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意味から切り離された音「刑事コロンボ/攻撃命令」感想

Huluから刑事コロンボのS4以降が消えてしまうらしいということで、未見の作品を片っ端から見ていた。新シリーズというのだろうか、S8以降の作品も見たいのだが、お願いしますHuluさん。

終盤になるにつれて「ウチのかみさん」の言い回しが「my wife」から「Mrs. Columbo」になったり、回によってコロンボのパーソナルスペースが極小だったり(5-6「さらば提督」のコロンボ、くっつきすぎでは?)、微妙な変化が見られる。

今日は7-4「攻撃命令」について語ってみよう。ネタバレあり。

 

 

トリックはクソだがそんなことは些事

「攻撃命令」の犯人は心理学者のメイスン先生。これが旧シリーズ最低クラスの犯人で、よく学者になれたものだと思わせるレベル。なんだか立派な事務所のある職場で働いていたが、相手にしていたのは学生ではなかったし、心理学講義というよりはあやしげなセミナーという雰囲気。メイスン先生、心理学者よりも扇動家としての才能があるんじゃないのという話し方だった。あと何なのあの髪型。

肝心のトリックはコロンボ以外の刑事でも犯人にはたどりつけそうなもので、通話記録をたどれば一発でばれるだろとか、せめてあの場ですぐに救急車を呼んでいればもう少し難易度が上がったのにとか、コロンボが来る前から心配が尽きなかった(しかし今回は通話記録は問題にならず。殺人の証拠にはならないからか)。そもそも確実に殺せる方法ではないし、チャーリーが生きていた場合、すぐに通報しないことで大ピンチになりそうだ。この人たぶん奥さん殺しの方でも大したトリックは使ってないから、コロンボがもう一度調べればすぐボロが出ると思うぞ。

しかしそんなことはすべて些事。この話はトリックを楽しむものではないからだ。

 

キーワードを巡る心理戦

結局今回は「誰がやったか」ではなく「どうやったか」が問題で、しかも「どうやったか」も早い段階でばれて「どうやって犯人の殺意を立証するか」が問題となった。そういう意味で、コロンボがどんなふうに犯人に気づくかといういつもの楽しみ方はできない。

この回は結局、犯行を引き起こしたキーワードを巡る物語となった。自分を奮い立たせる「魔法の言葉」について、メイスン先生自らコロンボに語っている。

単語を聞いて、連想する単語を即答する「ゲーム」はサスペンスドラマなどでよく見るものだが、もしかして元ネタはこの話だろうか? それともこの話も別のドラマや映画からの引用だろうか?(なにしろこのエピソードは映画の引用が多い)

「正義 justice」から「仕事 work」を連想し、「苦痛 pain」から「失敗 fail」を連想するシーンは、コロンボの仕事観がうかがえて興味深い。

だがしかしこれらも全部、メインの前の些事だ。

 

映画の世界で輝くコロンボ

結局この話、ラスト10分のビリヤードシーンをやりたかっただけに違いない。往年の名作グッズに囲まれた中で、芝居がかかった調子で犯人を追い詰めていくコロンボは、これまでにないかっこよさがあった。わたしは「あのシーンのコロンボがかっこいい!」という一心で、この記事を書いている。

芝居がかりすぎて好みから外れるという人もいるかもしれないが、あれはわざと芝居がかりすぎているのだ。それが「映画狂」のメイスン先生を追い詰めるための最適解だったのだから。どれくらい「映画狂」かというと、殺人計画を立てるにあたって、映画グッズを血で汚さないために古い方の電話のコードを抜いておくくらいだ。あのせいで一瞬でコロンボに怪しまれただろ!

奥さんと浮気相手を半年の間に立て続けに殺し、飼い犬も殺そうとしていたのを知っているコロンボとしては(ちなみに視聴者はジョアンナまで殺そうとしていたことを知っている)、メイスン先生をうまく追い詰めれば自分を殺そうとするだろうと確信があったに違いない。

ビリヤードの玉がぶつかるカツンという音、玉が台の上を転がっていく音、それに合わせて言葉を選んで並べるコロンボ、わざとらしく重ねられる「sir」という呼びかけ(これについては犯人が男性の場合だいたいそうなるのだが、このエピソードではとりわけ sir が多い気がした)、勢いよく開かれる心電図(あの演出も好きだ)、「I must say, I found you disappointing あなたにはがっかりしたと言わざるをえない」「a lot of stupid lie バカみたいな嘘がたくさん」などという失礼なセリフ(コロンボは普段 disappointing とか stupid とかいう単語は犯人に向かって使わない)、どれも犯人を追い詰めるのに効果的だった。あまりにもかっこいい。カットのたびに玉の位置が変わっているくらいは些事である。

 

「バラのつぼみ rosebud」とかいうエロいキーワード(元ネタの意味的にも)を中年男性二人が言い合うのも面白い。最後にメイスン先生が犬をたきつけようとした後は、コロンボが「ローズむにゃむにゃ」みたいな感じできちんと発音してないのが笑える。メイスン先生の声の録音を流したときは「rosebu...」くらいで切っていた。あそこまで言ったら犬が反応してもおかしくない気がするが。

クライマックスのメイスン先生の顔芸は必見。

m9(`・∀・´) <ROSEBUD!!  からの、

Σ(`゚Д゚) <……  この顔である。

あと犬にじゃれつかれたコロンボの「Oh, yes, yes... yes. OK, that's it, now when I say that's it, that's it. All right, one more kiss, that's it」がかわいすぎて何度も聞いてしまう。まさかコロンボに萌えを感じる日がくるとは思わなかった6-1「ルーサン警部の犯罪」の、犯人のビデオで撮影してもらっているシーンの時点で萌えていたけど。

しかしあの犬たち、電話の音+「バラのつぼみ」+チャーリーの臭いに反応してかみつくように訓練されていたのだから、「バラのつぼみ」だけでコロンボに襲いかかったかどうかはもともと微妙なラインだった。というかコロンボは警察組織の一員なのだから(しかも天下のLAPDのルテナントである)、あそこでコロンボを殺してもどうにもならないはず。7-2「美食の報酬」の犯人と並んで、まったく stupid である。

 

その日本語タイトルはないだろ

海外ドラマを見ているとしばしばあることだが、今回は特にタイトルが残念なことになっている。

原題「How to Dial a Murder」は明らかに、ヒッチコックの「Dial M for Murder ダイヤルMを廻せ」のパロディだ。そのタイトルの背後でいかにもな古い映画グッズが並ぶのを見て、視聴者は「今回は映画にちなんだ話か」とわかるのである。邦題もそのまま「ダイヤルMを廻すには」でいいじゃんという感じだ。

 

聴覚効果

このエピソード、おそらく意図的に聴覚効果がふんだんに使われている。

冒頭の電話のベルの音に始まり、犬の鳴き声、メイスン先生の心音、受話器が外れた状態で出る音、ココアのカップが割れる音、風雨の音、キャラハン村でキイキイ鳴る鎖、そして最後のビリヤードの玉を突く音、玉がぶつかり合う音、転がっていく音、心電図の紙を開くときのシャッという音、どれも非常に効果的に配置されている。特に電話のベル、心音、受話器からの音、鎖の音の執拗な反復は、視聴者をも苛立たせる。

このエピソードが「言葉を意味から切り離し、音として扱うこと」というテーマを内包している以上、これらの聴覚効果もテーマと無関係ではあるまい。

「KISS」と「KILL」を逆の意味で犬に認識させるというのはちょっと危険な訓練(慎重になって「今、えっと、K-I-S-S と言いましたが」と言うコロンボがかわいい)だが、犬が「KISS」と「KILL」という似た単語をきちんと聞き分けられるとしたらすごい。実際には、誤認を防ぐためにまったく違う音を使って訓練しているのだと思うが。

 

いろいろとこだわりと工夫が見られる面白い回だっただけに、なぜ犯人だけがここまでクソだったのかという点だけが惜しまれる。

 

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