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雷神降臨「マイティソー バトルロイヤル」感想

 「マイティ・ソー バトルロイヤル(原題:ラグナロク)」を見てきた。

客席のあちこちから終始くすくす笑いの漏れる、楽しい映画だった! これまでの「ソー」のシリーズとはまた一味違う、しかしソーの「雷神」としてのアイデンティティが過去作のどれよりも発露した「ヒーロー映画」だった。

ソーとロキの兄弟がどうなるのか前作から気になっていたわけだが(前作の終わり方だと悲劇的な結末ばかり想像してしまって)、なるほどそうなって「インフィニティウォー」になだれこむのかとひとまず納得。

以下はネタバレ感想。

 

 

カミナリ様かっこいい……

とにかく今作で最も痺れたのは、雷を生み出すソーの新しい戦い方。序盤で(というか予告編ですでに)ムジョルニアを破壊され、闘技場では剣を手にしたソーは、これまでの脳筋ハンマー野郎のイメージとは異なる戦い方を見せた。

考えてみるとハンマーを使ったバトルの演出は、過去作とアベンジャーズシリーズですでにかなり練られており、やり尽くされてもいる。ソーといえばハンマーというイメージを捨ててでも、新しい戦い方を見せたかったものと思われる。

マーベルヒーローはバトルスタイルがそのままキャラの個性になっているから、キャラの成長に合わせてバトルスタイルが変わり、それに合わせてカメラワークや諸々の演出が変わるのもアリだと思う。「アイアンマン」シリーズなんて毎回バトルスタイルが変わるのが見どころだし。

 

惑星サカールで散々 "Lord of Thunder" を "God of Thunder" と訂正する場面を経て、本当に "God of Thunder" として覚醒するのは、ベタだけど「待ってました!」感があって好きだ。

結局ムジョルニアは "God of Thunder" として独り立ちするための補助輪的なものだったわけか。ソーがコーグにムジョルニアでの戦い方を説明するシーンで、明らかにムジョルニアが「元カノ」扱いだったのが笑えると同時になかなか象徴的だ。ジェーンと別れてしまったようだしね……。

今作もいわゆる「親殺し」パターンの一種にあてはめて考えることができるストーリーラインだが、その場合の「親」はオーディンでもあり、ムジョルニアもまた「ソーが乗り越えるべきもの」として破壊された。しかしオーディンとムジョルニアが示した道筋はソーの中に生き続け、彼は真の雷神として、「アスガルド」の守護者として成長するのだった……。めでたしめでたし。

しかしほぼとばっちり(というにはソー、ロキ、ハルクに干渉しすぎか)で壊滅した惑星サカールは復興までに時間がかかりそうで、あまりめでたくない。今作は舞台がニューヨークでもロンドンでもなく、ほかの星だからってめちゃくちゃやりおって……。派手なアクションが楽しかったからいいけど!

 

 

キャラクターの変化と成長を描くための「コメディ」

今作の登場人物、まずヴィランが実の父親に利用されて封印された長子だし、革命に失敗した革命戦士だの、ヴァルキリー最後の生き残りだの、地球から逃げ出して2年もたっていたハルクだの、とにかく深刻な事情を抱えたキャラばかりだ。

もちろんソーとロキは因縁を抱えた兄弟で、しかも前作でロキは父オーディンアスガルドから追放している。アベンジャーズ界でも屈指の深刻なファミリーである。

さらに今作では神々の黄昏ラグナロクが描かれ、なんとアスガルドは本当に崩壊してしまう。ラグナロクを止める話だと思っていたらラグナロクを起こしてしまった!

これ、描き方によっては、というか普通の描き方なら、相当シリアスな映画になっていたところだ。この筋書きならいくらでも古典的悲劇に仕立て上げられる。古典的悲劇につきもののキャラと設定が満載だとも言える。そりゃそうだ、だって「マイティ・ソー」は北欧神話が元ネタだし、1作目の兄弟なんてシェイクスピアみたいだったわけで。

だが今作はその悲劇臭が相当抑えられていた。むしろコメディ映画か? と思えるくらい、笑いの散りばめられた作品だった。どうしてこの筋書きをあえてこのテイストでやったのか? ちょっとそこのところを考えてみたい。

 

メタ的な理由

まずはこれ。

「バトルロイヤル」は「マイティ・ソー」の3作目であると同時に、「インフィニティウォー」に至るためのプロローグでもある。そして「エイジオブウルトロン」の後日談でもあるし、「シビルウォー」の裏話でもある。この話だけで完結する物語ではないわけだ。

となるとほかの作品との兼ね合い、バランスなどを考慮しなければならない。おそらく今作は「シビルウォー」の「裏」としての意味が多分に含まれている。あれはキャプテンアメリカとアイアンマンの対立を真向から描いた、かなりシリアスな話だった。それに対して今作は、ソーとハルクが戦うシーンはあるものの、それは「シビルウォー」で描かれたような「対立」ではなく、共闘へ至るための前フリである。いろいろな意味で「シビルウォー」とは対照的に作られた作品だから、両者をじっくり比較すると新しい発見がありそうだ(誰か頼む)。

なお悩むソーの話を聞くハルクという構図が、もうどうしても笑えてしまう。ハルクはどう考えても相談役って柄じゃないし、ソーの知能に合わせると相手役はハルクしかいなかったのか、などとひどいことを考えてしまう。トニーの相談相手はバナー博士だったのにね……この扱いの違い……。

ハルクがバナー博士に戻ったあとの二人のかみ合わなさも笑える。ソー、ジェーンと付き合っていたのに博士号が何なのかわかってないでしょ……。

 

-----(追記)------

こう書いたところ、ソー好きの妹から「ソーは馬鹿キャラでは決してない」と異議が入ったのでちょっとフォロー。

確かに彼は難しい状況に直面するたびに彼なりに打開策を練って成長し続けてきたわけで、やることなすこと裏目に出るみたいなタイプではまったくないし、本質を捉える嗅覚も持ち合わせている。

ただかなり知的水準の高いトニーやバナー博士たちと一緒にいると、その鋭さの方向性が全然違うのが面白いし、彼を愛すべきキャラにしてくれているところだとも思う。

……という感じで許してください。ソーとハルクの妙にかみ合う感じと、ソーとバナーのかみ合わない感じの差が面白かったんだ!

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自分の分身に乗っ取られていたバナー博士と、自分の分身ともいえるハンマーを失ったソー、アイデンティティクライシスを抱えた二人の珍道中、クリス・ヘムズワースはそれを「まるでロードムービー」だと言っているが(パンフレットより)、言い得て妙である。

 

父からの愛

メタ的理由ではなく作中で語られた必然性についても考えてみたい。

前作があんな引きで、今作はその流れで序盤からオーディンが死んでしまうわけだが、その割に兄弟の争いはそこまでクローズアップされなかった。それどころかロキは本気でソーを殺しにかからないし、ソーもロキと並んで生きていくことにしたようである。結局今作が終始コメディテイストで進行できたのは、兄弟の争いがメインではなかったからだ。

ではなぜそうなったのか。最大の理由は、オーディンが二人に残した言葉だろう。

"I love you, sons."

複数形でそう呼ばれた直後のロキの表情が胸にきた。前作で「父上のためじゃない」と口にしたロキだったが、結局「父親」からの肯定によって「ヨトゥンヘイムのロキ」から「アスガルドのロキ」に戻ることができたのだと思われる。パパがもうちょっと早くそれ言っててくれたらなあ!

また今作でソーはロキのことを "God of Mischief" (悪戯の神)と呼んだ。その呼び方はもう、殺し殺される関係性を示唆していない。

 

また1作目から、ソーの成長は著しい。

傍若無人な若者が王になる者としての自覚を促される1作目、思い悩むシーンの多かった2作目、そして "Son of Odin" から "God of Thunder" へと成長する3作目。そのポジションにある3作目で、1作目のような古典劇をやっていてはいけないのだ。それではソーの成長を描いたことにならない。

ロキの悪戯を見切って「俺は成長している」と言ったソー。「お前は悪戯の神のままか?」と問われたロキの内面は、詳しく描かれることはない。だが最終的に、ソーに頼まれたとおりスルト眉毛冠を火にくべたこと、ソーの前に「本物」が現れたことが、少なくとも今作における答えなのかなと思っている。気まぐれな彼のことだから、次作でどうなっているかはわからないが。

 

一点気になるのが、バナー博士はどうなってしまったのか問題。最後に体を張って笑いをとりにきたバナー博士だったが、あのまま戻れなくなってしまったら悲しすぎる。インフィニティウォーではまたトニーの相談相手になってあげてほしい。「アベンジャーズ最強」で認証パスするようにトニーが設定しているところを想像すると面白い。

 

そのほかのお気に入りシーン

・"Son of Odin" と呼ばれて "Son of... a bitch" と返すソー

その発想はなかった。話し方も単語のチョイスも、ミッドガルドに染まっていく兄上がかわいい。

 

・"Des" と "Troy" がまさかの大活躍

スカージは今作だけの登場になるのが惜しいくらいの良いキャラだった。アスガルドで近代兵器が炸裂する様子、ヴァルキリーの持つサカール製兵器とも合わさって、世界観のめちゃくちゃぶりが楽しすぎる。

 

グランドマスターがよすぎる

何なのあの人の喋り方……。正直彼が口を開くたびに、何を言っても面白すぎてダメ。「ガーディアンズオブギャラクシー」のコレクターと兄弟設定だったとか。あのあとどうなっちゃうんですかね。

 

・ヘラの変身シーン

髪を後ろに流すやつ。あれ真似してしまうわー。

 

・大剣ズルズル

「キングアーサー」で大剣を地面に擦りながら歩くのが性癖だと気づいたわけだが、スルトが冒頭でやってくれていてわたしの萌えセンサーが反応した。

 

・アヌス連呼

神様たちに何言わせてるの!! 前作では全裸中年男性がウロウロしていたし、マーベルはソーシリーズをどうしたいの!!

 

 

あと何かあった? また思い出したら追記しよう。本日は以上!