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サンサとティリオンを比較する「ゲームオブスローンズ」S7E7感想

先日に引き続き、今日も最終回の感想と考察の続き。

(前回記事はこちら

一日たてば落ち着くと思ったけど悪化したわ!!!

考えれば考えるほどあの二人の関係は萌えるけどつらいわ!!!

というわけで以下はネタバレと妄想を含む、ピーター・ベイリッシュとサンサ・スターク、あとティリオン・ラニスター語り! 酒は入ってません!!! わたしは素面です!!!

 

 

 

「親殺し」のモチーフ

「ゲームオブスローンズ」には、いわゆる「親殺し」のモチーフが随所にみられる。

真っ先に思いつくのはタイウィン・ラニスター。それにルース・ボルトン、ベイロン・グレイジョイ。このあたりは「子供に殺された親」そのものである。

疑似的な意味で言うならば、ネッド・スタークは「乗り越えられるべき親」像の典型だし、ジオー・モーモントやアリザー・ソーンとジョン・スノウ、ハウンドやジャクェン・フ=ガーとアリア、三つ目の鴉とブランの関係などもそれに含まれるだろう。

「親殺し」は成長譚には不可欠と言ってもよく、それくらいありふれたモチーフだ。

S4鑑賞後、わたしはティリオンのタイウィン殺しについてこう書いている。

親を乗り越えて「大人」へと成長するための、「少年」にとっての通過儀礼――というにはいささか深刻すぎる、文字通りの「親殺し」であった。

ティリオンは生まれると同時に母を、そして大人になる際に父を殺したわけだ。

無知とその報い「ゲームオブスローンズ」感想・S4まで - なぜ面白いのか

 

そしてそのありふれたモチーフは、サンサにももちろん用意されていた。

7-7におけるサンサとリトルフィンガーの物語は、4-10におけるティリオンとタイウィンとの関係と非常によく似ている。

ティリオンからタイウィンへの愛情も敬意も本物だったのと同じように、サンサからピーターへの愛情も敬意も本物だった。だからこそのあの涙である。わたしはそこを疑っていない(それが世に言う「恋愛感情」なのかどうかについては議論の余地があるとは思うが)。

 

しかしそうでありながら、彼らの「親」は彼らに対してどうしても許せない仕打ちをした。

タイウィンは「無実だとわかっていながらティリオンにジョフリー殺しの罪を着せた」こと。

ピーターは「ライサを操ってジョン・アリン殺人事件を起こしキャトリンへの手紙を使ってネッドをキングスランディングにおびき寄せネッドに協力すると見せかけてネッドを裏切り(以下数十行省略)サンサとアリアの仲まで引き裂こうとした」こと。

自己のアイデンティティの根幹を揺るがすようなこの仕打ちに、ティリオンもサンサもなんとかして抗う必要があった。たとえ相手がかけがえのない愛する人であったとしても、「自分が自分であるために」、彼らは「親殺し」をしなくてはならなかった。「子供」の状態から脱皮して「大人」にならなくてはならなかった。

 

サンサの「卒業試験」

サンサにとってそれはある種の「卒業試験」だった。

キングスランディングで彼女は、北部では学ぶことのできないレベルの権謀術数に触れた。北部の信じる善性は素晴らしいけれど、それでは太刀打ちできない数々の相手がいることを彼女は知った。

ジョフリー、サーセイ、ティリオン、タイウィン、ヴァリス、ハウンドやマウンテン、それにオレナやマージェリーも、サンサの師だった。

そして誰よりも、ピーター・ベイリッシュこそが彼女の師だった。彼女が弟子入りをしてピーターがそれを受け入れたのは、S4でピーターによるライサ殺害の罪をサンサがかばったとき。

キングスランディングにいる頃からピーターは何かとサンサを守ってきたが(原作ピーターが「サンサはジョフリーの結婚相手としてふさわしくない。タイレルのところのマージェリーと結婚させては?」と提案し、自ら婚姻の交渉に出向いていたのには驚いた。あの頃からずっと守ってたんだな……)、本格的な「師弟」関係あるいは「疑似親子」関係になったのはこのときからだ。

 

以降二人は守り守られる共犯関係を結ぶ。二人は「師匠と弟子」であり「疑似親子」であったが、この意味で対等な関係でもあった。

ピーターはサンサに知恵を授け、策謀のいろはをすぐそばで実践してみせ、学び成長を見せる彼女を褒め、助けを求められれば颯爽と駆けつけた。

サンサはピーターの命を救い、アイリーを掌握させ、北部へとその勢力をのばすのを助けた。

そのすべてがピーターの野望の足掛かりだということ、彼が彼女を利用しているということも承知した上で、サンサはピーターのそばにいた。北部には、ピーター以上に頼れる人はいなかったからだ。

ネッド・スタークはサンサを守れなかった。

ジョン・スノウも無理だった(バトルオブバスターズ、ピーターがいなかったら負けてたし)。

ラムジーボルトン? 論外である。

「戦う場所は北でも南でもない」というピーターの教えは、S6以降のサンサにとってまったく正しかった。彼女はウィンターフェルでこそ戦わなければならなかった。ウィンターフェルで戦う彼女にとって最大の武器であり味方だったのがピーターである。これは間違いない。ジョンはサンサの味方にはなってくれなかった。

 

ここまでピーターとサンサの「師弟」あるいは「疑似親子」関係について説明してきたわけだが、それを踏まえてもう一度、あのサンサの涙を見てほしい。これまでスターク目線で物語を追ってきた人にこそ見直してほしい。

 

「俺はあなたの息子だ。ずっとあなたの息子であり続けた。 I am your son. I've always been your son.」

ティリオンがタイウィンを殺したときのこのせりふにあたるのが、

「たくさんの教訓をありがとう、ロード・ベイリッシュ。決して忘れません。 Thank you for all your many lessons, Lord Baelish. I'll never forget them.」

このせりふだと思うのだ。ティリオンのせりふにさらに対応させるなら、

「私はあなたの弟子です。これからもずっとそうであり続けます」

こうなるだろうか。

臣下や諸侯の手前、これが彼女にとってギリギリのラインだったのだろう。

ピーターのもとで学んだサンサが、ピーターの教えをもとにピーターを殺す。それが彼女にとって "all your many lessons" を完成させるための「卒業試験」だった。

 

とてもよく似た過酷な「親殺し」を経験したティリオンとサンサの二人が、キングスランディングでは結婚していたというのが面白い。

そしてピーターがタイウィンの死を予言するようなことを言っていた(「トイレで死ぬ者も」云々)のも面白い。

 

 

ネッド・スタークへの皮肉

ピーターの死後、サンサとアリアがネッドのことを思い出すのは皮肉がきいている。二人とももうネッドの理想とする「北の人間」とはほど遠い。ほど遠くなったからこそここまで生きのびたのだ。

リトルフィンガーの笑い声が聞こえてくるようではないか。

――自分が育てた彼女はこんなにも美しく、賢く、狡猾に、北を率いる「女王」として完成した。ネッド・スターク、お前にはできなかったことを私は成し遂げた。  

"I..." には何が続いたか?リトルフィンガーの「ゲームオブスローンズ」S7E7感想 - なぜ面白いのか

先日書いたこの言葉、わたしは自分でも気づいていなかったが、これこそがピーターが危機を察知していながらウィンターフェルを早々に去らなかった理由の一つではないかと思う。

「ネッド・スタークのかわりにウィンターフェルとスタークの子供たちを守る」、「ネッド・スタークの理想とはほど遠い形でスタークの娘を完成させる」これがピーターがネッドに仕掛けた最後の復讐だった。自分から愛する人を奪った男にできる復讐としては最高の形に近いとわたしは思う。

ある意味でピーターの勝ち逃げである。

サンサが生きている限り、ピーターの勝ちである。

 

 

リトルフィンガーは「何」に負けたのか

ピーターはウェスタロスに生きる男性のうち唯一、戦闘力ゼロのかわりに知力に全振りして、一発殴れば死ぬ常にHP1のようなキャラクターである(実際一撃で即死だったし……)(追記:あっ唯一じゃなかった、戦闘力ゼロの男性キャラならサムとブランもあてはまる!)。

ただしこれまで、その一発殴ってくるようなキャラクターは誰もピーターにかなわなかった。ネッドもロバートもタイウィンもサーセイ(部下に囲ませた実績あり)もジェイミーもジョフリーもジョンもティリオンさえも、とにかく「戦闘力」という意味での「強さ」をそなえたキャラクターは、全員最終的にはピーターを倒せなかった。

(地下墓地でのジョンとの諍いは、「ジョンにリトルフィンガーは倒せない」ことをはっきり示すためのものでもあったはず)

それは彼の出発点が「挫折」にあり、その「弱さ」こそを武器にしているからだ。子供の頃につけられた「リトルフィンガー」という(娼館の主としてはあまりにもアレな)あだ名すら、彼は武器にした。細身で小柄な体型も、家柄の低さも、彼は武器にした。

誰もが彼を侮り、本気で相手にしない。視聴者ですらそうだった。

S4でピーターこそが「ゲームオブスローンズ」の「プレイヤー」だったことが明らかになって以降も、彼を「小物」と侮る視聴者のなんと多かったことか。それが彼の作戦の妙であり、エイダン・ギレンの演技の凄まじさでもあるのだが、正直ちょっと見ていて歯がゆいものがあった。

 

強い人間にはピーター・ベイリッシュを倒せない。

彼を倒せるのは、力を持たないサンサだけ。

ピーター・ベイリッシュの脅威を正確に理解できるのは、ピーター・ベイリッシュの教えを受けた彼女だけ。自分の弱さや無力さを知っている彼女だけ。ピーターと同じように「挫折」から出発し、その挫折を「力への渇望」に向けなかった彼女だけ。

誰よりも自分を理解し、評価してくれた、愛する弟子だけ。

 

"I beg you" のポーズになってからの、ピーターとサンサの一問一答のやりとりと、そのときのピーターの表情を見てほしい。

「子供の頃から君の母親を愛していた」「そんな彼女をあなたは裏切った」

「きみのことも愛していた」「そんな私を裏切った」

サンサの答えにそれぞれ一瞬、「そう、それで正解だ」「よく成長したね」という顔をしている。

ピーターの涙が本物だとしても、あれは同時にサンサの「卒業試験」だった。

彼女は合格した。彼女はベイリッシュとして完成した。

ピーターは「ベイリッシュ」に負けたのだ。

 

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