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社会派ドラマかコメディか「ニュースルーム」感想01

海外ドラマ NEWSROOM

huluの新着にあったサムネからなんとなくジェレミー・クラークソン臭を感じとり、見始めたらとても面白かった。

主人公は知性もカリスマ性もパワーもあるけどスタッフからの信頼を失ったifジェレミーという印象だったかが、見ていくうちにちゃんと「ウィル」として認識できるようになった。

ニュース番組とは、報道とは、エンターテイメントとは? なんていろいろ考えさせるテーマを持ちながら、普通に人間ドラマとしても楽しめる、うまく作ってあるドラマだった。

以下S1までの(「トップギア」ファンから見た)ネタバレ感想。

 

アメリカにおける「暴言」

ドラマ冒頭で主人公が「暴言」を吐いて炎上するわけだが、あの発言が「アンチアメリカ」だと言われ炎上してしまうアメリカという国が恐ろしい。大学という場でF-wordを連発したことだけが問題というわけでもないはずだ。あれくらい、イギリスのテレビなら(というかジェレミーなら)毎日公共の電波で流れてないか? ジェレミーがダンスフォールドでの収録を見に来たアメリカ人に「ようこそ自由の国へ」と言ってたのもわかる。

……と思ったが、日本ならどうだろうか。ウィルほど乱暴な言葉を使わなければ、主張だけなら炎上はしないと思うのだがどうか。

 

HBOが最初から外国に向けて売り出すことを想定してドラマを作っているという前提であのシーンを見ると面白い。

おそらく多くのアメリカ人はウィルにドン引きし、多くの外国人はアメリカ人にドン引きする。それをわかっていてあんなふうに演出する製作者の姿勢に、ドラマ冒頭から一気に引き込まれた。

 

視聴者を「上げて」くるドラマ

「NEWSROOM」は面白い。同時にいろいろな面白さが平行している。

第一に、このドラマの製作者は視聴者をある程度信用している。そして自分たちが面白いドラマを作れるという自信を持っている。

ニュースシーンは実話にもとづいて作られており、それをめぐる議論もかなり本格的かつ専門的だったりする。ああいうシーンを退屈だと感じる視聴者もいると思われる(というかまさに「あんなニュースでは視聴者が離れる」と上役に言わせている)。

ドラマは意図的に「難しげ」に作られている。それこそを面白い・楽しいと感じる人が、このドラマの第一のターゲットだ。

ドラマの中で「(ニュース)番組がメイン視聴者層に理解される必要はない。5%が理解できればいい。その5%が世界を変える」というセリフがあった。エンターテイメントショーでこんなことを言わせるとは、ずいぶん思い切ったものである。しかしそのシーンまで見ている視聴者はそのドラマをある程度気に入っているわけで、「こんなドラマを楽しめる自分は世界を変える5%だ」と思わせられる。このドラマはちょっと知的な視聴者を「上げて」くれるのだ。

作中のニュースを100%理解できる視聴者は、アメリカ国内に限っても実際5%にも満たないだろう。わたしだってアメリカの地理や社会情勢についてほとんど知らない。だが全部を理解できなくてもいい。ニュースはマクガフィンとまでは言わないが、作中のサブエピソードの一つにすぎず、その中の1割でも理解できれば「ついていけている」と感じることができ、知的プライドを刺激してもらえる。

とはいえ、それでもやはり「固い」印象は否めない。huluでドラマの概要を読んだとき、どうやってこのテーマでエンターテイメントショーを作るつもりだろう? と思ったものだ。こんなテーマでドラマを作ることを決定した時点で、やはり製作者は視聴者のことを信用していると思えるし、ものすごい自信を持っているとも思える。

 

メディチックなキャラ造形とシナリオ運び

このドラマにおいて、ニュースはドラマを盛り上げるエピソードの一つである。時代劇でいえば殺陣であり、マフィア映画であれば撃ち合いである。

話の筋自体は、基本的に人間ドラマを主軸としたコメディだ。だからこそ(報道の現場自体にはそれほど興味がない人も含んで)多くの視聴者を引きつけることができる。

社会に対して問題提起をするとして、それを「ドラマ」という形で行うなら、多くの人に見てもらわなくては意味がない。HBOは過去に「The Wire」という傑作を放映している。あのドラマも問題提起を行いながら、本質的には謎解きあり撃ち合いありのエンターテイメントだった。ただしスッキリさせない形での。「NEWSROOM」はあれよりもう少し笑わせにきている。

まずキャラ造形がコメディっぽい。 

ウィルはジェレミー・クラークソンがテレビで演じている姿に似ている。知性もカリスマ性もパワーもあるリーダーけど頑固ですぐに同僚とケンカするし、本当はナイーブなところもある。まさにコメディよりの番組で求められる「リーダー」のキャラクターだ。

マックは最初はいかにも切れ者みたいな雰囲気で出てきたが、彼女はむしろコメディシーンを引っ張っていくタイプだ。そう思って見ると表情や間のとり方、声の出し方から仕草までコメディっぽい。中の人が映画「ピンクパンサー」で演じたニコルもかなり面白いキャラだったが、あれを彷彿とさせる。

ジム、ドン、マギーの三角関係に至っては完全にラブコメである。1話ですでにドンとマギーの関係は風前の灯に見えたので、すぐにジムとくっつくのかと思ったが、このエピソードをこんなに引っ張るとは。ドンはすぐ消える脇キャラかと思いきや、結構おいしいキャラだったし。

このドラマ、「報道とは」という難しげなテーマで包まれたコメディとして見るべきなのかもしれない。

シナリオ運びも、基本的にはトラブル発生→解決の流れでわかりやすい。テーマは難しくても、物語構造は近年のドラマと比べてむしろシンプルな方だ。だから視聴者はついていける。

 

狂気と情熱

これはジェレミー・クラークソンがイタリア車を語るときによく使う言葉だ。つまりイタリア車のすばらしさは、狂気と情熱を内包している点だというのである。

わたしはこの言葉を「NEWSROOM」に対して使いたい。

このドラマは知的な感じがするし、中身はコメディだし、どちらの面を見ても一級だと思える作りになっている。ただし、わたしにとってこのドラマの「面白さ」は、その狂気と情熱にある。

ニュースルームのキャラクターたちはみんな理想を持っていて、その理想に向かって走り続ける。その様子は引いた視点から見ればある種の狂気であり、しかし同時にその情熱に圧倒されもする。チームみんなが「いいものを作ろう」という空気を共有する、それをドラマの中で作り出すためには、やはりそのドラマを作る人の士気が高くなければ無理だろう。

これは番組を作る人たちのドラマだ。そういう意味で「狂気と情熱」は二重の意味でこのドラマに向けられる。理想の番組を作る人たちの「狂気と情熱」をこれだけ熱く面白く表現する、製作者たちの「狂気と情熱」、わたしはその両方が好きだ。

 

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