→タイウィン→ジェイミー→ブライエニーと渡っていくのが興味深い。

 

 

そしてティリオン・ラニスター

彼の最初の「無知の報い」は最初の結婚のとき。

あの体験は彼の人格形成に大きな影響を与えたことだろう。

そして二度目の「無知」は、(タイウィンがあそこまでの人だと気づいてなかったことに加えて)シェイの気持ちに寄り添えなかったことではないかと思う。

シェイを突き放したのは彼女の安全を願ってのことだとわかってはいるが、それでもあれは一方的にすぎたのではないかとわたしも感じた。

あそこでもう少し丁寧に彼女との関係を終わらせられていれば、少なくともシェイは死なずにすんだのではないかと。

彼の受けた「報い」は、父親と愛した人をその手にかけたこと。

ただしタイウィン殺害に関しては、そのうちティリオンの中で「報い」ではなく「誉れ」になる日がくるかもしれない。

そして彼がその「報い」を乗り越えることができたら、彼こそが無知の知」に開眼し、真の知者となっていくのかもしれない。

少なくとも現時点でいちばんそれに近いところにいるのはティリオンだろう。

 

処刑前にジェイミーと語り合った幼い日の親戚エピソードが興味深い。

人はなぜ無為に他者を殺すのか。人はなぜ無為に死んでしまうのか。

ジェイミーはいつしかそのことに興味を失うが、ティリオンは彼から目をそらさなかった。

観察し続け、それでもわからないと書を紐解き、それでも解決せず考え続けた。

そこが彼の強みだが、それすらも最大の強みとは言えない。

ティリオンの最大の強みとは、観察し、書を紐解き(過去の知への敬意)、さらに考え続けることに喜びを感じることだ。

彼はそれを楽しむことができる。楽しめる者は成長し続けることができる。

シェイとタイウィンを殺したことで起こる変化が、ティリオンのあの気質を損ねないことを祈るばかりである。

 

 

タイウィン、ティリオン、シェイの関係

ラニスター家の「無知」とそれに対する「報い」を整理していたら長くなってしまったが、とにかくタイウィンとティリオンの関係に話を戻したい。

先ほどティリオンの項で、シェイとの関係を丁寧に終わらせていればと書いたが、これはシェイがティリオンとの別れの腹いせにタイウィンの側についたという仮説に基づいている。

たぶんこの見方が正しいのだろうが、それとは別の仮説も立てられなくはないと思えたのでそれをメモしておく(といってもおそらく散々既出)。

 

シェイが最初からタイウィンの手先だったとしたら?

つまりティリオンは最初の結婚のときと同じことをタイウィンにされていたのではないかという仮説である。

シェイはラニスター軍のキャンプ地に来ていた(あるいは呼ばれた)娼婦の一人。

最初から、あるいはごく初期からタイウィンの指示でスパイとして動いていたという可能性もなきにしもあらずとも思える。

「次に部屋に入った娼婦は殺す」などというタイウィンの脅しも、ティリオンの気持ちを煽る方便だったのかもしれない。

キングスランディングでのシェイがあまりにも無防備に見えたのも、最初からタイウィンの後ろ盾があったからと考えれば納得できる。

 

実際のところ、普通に見れば最初の見方になるだろうと思う。

ただタイウィンとティリオン大好きなわたしとしては、後者だったらもっと燃える! と思っていたりする。

本編ではどちらともはっきりとは描かれてないように思うので、真相が語られるエピソードが来るようなことがない限りは好きなように想像してみたい。

 

ラニスター家への愛を語っていたらリトルフィンガーさんに触れられなかったのでまたの機会に。

タイウィンパパが好きな方はこちらの記事もあわせてどうぞ。

ssayu.hatenablog.com