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本当の "Wrong Number" は別にある?「ホットラインマイアミ」キャラ語り05

今日は名優マーティン・ブラウンとリヒター・バーグのお二人について。

つい先日親知らずを抜いたばかりで、薬で頭がぼーっとするし薬が切れるたびに痛みでのたうち回るしかない状態のわたしは、PCに向かって文章を書くくらいのことしかできない(いつもとかわりないじゃん)。

抜歯の際、音が怖いのでイヤホンをつけていてもいいですか? とおそるおそる尋ねてみたところ、医者は「麻酔後ならいいですよ」と快諾してくれた。そういうわけでわたしはマイアミのサントラを大音量で流しながら、一時間にわたる抜歯に耐えたのである。

ただし歯を削ったり引っ張ったりするときの音は自分の骨を伝って直接耳に届くため、嫌な音が聞こえなくなるということはない。それもわかっていて試してみたのだが、抜歯に一時間もかかるということであれば、ちょっとでも気が紛れる方がよいというのが今回の結論だ。

なおこういうときに普通に好きな曲を流した場合、その曲がトラウマ化することが懸念される。だがマイアミサントラはすべてがもともとトラウマサウンドである。どの曲もがくがく震えながら聴いた思い出しかない。歯医者で流すのにうってつけの曲と言えよう。しかもドリルの音もこのサントラと合わせれば「ゲームの効果音かな?」と思えなくもない。実際、作中でドリルを振り回す機会もあったことだし。

リチャードのテーマが流れる中で「抜けましたよ~」と言われたときは、内心でリチャードさんに手を合わせた。

 

わたしのどうでもいい日記はこれくらいにして、キャラ語りいってみよう。1も2もおおいにネタバレありにつき注意。

 

 

マーティン・ブラウン

謎が多く、ほかのプレイアブルキャラクターとの絡みもなく、舞台となる日付もなく、考察しようにもヒントの少ないキャラである。

最大の謎は彼の死の真相だ。

部屋に置かれていた脚本と、実際に起こったことはなぜ違ったのか。

銃弾を本物と入れ替えたのは誰だったのか。

ありえそうかなと思う説を2つ、書き残しておく。

1つ目。監督がマーティンには偽の脚本を渡していた。彼からリアルな演技を引き出すためである。この場合、銃弾が本物だったのは本当に事故。

2つ目。置かれていた台本は古いバージョンで、あれが書かれた後に結末が変更された。マーティンはそのことを知っていたが、その結末を気に入っていなかった(リチャードとの対話より)。その結末に対してマーティンが「ジャケットならこうする」と考えてとった行動が、銃弾を本物と入れ替えること。つまり自殺。こっちの方が面白いかな。

 

マーティンは自分の中にジャケット像を作りあげ、それを演じていた節がある。そのジャケット像はかなりマスコミによって歪められていたようだが(まだエヴァンが本を出す前だし)。

彼の考えるジャケットくんは凶暴性を剥き出しにし、女性を支配下に置きたがり、ただ暴力のために暴力を振るっているように見える。そしてマーティンはそんな役こそを長年求めていたのだという。

それは、1989年のジャケットくんの事件をリアルタイムで見ながらマーティン自身がジャケットくんに対して抱いていた印象そのものだったのかもしれない。

マーティンは「演技派俳優」という世間からの評価(「押しつけられたイメージ」と言ってもいい)にうんざりしていたようだが、彼は彼でジャケットくんに対して勝手なイメージを押しつけて、それを自分にとってのヒーロー……というか「アイドル」(「理想像」という意味での)にしていたわけで、やっていることはみんなと同じである。

 

自分なりにジャケットくんを解釈し、それになりきって「主人公」になろうとした点で言えば、マーティンはマニー・パルド刑事とよく似ている。上映会でも彼と向き合って座っていたし。

パルド刑事については昨日散々語り倒したが、あれからもう少し考えたことを補足しておきたい。

彼は彼で、ジャケットくんの事件を捜査しながら、自分の中に犯人像を作り出していた。こんな事件を一人で起こしたのは、いったいどういう人物だろう? あらゆる武器を使いこなせて、冷静で、そしてとんでもなく強い。ある意味で、パルド刑事にとってもジャケットくんは「アイドル」(偶像)だった。

彼はそんな犯人と自分が一体化したイメージを持ち始める。「自分が犯人だったら」という妄想が次第に膨らんでいく。

また一方で、そんな連続殺人鬼を自分が逮捕する場面の妄想も膨らんでいく。凄惨な撃ち合いを制する自分、もちろんマスコミからの注目を浴びて颯爽と署に戻る自分……。

そんなある日、ジャケットくんはあっけなく逮捕されてしまう。目的を果たした彼は、きっと特に逃げたり抵抗したりすることもなく捕まったのだろう。パルド刑事は活躍する機会もなく、それどころか推理を披露する機会もなかった。

ひょっとして、ジャケットくんに対してもっと頑張れよ! と思うこともあったかもしれない。自分が活躍する余地も残してほしかったし、あっさり捕まってしまった殺人鬼に対する失望もあっただろう。

そんな彼の鬱憤が結実したのが「マイアミの切り裂き魔」だったわけである。

 

ちなみに1991年12月9日、「ミッドナイトアニマル」に批判殺到の記事が出ていたということは、映画はそれ以前に公開されたということになる。

パルド刑事はこの映画を見ていたのではないだろうか。地元で起こった事件、おそらく彼自身も捜査にあたった事件が題材なのだから、関心を持っただろうことは想像できる。

そしてこの映画の結末が、"Caught" での夢とその結末に影響を与えたのではないだろうか。殺人鬼の主人公は「警察署の中を警官を殺しながら駆け抜けて」「撃ち殺されて終わり」。あれは "Final Cut" と同じ展開と結末なのである。

パルド刑事といえばエヴァンと対になる存在だと考えていたが、物語構造的にはマーティン・ブラウンと重なる部分が大きいようだ。

ちなみにパルド刑事とブラウンは、こういう関係でもある。

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パルド刑事、名前からしてラテン系なのだろうとは思っていたが、こんな隠し設定があったとは!

「主人公になりたい脇役」がマニー・パルドだとするならば、「主人公を演じた脇役」がマーティン・ブラウンだったというわけだ。

 

 

リヒター・バーグ

1のリヒターは、"Assault" に登場する場面以外はジャケットくんの妄想である。

ジャケットくんにとってリヒターは「大切な人を殺す人」であり「自分を昏睡状態にした張本人」。だから彼は夢の中で繰り返し繰り返しビアードを殺すし、ジャケットくんに対しても冷たい。

だが彼の本来の性格は "Assault" で牢にいた方だ。リチャード語りの際に書いたとおり、リヒターにとってジャケットくんは「恨まれても仕方のない人」であり「自分に終わりをもたらしてくれる可能性を持つ人」だった。だから彼は、現れたジャケットくんに自分の終わりを委ねた。

彼は終わらせたがっていたのだろう。だが一人で終わることもできなかった。母親の存在がそれだけ気がかりだったわけだ。

脱獄のチャンスがめぐってきたときに迷いなく逃げたのは、母親のためなのだろう。あのときジャケットくんが共闘してくれていたらずっと楽に逃げられただろうと思うのだが(本当にあの脱獄はキツかった……。たぶんいちばん心が折れそうになったのがあの章)、ジャケットくんにはもう会いたい人も生きる理由もない。逃げるリヒターと無関心なジャケットくんの対比がつらい。

行った先が、かつてジャケットくんの戦ったハワイだというのも皮肉なめぐり合わせである。エンディングでのリヒターとローザの様子からして、アメリカはハワイを取り返すことができたのだろう。ジャケットくんも少しは報われただろうか。まあ全部核に破壊されるんですけどね。

 

1のジャケットくんがリヒターの顔を知っているのはなぜかという疑問をしばしば見かける。確かにリヒターに撃たれる前から、ジャケットくんはリヒターの姿を見ている。リヒターに撃たれる前の物語はすべてジャケットくんの夢だが、そうだとしてもジャケットくんはリヒターの顔を知らないはず。ただし夢で見たことが全部真実ならば。

実際にはジャケットくんを撃ったあと、リヒターはマスクをとったのではないだろうか。もしかしたらそこで謝罪までしていたかもしれない。だがジャケットくんはそれを覚えていない。彼を恨む気持ちでいっぱいだったから。あの時点でのジャケットくんは、リヒターのことをロシアンマフィアに雇われて現れたヒットマンだと思いこんでいただろうから。

 

リヒターはほかのキャラクターと比べて非常にわかりやすいキャラクターだ。行動の理由もはっきりしているし、同情すべき点まできっちり描かれている。だが一点、はっきりしない部分がある。そもそもなぜリヒターのところに50の祝福から電話がかかってきたのか? という点だ。

リヒターには50の祝福のニュースレターを購読している様子はない。また言動からもそういうものを好むタイプには見えない。なぜ彼らに目をつけられてしまったのだろうか。しかもジャケットくんのところにマスクが送られてきたのは1989年4月3日だが、リヒターが初めてロシアンマフィアをアジトを襲ったのは4月2日である。ジャケットくんよりリヒターの方が先に声をかけられていたことになる。

考えられる理由としてはまず、従軍経験があげられる。リヒターもまた過去に従軍経験があった可能性だ。ジャケットくんと同様、どんな武器でも使いこなせるリヒターは、従軍していたと考える方が自然だろう。マイアミ在住の従軍経験者をピックアップしていった結果、リヒターが引っ掛かったというわけだ。

家庭環境のことを考えると、彼なら脅せば言うことを聞くだろうという見込みもあったかもしれない。

リヒターの父親と50の祝福の関係を疑う説もあるらしい。確かに父親の部屋にはトラの毛皮っぽい敷物があり、動物の頭の剥製が飾られている。この作品において「動物の頭」は非常に示唆的だ。無関係ではないのかもしれない。

ただわたしとしては、いちばん最初に彼にかかってきた電話は "Wrong Number"、つまり間違い電話だったら面白いと思っている。

マイアミ2には本当の意味での間違い電話は一件も発生していない。ザ・サンがヘンチマンにかけた電話は正しくヘンチマンの携帯に着信しており、正確には「間違った番号にかけた電話」ではないのだ。想定外の相手が出たというだけのことである。

リヒターのところにかかってきた電話こそがタイトルに冠された「間違い電話」で、リヒターは本当に運悪く巻き込まれただけと考えると実に救いがない。そしてマイアミのシナリオらしい気がする。

50の祝福は「なんか電話を間違えてかけたっぽい」と途中で気づいただろうが、間違い電話の相手を調べてみると操りやすそうだし従軍経験もあるし、これ脅したら言うこときくんじゃね? とそのまま強硬した、とか。あのジャニターのお二人なら、そういうノリで仕事をしそうではないか。

50の祝福マイアミ支部にとって最初のターゲットがリヒターだとすれば、その彼が「間違い電話」から始まっていたというのはとても面白いと思う。

 

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