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ドラゴンよりももっと怖い敵と戦っている人たちのために「Prince & Knight」感想

先月某日、Twitter でこの絵本のことがバズった(主に英語圏で)。

絵本の中身の画像を使っているので引用はしないけれど、王子と騎士が結ばれる結末に感動したという趣旨だった。

絵もかわいらしいし(Amazon のなか見を覗いてみてほしい。肝心の王子と騎士の幸せそうな笑顔が掲載されていないのが残念だが、ネタバレか……)、多様性を支えるこういう作品を支持したいと思って買ってみた。

あまりにも優しい世界だった。世界はこうあってほしいと思って泣いた。

これは日本語でもしっかり紹介されるべき作品だと思ったのでここでネタバレレビューしてみる。

どうか日本でもどこかの出版社さんが出してくれますように。

 

 

「ドラゴンよりももっと怖い敵と戦っている人たちのために」

序文にこの言葉が書かれており、それだけでもう胸がいっぱいになった。

悪意や差別や偏見は、ドラゴンよりももっと怖い。この絵本は子供たちにそれを教えている。そしてそれらと戦う人たちの勇気を称えている。

本当は戦わなくてもいい世界であってほしい。「ドラゴン」なんていない世界の方がいいにきまっている。それでもやっぱり「ドラゴン」はいるし、わたしたちはまだ戦わなくてはいけない。

 

王子のお見合い

舞台はとある王国。もうすぐ王位を継ぐことが決まっている王子だが、領土は広大でひとりで統治することはできない。そこで王と妃と王子は、あちこちを旅して王子にふさわしい素敵な花嫁を探すことにした。

王子はたくさんの女性とお見合いをした。女性はみんな王子にメロメロになったが、王子の心は動かなかった。

 

王子がお見合いした女性の肌の色がまた多様で、さりげないのだがそういうところもすごくいい。ここは Amazon のなか見で参照できるので引用してみる。

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https://amzn.to/2E1OzTN

お見合いがうまくいかなかった王子は両親にお礼を言い、自分で別のパートナーを探してみると告げる。

 

ドラゴン登場

国王一家が国をあけている間に、ドラゴンが人々を襲っていた。これが「ゲームオブスローンズ」のドラゴン並の強さで、火を噴いて人々を蹴散らし、王国兵も逃亡する始末。

その話を聞いた王子は、単身でドラゴンと戦うべく国に戻った。

王子がドラゴンに立ち向かおうとしたとき、同じくドラゴン退治に来た騎士が現れた。

 

王子は決して「騎士に助けられるお姫様」の代替ではない。王子は人々を守るためにドラゴンと戦える人だ。そして騎士も。

さらにいうと「騎士に助けられるお姫様」のステレオタイプは前世紀のうちにある程度乗り越えられている。少なくとも創作の世界においては。

もちろん騎士に助けられるお姫様ポジションでいたい女性がいたっていい。そういう男性がいてもいい。でもこの作者は、王子と騎士をドラゴンと戦う勇気を持った人間として描いた。それはきっと作者からのメッセージだ。

 

王子と騎士の共闘

ドラゴンはほとんど勝利を確信して王子に襲いかかったが、騎士が輝く盾をかざしてドラゴンの目をくらませる。その隙に王子はドラゴンによじのぼり、縛りあげた。

作戦は成功しドラゴンは捕えられたが、王子はドラゴンの頭から落ちてしまった。だが騎士が馬で駆けつけ、落ちてきた王子を抱きとめる。

「助かった」

「こちらこそ」

二人は互いに言い合った。

騎士は兜をとり、ふたりは互いに見つめ合う。

 

ふたりが恋に落ちる瞬間の表現がとても素敵なので、ぜひ絵本を買って見てほしい。

そしてここでも、騎士の肌が王子よりも浅黒い(ラテン系なのかな?)のがとてもいいいと思う。

 

結ばれるふたり

ドラゴンから避難していた人々が町に戻ると、そこには噴水のそばで騎士に膝枕してもらっている王子の姿が! 王子がついに心を通わせられる相手を見つけたことを、人々は祝福した。もちろん王と妃も。

王子と騎士は歓声と笑顔に包まれて結婚し、ふたりはいつまでも幸せに暮らしたのだった。

 

優しい世界……。

ドラゴンを退治したあとふたりはずっと手を握り合っていて、それを見ているだけで幸せになれる。

そして愛し合うふたりを祝福できる、現実もそういう世界になってほしい。

王制時代にこんなことが起こるわけがないとか野暮なことを言わないでほしい。そんなこと言ったら現実にはドラゴンもいないだろ!

この話は「メルヘン」だ。「メルヘン」はいつの時代も、人々の夢を描くもの。それぞれの時代に思い描かれた夢と、二度と起こってほしくない悲劇を語り継ぐための媒体だ。そして「メルヘン」はいつだって、その時代の人々の想像力の最先端を描く。今の時代にこの「メルヘン」が生まれたということを大切にしたい。この物語を語り継いでいきたい。「ドラゴン」がいなくなるまで。あるいは、かつて「ドラゴン」がいたことを伝えていくために。

この絵本を読んだ子供とそれから大人が、「ドラゴン」に立ち向かう勇気を持つことができますように。

 

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