S3ラストシーンに愕然としたまままだS4を見ることができていない状態で、ひとまず感想を書き残すか……とPCを立ち上げたわけだが、なかなか言葉にすることができない。
DVDのパッケージデザインも白と黒で塗りたくられ、背後にグレーの影というデザイン。シーズンごとにダークになっていくのかこれは。
しかしシーズンを追うごとに「ブレイキングバッド」キャラが次々登場し、「ブレイキングバッド」に至る道を描いてくれるのは盛り上がる。今シーズンは大物も登場したし!
さてなんとか感想を書いてみることにしよう。以下ネタバレ。
この記事のタイトルがめためたにネタバレな気もするが、気にしないでほしい。
続・チャックの歪み
S2の感想でも書いたのだが、S3ではチャックの歪み方がさらにいびつに、そして致命的なものになった。
S2で最も立場的な浮き沈みが激しかったのはキムだが、S3ではチャックだろう。ジミーをはめることに成功し、彼を弁護士業界から追放するべく躍起になり、そしてあの聴聞会での暴露。彼は本気で「病気」の治療に乗り出し回復に向かうが、弁護士としての信用を失い、ハワードからの信頼も失い、ついにHHMを失うのである。
チャックに対する評価は、ハワードの言葉が最も公平で、的を射ていると思う。
すなわち、これまでのチャックはHHMの利益を最優先し、優秀な弁護士として活躍してきた。だが今のチャックはジミーを陥れることを最優先にし、冷静な状況判断をすることができなくなっている。そのためハワードはもう彼のことを弁護士としてもパートナーとしても信頼できない。
聴聞会で失態を晒した後も高い酒を持って励ましに来てくれたハワードが、結局はチャックと対立し彼を追い込んでいく。今回ハワードのしたことは基本的にはすべて「HHMを守るため」にやったことで、わたしとしてはある程度納得できる。チャックにも一定の敬意を払おうとしていたようにも見えた。その何もかもを拒絶したのはチャックだった。
とはいえ、チャックにとどめを刺したのはハワードではない。弁護士としての地位、信頼を失ったことでもない。決定的だったのはやはり、ジミーを自ら突き放したことだった。
チャックは確かに回復していた。病院に通い、自分でスーパーに食料品を買いに行くことができるようになっていた。最後まで自分の病気を精神疾患だとは認めていなかったようだが。
だが謝りに来たジミーに心にもないことを言って追い返したとき、それまでの回復が一気にマイナスに傾くくらい、彼は壊れた。「お前のことなんてずっとどうでもよかった You’ve never mattered all that much to me」なんて、そんなわけないのに。大事じゃない相手のために人生を狂わせたりするはずがないのに。
確かにチャックはジミーの性質を誰よりも理解している。反省して謝って、そのときはその言葉に嘘はない。だがそのうち元の木阿弥で、また悪いことを繰り返す。それをもううんざりだと思う気持ちは理解できる。「もうそういう儀式はやめたら?」と言いたくなる気持ちもわかる。正直、ジミーが自分の身内にいたら相当うざいだろうとも思う。でも嘘はよくなかった。
結局チャックは、自己の内に矛盾を内包することに多大なストレスを感じる体質なのではないだろうか。理路整然とした仕事ぶりが求められる立場だっただけに、余計に。
だから、弟を気にかける気持ちと認められない気持ちを同時に抱えて病んだ。最後は自分の発言の矛盾をトリガーに、壊れた。そういうことだったのではないかと。
事故か自殺か
10話で壊れていくチャックをじっくりと見せていく演出はあまりにも恐ろしかった。BrBaでもここまで怖かったシーンは数少ない。
チャックの最期が事故だったのか自殺だったのか、わたしは最初どちらとも言い切れなかった。いや行為だけ見れば間違いなく自殺なのだが、彼は「自殺をしよう」と決めて机を蹴っていたのかどうか、わたしにはわからなかったのだ。彼はただ「この不快感から逃れたい」「どこに電化製品があるかわからないなら全部燃やしてしまえばいい」と思っていただけで、「スッキリしたかった」だけではないのかと。結果として自分が死ぬことは想定していなかったのではないかと。
(S3を見ただけだとチャックが死んだかどうかもはっきりとはわからなかったのだが、クリエイターのインタビューなどを読むうちにどうやら死んだことは間違いなさそうだと察した)
そもそも電気のメーターは本当に動いていたのか。わたしはそこからあやしんでいる。あれは壊れたチャックの見た幻覚で、我々が見た映像は「現実」のものではなかったのではないかと。「メーターは動いているはずだ、なぜなら自分は不快感を抱えたままだからだ」と考えたせいで見た幻覚というわけだ。理路整然と間違えるとはこのこと。
このあたりについて製作側はどういうつもりで描いていたのかと、ドラマのスタッフやチャックの俳優さん(マイケル・マッキーン)のインタビューを読んでみた。
このへん。Entertainment Weekly さんは相変わらず質問が的確。
結果として、どうやら製作側としてはチャックの「自殺」のつもりで描いていたらしいということがわかった。ただしやはり無自覚な部分の多い「自殺」だとも言っている。半分近くは「事故」と言ってもいいような気がする。マッキーンさんの中では、チャックは理路整然と「死」を選んだらしい。「それしか道がないならそうするか」という感じで。
ひとつには薬の影響もあったと思われる。マッキーンさん自身が、あのシーンにからっぽの薬のケースを足すよう頼んだらしい。一日何錠と決められていたであろう薬を、彼はおそらく一気に飲んだ。そして薬は切れた。最後のシーンのチャックはひげがのびていて、おそらく家を壊し始めてから数日たっていると思われる。その間、誰も彼を助けることはできなかった。医者はキャンセルしてしまったし、ハワードもジミーも彼自らが遠ざけてしまったし、電気屋は水曜日まで来ない。
しかし視聴者はハワードの壊れっぷりを知っているものの、ハワードとジミーは知らないのだ。むしろ快方に向かっていた彼を知っているのだ。二人とも「自分のせいでチャックを自殺に追い込んだ」と思ってしまったりしないだろうか。それが心配だ。
特にジミーが心配だ。彼にとって兄の存在は何より大きかったはず。大丈夫だろうか……。
ほかにもあの聴聞会でのジミーとキムの作戦とか、ついに現れたガスとか、ヘクター・サラマンカ大先生の大先生ぶりとか、イグナシオだからナチョなんだ~! とか、マイクさん相変わらず有能~! とか、いろいろ語りたいことはあるのだが、なんだかS3は全部チャックが持っていってしまった感。結局好きにはなれなかったけれど、すごいキャラクターだった。
さて以下はいつものように、見ながら残したメモの写し。
1話
・オープニングが乱れてきた……ジャケットくんの視界みたいになってる
(ホットラインマイアミというゲームでも、BCSのオープニングのように画面が乱れる演出がある)
・チャックもマイクさんも何かを仕込んでいる
(この回は「工作回」とまとめていいように思う)
・やっぱりあの態度が問題だったんじゃん……そういう描き方だったよね
(S2感想で、メサ・ヴェルデに関してはチャックの「『ミス』そのものよりもその後相手が(しかも顧客が)間違っていると決めつけた態度が問題だった」と書いたわけだが、まさにそういう趣旨のことをペイジが言っていた)
2話
おでんかーくさんの顔芸が冴える! ちょいちょい挟んでくる笑いが好きw そしてとうとう来ましたねーあの場所に! マイクさんがもうジミーのことを巻き込んでもいい相手とみなしてるのがすごくもえる……
(ロス・ポジョスでの一連のシーンについて)
・ジミーのテープの巻き取り方が
(チャックに言われたとおり巻き取っている……と思ったら、最後は破り取ってしまった。今後の展開を暗示するようなシーンだと思っていたらやはり……)
・「みんなに好かれますね」と言われても本当に信頼を得たい人からは嫌われてるの、つらい
・「マーケットクラッシュに見えない?」で笑う
(事務所に書かれたWとMの文字について。キムは優しいね……。でもきっとこの文字が並んで書かれることはもう二度とないんだろうな)
・ダメ忍者ハワード
(頑張ってチャックの家まで忍んできたが、かなりのダメっぷり)
・寝てる間に来る!(フラグ)
(とか言ってたら現れるジミー。そしてテープを破壊していったのだった)
3話
・ジミーが初めてたばこを……。
・「私は信じたい、お前がこの結果に向き合い生まれ変わると。今は理解できないだろうがこれはチャンスだ」
お前それ前にも言ったやろ……(ジミーが逮捕されたとき)。なんだろ、このドラマ見てていちばんハラワタが煮えくりかえったかもしれない。このままだと自分史上好感度最低キャラ(現状「ベイツモーテル」のノーマ・ベイツ)を更新してしまう
(せりふを書きだすために見直してまたハラワタが煮えくりかえっている)
・うう……並ぶ二人のシルエット……頑張って……
(逆境ばかりのなかで強く生きようとするジミーとキム、本当に好き)
・しかし本当に囚人服の似合う役者さんですわ
4話
・めちゃくちゃ熱い展開じゃん……画面のパワーがすごい。
・その選択がまわりまわってBrBaでそうなると思うと……あーBrBaを見直したくなるな
(「ヘクター・サラマンカを殺すのはこの俺だ!」なガスさんについて。ここでマイクさんが殺そうとしたのを止めたのが結果的に……)
・マイクさんがマジでわくわくさん
(敵をはめるための工作から子供の遊び場まで何でも作れます)
・反撃待ってるよ……!
(ジミーとキムの作戦会議、わくわくする)
5話
手に汗握るっていうか手が震えてる……どうなるか完全にわかっててもやっぱり緊張したしジミーと一緒に罪悪感に潰されそうだった。でもやりきったね……
(あの聴聞会がS3のクライマックスだったのは間違いない。それをシーズンのちょうど中間地点に設定していたわけか。あの回はどの役者さんも「ここがこのドラマ全体のクライマックスだ」と考えて臨んでいたように思う)
6話
・いやー、わたしはよく言ったと思ったよ。これでよかったと思うしもっと早くそうしててもよかったと思う
(レベッカに責められて「もう兄じゃない」と言い切ったジミーを見ながら。やっぱりジミーも共依存気味に見えたから。もっと早く兄からすっぱり離れられていれば、この後に起こる悲劇も回避できたんじゃないかなって。まあそんなに割り切って離れられないのが家族というものかな)
・結果的にではあるけど、最高というか最悪のタイミングでカードを切ることになったよね
(入院したときに兄弟が両方とも精神疾患と向き合えていれば、こうなることはなかっただろうなと)
・彼女はもうちょっと金の出どころを心配した方がいいような
(マイクさんの義理の娘さんのことな! 少しはあやしめ)
・ソウル・グッドマン、ついにテレビ初登場!
7話
ジミーが踏んだり蹴ったりでほんとかわいそう……しかしタダでは起きないというか、それが目的で行ったんだろっていうか。資金切れまでにあと何が起こるのか。弁護士でないジミーはやっぱり精彩を欠くんだよな……。
8話
・いよいよそことそこが同盟! マイクさんのストーリーラインが熱い。
(マイクさんとガスが手を取ったぞ!!)
・ナチョの顔が好き。今回めっちゃ汗かいててこっちもドキドキした。
・ジミーはやっぱり言葉を武器にしたときがいちばん輝いてる。腰はお大事に。
(奉仕活動中のアレについて)
9話
・アイリーンかわいそう……
・ハワードの話し方、英語のリスニング問題のアナウンサーみたいで聞くたびに笑う
・で、出たー! 「続きは法廷で」! 盛り上がって参りました
(このときは盛り上がってたんですよこのときは……)
・キムがフラグすぎてやっぱりフラグだった
(寝てない休んでない演出だったもんなあ)
10話
・な、なんか今までのあれこれが全部仕切り直しになった。ジミーえらいよとは言えないけど、切ない
(アイリーンはかわいそうすぎた。BrBaのジミーがどうなっているかを考えれば、いずれ高齢者を対象にした商売はやめることになるのだろうと予想はつくが、こんな形でやめることになるとはなんとも)
・人が壊れていくのをじっくり見せられるのは怖いな。BrBaでもここまでのはなかった気がする。「どうでもよかった」なわけないのに
・「誰もそんなことを望んでなかったのに」ということが次々起こるこの感じ、貫禄のBrBaスタッフ
・サラマンカは一足先にBrBa設定に到達? あそこで彼を助けたのがめぐりめぐってBrBaのS4につながるのかとしみじみ
・もうS4見るのが怖いよ……見るけど……
・これは個人的な意見だしそこが本編で明かされることはないだろうけど、あれ実際にはメーターは動いてなかったんじゃないかなあ……
というわけですごく重苦しい気持ちでS4に突入する。
この状態で1年待たされた当時の視聴者が気の毒である。いや、S4を見終えたわたしが「この状態で1年待つのかよ」と言う姿が今から見える気がするけど。