本日はホットラインマイアミの考察メインで書いてみたい。
最初に断っておくと、この作品はさまざまな解釈が可能なように作られており、わたしの中にもいくつかの解釈が存在する。プレイヤーの行動次第で生死の分かれるキャラクターも多く、つまりそれ次第でジャケットやバイカーの「ポリシー」も揺らぐのである。
一応2で採用された「正史」はあるものの、1を単独の作品として考えれば「正史」以外にもいくつもの説が考えられる。わたしはそれらも「不正解」ではないと思うし、あれこれ考察が広がっていくことこそこの作品の素晴らしい点だと思っている。
というわけで、もうすでに散々考察されまくっているであろう今作に、わたしなりの一解釈を加えてみたい。
わたしはすでに2を途中までプレイしている。この記事では2で採用された「正史」を前提に考えてみたい。
1だけではなく2のネタバレも大量に含まれることに注意されたし。
ネタバレなし感想はこちらから。
まずはわたしの考察の要点をまとめておきたい。
1. リチャード、ラスムス、ドン・ファンは、それぞれジャケットの自我、エス、超自我にあたる
2. リチャードたちは昏睡状態にあるジャケットを治したい
3. そのため彼らはジャケットの過去の記憶を整理させた
4. 3. の結果、ジャケットは6月8日までの出来事を回想する
5. 5月23日、ジャケットはバイカーとの戦いで頭部に重傷を負うが、自力で帰還する
6. 5. の影響でジャケットは思考が途切れたり幻覚を見たりするようになる
7. 6. の結果、ジャケットは電話の指示の幻聴を聞いてマフィアを殺しにいく
8. このときジャケットは実際にはマフィアではなく一般人を殺していた
9. 一般人を殺し始めたジャケットを危険視した50の祝福が、ジャケットを始末しようとした
10. ジャケットの起こした事件の全貌は、警察もジャケット自身も把握できていない
まとめたのに長いぞ!
それではひとつずつ見ていくことにしよう。
1. リチャード、ラスムス、ドン・ファンは、それぞれジャケットの自我、エス、超自我
内面世界における三者面談とくれば、真っ先に思いつくのはこれである。三つの機能はおおよそ三人のキャラクターに当てはまる。
用語の解説はWikipedia先生にでも任せることにして、一応補足しておこう。
リチャード=自我
ジャケットくんの意識とはまた別物。外界からの刺激を調整する。
ラスムス=エス
本能的欲動。ラスムスには特に攻撃性が現れているような。
ドン・ファン=超自我
「ルール・道徳観・倫理観・良心・禁止・理想などを自我とエスに伝える」とWikipediaには書いてある。
わたしは専門家ではないので誰がどれにあたるかについては個人的見解の域を出ないが、誰がどれにあたるとしても要するに三人ともジャケットくんの意識下に存在するものだと思われる。
なおわたしは、ジャケットくんの意識は真相にたどり着いていないが、意識下において自分に電話をかけてきている者への疑惑を抱いているものだと考えている。
だがジャケットくんにとって真相などどうでもいいことである。彼はロシアンマフィアを殺したいから殺しているのであって、誰から指示が出ているかとか黒幕は誰かなどということは、たとえ無意識のうちに気づいていたとしても見ないふりをしてしまうのだろう。
だからこそ「リチャード」は真相に気づいているようなことを言いながら、「お前」は真相にはたどり着けないと告げるのである。
2. リチャードたちは昏睡状態にあるジャケットを治したい
ジャケットくんはリヒターさんに胸を撃たれて一か月以上昏睡状態にある上、バイカーくんとの戦いで頭部にも重傷を負っている。
リチャードたちはジャケットくん、つまり自分自身を治すために活動を開始した。
3. そのため彼らはジャケットの過去の記憶を整理させた
要はセラピーである。外から見れば普通に自己治癒能力の一環である。
昏睡状態のジャケットくんは自分が何者か、何をしてきたかも覚えていなかった。その記憶を復元するために「三人」はジャケットくんの「意識」をあの部屋に呼んだ。
プレリュードで描かれる最初のミッション後にジャケットくんが吐いてしまった件は、アメリカ人をロシア人から守ろうとしていたジャケットくんが一般人を殺してしまったことを嫌悪したからという説が根強いようだ。わたしもこれはありえると思っている。
ただ、もしかすると「三人」による荒療治にジャケットくんの「意識」が耐えられず、昏睡中のジャケットくん「本体」が病院のベッドの中で吐いてしまった可能性もあると思っている。
4. 3. の結果、ジャケットは6月8日までの出来事を回想する
ゲーム本編のPart 1からPart 3までがこれにあたる。
自我であるリチャードがニワトリのマスク姿をとったのは、4月3日を「記憶の起点」としてもらうため。
2の内容をふまえると、リチャードは1985年と86年の記憶は取り戻さなくてもいいと言っているかのようだ。思い出してもつらいだけで、症状を悪化させかねないからである。ただ意識が戻った時点で、ジャケットくんはすべてを思い出したと思われる。だからこそ病院を脱出し、マフィア壊滅のために走り、最後にあの写真を投げ捨てたのではないだろうか。
ジャケットくんを「治す」、あるいは「癒す」ために、彼の体は彼にビアードの幻を見せた。ジャケットくんの行く先々に現れ、ジャケットくんに優しい言葉をかけてくれる存在。2をプレイすると、ビアードはジャケットくんの命の恩人だということがわかる。そんなビアードがジャケットくんの「セラピー」に現れるのは、ある意味当然なのかもしれない。
また「ここで起こっていることはすべて現実ではない」という衝撃の「事実」を伝えるのもビアードの役目。受け入れるのが難しい言葉でも、ビアードに言われたなら受け入れられるかもしれないというリチャードの配慮である。
リチャードがジャケットくんに数々の質問を投げかけるのも、すべて彼を治すため。自分がどういう状態にあり、これまで何をしてきたかを思い出させるため。必要な記憶が揃い、精神状態が整ったところでジャケットくんは目覚めるのである。
5. 5月23日、ジャケットはバイカーとの戦いで頭部に重傷を負うが、自力で帰還する
ジャケットくん視点とバイカーくん視点でそれぞれ結果が異なる場面。2では両者生存の未来が描かれるため、実際にはここでは相討ちとなったものと思われる。
作中で描かれるジャケットくん視点でのバイカー戦は、昏睡状態のジャケットくんが見ている回想(ほぼ夢)だから、実際にはバイカーくん視点の方が現実に近かったのかもしれない。
それぞれの視点でバイカーくんのセリフが異なること、ジャケットくん視点では勝利後に音楽が切り替わらないが、バイカーくん視点では勝利後に音楽が切り替わる点にも注意したい。
実際にはジャケットくんはあの後どうにか自力で帰還し、自分でもしくはフッカーの手で手当てをする。ただし手当ては完璧ではなかったため、入院時のジャケットくんは頭に包帯を巻いていた。
6. 5. の影響でジャケットは思考が途切れたり幻覚を見たりするようになる
これは夢の中の話ではなく現実において。
一方回想シーン(=プレイヤーの見ているゲーム本編)においては、現実と回想にズレが生じたせいで世界にノイズが入ったり、バグが起こったりするようになる(バイカーくんの死体が現れたりするアレ)。
またこのズレの影響でジャケットくんの「治癒モード」もうまく機能しなくなり、ビアードのかわりにリヒターさんが店に現れるようになる。リヒターさんはジャケットくんにとって、フッカーの仇であり自分を撃った張本人でもある。そのため現実のリヒターさんよりもずいぶん凶悪なイメージで夢に現れる。
7. 6. の結果、ジャケットは電話の指示の幻聴を聞いてマフィアを殺しにいく
これも現実において。またおそらくその現実をふまえて構成された回想においても。
あれだけ内面世界が綻んだジャケットくんなのだから、幻聴くらい聞こえるようになっていてもおかしくないように思うのである。
この問題を考えるにあたり、作中に気になる描写が二点ある。
①「録音メッセージが1件あります。ピー」という音声が出ないことがある
Chapter 3(フッカーと出会う章)、4、5、6、7、8、10、11においては、ジャケットくんが電話をとるといきなり指示が始まるのである。
もしかするとそれはジャケットくんが直接電話に出たというだけのことかもしれない。だが録音メッセージではない電話は、全部ジャケットくんの幻聴の可能性もある。
録音されていないメッセージのうち最初のもの(Chapter 3)が、「ホットラインマイアミ」を名乗っているのも、そう考えると意味深である。
②電話の指示と実際の行き先が違うことがある
Chapter 4、7、8、9.10では、電話で指示された番地と実際にジャケットくんが殴りこんだ場所の番地が異なっている。
これは電話が幻聴だった可能性と、景色が幻覚だった可能性、あるいはその両方の合わせ技だった可能性が考えられる。
ただし①や②が本当に幻聴や幻覚だった場合、ジャケットくんはバイカー戦以前からおかしかったということになる。そもそもPart 3までは全部夢なのだからどんな不思議な現象が起こってもおかしくないということもできるが、果たして。
2の内容をふまえると、ハワイの戦いで負ったPTSDと、ビアードを失ったショック、命をかけて守ろうとしたアメリカが戦争に負けそうだというショックなどが重なり、4月の時点ですでにかなり精神を病んでいた可能性もある。バイカー戦で頭部に重傷を負ったことにより、さらにそれが悪化したとか。
ちなみにリチャードからジャケットくんへの四つの質問のうち、「留守電にメッセージを入れているのは誰か」という問いだけが簡単すぎだと思わなかっただろうか。パスワードを入れてしまえば答えそのものが作中で提示されてしまう。もうひとひねりあった方が面白いと思わないだろうか?
つまり答えは「自分自身」だったというオチである。50の祝福からの本物の電話の中に、ジャケットくん自身が作り上げた妄想のメッセージが紛れ込んでいたとしても、ジャケットくんもプレイヤーにもわからない。
8. このときジャケットは実際にはマフィアではなく一般人を殺していた
考えただけでやりきれなくなる説だが、思いついてしまったのだから仕方ない。
精神を病んだジャケットくんが、電話の指示もなしに一人でロシアンマフィアの拠点にたどり着けるだろうか? どうやってマフィアの住所をつきとめたのだろうか? 元特殊部隊のジャケットくんならひょっとしたら可能だったかもしれない。
しかし、ジャケットくん(とプレイヤー)にはロシアンマフィアに見えていたものが、実際は一般人だったという可能性、わたしはありえると思う。だってロシアンマフィアが全員同じ顔だなんておかしいし!
特にバイカーくんが50の祝福の拠点に殴りこんだ5月24日直後、ジャニターの二人が殺されようが生きていようが(正史では生きていることになっている)、組織は一時的に機能が麻痺したと思われる。すぐにどこか別の場所に移転したとしても(だからこそ6月8日にジャケットくん宅にリヒターさんが送りこまれた)、5月27日のミッション(Chapter 8 Push It、留守番電話への録音はなく、電話での指示と実際の行き先も違う日)は50の祝福の指示なしで、ジャケットくんが幻聴を聞いて勝手に行ったとも考えられるのではなかろうか。
ジャケットくんが途中から新聞の切り抜きをやめるのは、「ロシアンマフィア殺害事件の記事を探しても存在しないから」と「無意識下では自分のしていることがわかっていて、現実を突きつけられるのを拒否しているから」の両方が理由だと思われる。
なお公式の漫画版ではジャケットくん逮捕後の様子が描かれているが、そこではマフィアだけでなく一般人にも犠牲が出たことが示唆されている。これはたとえばジェイクさんのように、50の祝福に使われてマフィアに返り討ちにされた人のことを言っているのかもしれない。だがひょっとして、と思ってしまうのだ。
ジャケットくん自身はアメリカ人を守り、ビアードの仇をとるつもりでやっていたことが、実際はアメリカ人を害することになっていたというのが真相だとしたら、本当にどこにも救いがない。でもそういう説もあったっていいんじゃないかな。だってこういうゲームなんだしね。
9. 一般人を殺し始めたジャケットくんを危険視した50の祝福が、ジャケットくんを始末しようとした
ジャケットくんが50の祝福に始末されそうになる理由は、作中で明確に描かれていない。目立ちすぎたために、世間へのスケープゴートにされたというのが大半の見方だろうか。
ただ警察に殴りこみロシアンマフィアのボス邸を壊滅させるに至ったのは、リヒター(=50の祝福の指示でジャケットを始末しに来た)が派遣された後のことである。
つまりジャケットくんが始末される理由は、6月8日以前にあるはずだ。
その理由とは、「ジャケットくんが指示されたロシアンマフィア以外まで殺していることに50の祝福が気づいたから」ではないだろうか。
ちなみに5月30日(Chapter 9 - Crackdown)が、作中唯一「留守番電話にメッセージが残されており」かつ「電話の指示と実際に殴りこんだ場所が違う」日なのである。このときに50の祝福は「何かおかしい」と気づいたのかもしれない。
10. ジャケットの起こした事件の全貌は、警察もジャケット自身も把握できていない
ジャケットくんは(リチャードたちの治癒のおかげもあって)「ロシアンマフィアをたくさん殺した」という自覚はあるが、一般人を殺した自覚はない。
また警察もマスコミも、ロシアンマフィア連続殺人事件は認識しているがその枠の外にあるものは見えていない。
さらにこの当時ジャケットくん以外にもマスクマンは多数いた。50の祝福から指示された者もいたし、2に登場するザ・ファンズのようにマスクマンに影響された模倣犯もいたのではないだろうか。そういうものまで含めると、事件の「全貌」はとてつもない規模である。警察が全貌を把握できるとは思えない。
しかも警察内部にも50の祝福の信奉者はいるだろうから、捜査の方向性を誤らせることもできるはず。
さらにさらに、少々メタ的な話になるが、ジャケットくんはマスクを取り換えることにより戦闘スタイルを大幅に変えることができる。
トニーのマスクなら素手で敵を殺せるし、ジェイクのマスクなら物を投げただけで敵を殺せるし、カールのマスクならドリルを装備して出かけることになる。なおわたしが愛用していたのはドン・ファンのドアパンチマスクである。
これにより、ジャケットくんは現場ごとにまったく違う犯行スタイルを使い分けることが可能だった。捜査はますます混乱するだろう。
しかしジャケットくんは一般人を殺していようがいまいが、もうそのへんは(判決に与える影響は)誤差と言っていいくらい殺しまくっているし、なんといってもコップキラー(警察官を殺した人)なので、警察内、留置場内での扱いは最悪だったと思われる。
2をプレイすると、ジャケットくんにとって、またプレイヤーにとって、1985年にしたことと1989年に彼したことは変わらないのに、社会の受け止め方はまったく違うという理不尽。
文化とは分化である以上、戦場とそれ以外を「分化」できない人間が排除されるのは仕方のないことなのかもしれない。それにしたっていろいろと救われない話だ。ジャケットくん自身が救いなんて求めていないところが、またやりきれない。
ひとまずわたしの考えたことはこんなところだ。
そのうちまたキャラ語りでもしてみたいが、そんなことよりわたしは2をクリアしたい。リヒターさん、ごめんよ! わたしが下手なばかりに全然脱獄させてあげられないんだ!