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極上のカーポルノ&ミュージックビデオ「ベイビードライバー」感想

「ベイビードライバー」を見てきた。

先日「スパイダーマンホームカミング」の前座?として流れたプロモ映像に度肝を抜かれ、わくわくしながら見に行ったところ、思った以上にフェチ心をガンガン突かれる映画だった。

なるべくネタバレせずに感想を書いてみたい。なおこのブログを書いているのはBBCの「トップギア」およびAmazon Primeの「グランドツアー」の大ファンだが、わたしが車に興味を持ったのは「トップギア」がきっかけでありそれ以前にはほとんど何も知らず、ジェレミー、リチャード、ジェームズ以外にわたしに車に関する教育を施してくれた人は存在しないため、知識も嗜好も猛烈に偏っていることをあらかじめお断りしておきたい。

 

本題に入る前に、まずはこのプロモ映像を見てほしい。これに心ときめかないような人は映画も見なくていい。これを大画面で見たいと思ったら、映画館でやっているうちに行ってきた方がいい。

 

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ストーリーの魅力について書こうとするとどうしてもネタバレになるため、まずはこの映画の魅力を二つ語る。

この映画は、半分がカーポルノで半分はミュージックビデオだ。それはこのプロモ映像からもわかるはず。

というわけでいってみよう。

 

極上のカーポルノ

車 が エ ロ い。

↑のプロモ映像だけでも、最初に走りだすシーン以前からボディに艶めかしく反射する☆マークやビルの窓のラインがエロい。

走り出したときの鼻先からケツまでを撮るワンショットがエロい。ていうか何だよあのかっこいいターン。一瞬で心をもっていかれたわ!!!

路地でトラックを避けるときのハンドブレーキターンの捻りがエロい。あの角度から撮ってくれて本当にありがとう。あまりのことにその場で立ち上がるところだったわ。

リアを振って走り去るカットがエロい。一瞬入るタイヤロックのカットに痺れる。ボディを流れていく光の撮り方がエロいし、リアウィンドウに一瞬差し込む青い光なんて最高だ。

スバル・インプレッサVWジェッタとシボレー・クルーズが並走するシーンなんて「トップギア」「グランドツアー」ファンならたまらないはず。三台並走はロマン。

 

ハンドブレーキを引いたりギアチェンジをしたりする動作や、ステアリングを握る手、ペダルを踏む足のカットを小まめに入れてくれるのもポイントが高い。全部、本当に全部あの場に必要なカットだし、どのカットも本当に胸を高鳴らせてくれる。しかもタイミングが最高。

そしてこれは100%「トップギア」によって植え付けられた性癖なのだが、ここぞというところでカットインするエンブレムに大興奮してしまう。しかもこのプロモ映像ではそれがスバルのエンブレムである。ああたまらん。もうだめ。どうにでもして。

 

……という感じのショットが延々二時間続くのだ。これから見に行かれる紳士諸兄は、どうか心を落ち着けて(無理だと思うが)見てほしい。

 

 

極上のミュージックビデオ

さっきのプロモ映像を、心を落ち着けてもう一度見てほしい。すべての動作と効果音が、Bellbottoms の音に合わせてつけられているのがわかるはず。

銀行強盗が終わるまでだけではない。ドアの開閉も、ハンドブレーキやステアリングの操作も、信号のかわるタイミングもそうだし、パトカーのサイレンは Bellbottoms のテンポに合わせて鳴るし、スキール音も音楽に合わせた効果音として入るし、何もかもが完璧である。

映画ではしばしばある手法だが、ここまで徹底するのかという話である。冒頭の6分だけではなく、この先全部がこうである。ただ町を歩くシーン(サタデーナイトフィーバーのオープニングみたいだった)から銃撃戦まで全部こうである。凄まじいフェチズムを感じる。

一部では世界初のカーチェイスミュージカルと言われているようだが、まったくそのとおりである(ついでにガンアクションミュージカルでもある)。

現在Amazonでは輸入盤CDランキング1位を「ベイビードライバー」サントラが獲得しているようだが、これを見てサントラを買いに走りたくなる気持ちはよくわかる。あれを流しながらドライブしたら最高だと思うし、ベイビーよろしくイヤホンであれを流しながら町を歩くだけでも日常が刺激的になるだろう。

 

さて、ここから下は映画本編の内容(というかベイビーの設定)に少しだけ触れるため、真っ白な状態で映画に臨みたい人は去るべし。

 

 

 

 

 

 

いいかな?

 

 

 

 

音の作る主観性

この映画、全編通してベイビーの耳に入ってくる音をそのまま流すという演出がとられている。そこにはベイビーの意識によるフィルターも大いにかかる。これがとても面白い。

イヤホンを両耳で使っている間は爆音で、片耳で使うときは(このシーン、どちらも最高なんだ)環境音も入れながら。イヤホンを奪われると、音楽もブツリと途切れる。

そしてベイビーには、かつて経験した事故のために、音楽を流していない間はつねに耳鳴りが聞こえているという設定がある。これも映画の中で実際に聞こえている。ベイビーがイヤホンをつけていない間はほぼずっとだ。

さっき、↑のプロモ動画を貼るときに気づいたが、冒頭からインプレッサが停車するまでの間(つまりベイビーがまだイヤホンをしていない状態のとき)も、BGMに重ねられて耳鳴りの音が入っている。

この音が結構キーンとくるのでややつらいのだが(とはいえ「耳鳴りが鳴っている」ことを視聴者に伝えたあとはフェードアウトしてくれることが多い)、この音も含めてベイビーの主観を伝えていることが大事なのだ。視聴者がつらいときは、ベイビーもまたつらいのだ。

この映画において音楽は、そのままベイビーの心理状態を表している。あまり言葉を発さない彼は、しかしその音楽+耳鳴りで、雄弁に内心を語ってくれている。

視聴者は、主人公の聴覚的主観と一体化することで話にのめりこむことになる。これこそミュージカルの精神と言えるのではないだろうか。

 

というわけで、車好きなら今すぐ見に行くべきだし、音楽好き&ミュージカル好きならぜひこれを映画館で体感するべきだ。

健闘を祈る。

 

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