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黒髪と金髪「ハウスオブザドラゴン」1-6感想

https://twitter.com/HouseofDragon/status/1574222175803801600

毎週のことなのだが、「ハウスオブザドラゴン」視聴中は不道徳な発言ばかりしてしまう。倫理観-2000000のデバフがつく番組である。

今回の視聴中の発言をマイルドにまとめると、

・まだ生きとったんかいワレェ
・死ぬんですか?
・殺るんですか?
・寝たんですか?

あたりに集約される。

しかし倫理観マイナスのデバフが毎週蓄積されようとも、リアルタイムで作品を追うのは楽しいものである。

以下、6話ネタバレ感想。いよいよ後半突入か。

 

 

 

 

 

ラリス・ストロング

前回記事でアリセントが今作の小指ポジなのか!? と期待がぶちあがったわたしだが、どうやら当面の小指ポジとして活躍してくれそうなのはラリスくんのようである。

先週の時点ではラリスくんはまだティリオンポジの可能性もあると見ていたが、今週を見る限りどうも小指ポジっぽい。これから何をしてくれるのか本当に期待している。

 

今回ラストのラリスくんの語りは、ゲームオブスローンズにおける Chaos is a ladder スピーチ(混沌は梯子である)に相当するものか。

ピーター・ベイリッシュはあのとき「国家も愛も幻想」と語り、「混沌=梯子のみが本物」であり、その混沌を利用し、梯子を上ってのしあがるのが目的だと述べた(個人的には chaos は「乱世」と訳すべきだと思っている)。

一方ラリスは「子供がもたらすのは弱さか、愚かさか、あるいは単に徒労か。子供を得ることで、自分の死後も自分が形を変えて存在できるかのように信じる者もいる。だが子供のために手放してしまうものもある。なすべきことを理解していても、愛がその眼を曇らせる。愛とは破滅への道。邪魔者がいては道は開けない」と語る。

要するに子供がいることによって本来すべきではないことをしたり、本来すべきことをしなかったりしていては逆に身の破滅を招きますよと、子供(と自分)をレイニラから守るために苦悩するアリセントへ遠回しに警告している……ということかな。

直接的には、息子ハーウィンの行いによって名誉が傷つき、王の手としての公平な判断もできなくなった父親ライオネルの行動を批判している。同時に娘かわいさのあまり、孫の父親について真剣に考えようとしないヴィセーリスのことも批判している。

Chaos is a ladder スピーチが相手(ヴァリス)と国家、あるいは世界のすべてに対する宣戦布告だったのに対して、ラリスのスピーチは相手(アリセント)への味方宣言であり警告であり、その場にいない者への宣戦布告的な含意もあるということになる。

 

しかし実際のところラリスくんがやったことは、国家にとっては非常にお手柄だった。

ハーウィンは生きているだけで国家転覆の危険を内包している。ターガリエン朝の権威を失墜させるだけの秘密(もう公然の秘密だとしても、である)を抱え、しかもレイニラとの関係が切れたわけではない。

子供たちはハーウィンに手紙を書くだろうし、そのうちハーウィンにも「あなたが本当の父親か」と尋ねるだろうし、そうなったらハーウィンの答えによってはやはり国が傾く危険性があるし、レイニラもほかに都合のいいパートナーがいなければ、ほとぼりがさめた頃にハーウィンとよりを戻すかもしれない。

また別の野心家がハーウィンに近づいて、ストロングの家系に継承権を主張しろと言いだすかもしれない。ハーウィン自身がそれを言い出す可能性だってなくはないのだ。

ハーウィンとレイニラの関係は「一夜のあやまち」などではない。三人も子供をつくっている。一人目、明らかにターガリエンではない子供が産まれた時点でやめたりもしていない。その後も関係を続けているのである。

しかもハーウィンを正式に処刑したりするわけにもいかない。そんなことをすればプリンセスの不貞を公式に認めることになり、ひいては子供たちの継承権が危うくなり、やはり内戦になるかもしれない。いろいろと詰みである。

 

そういうわけで、ラリスくんのおかげでひとつの戦乱の芽を潰すことはできただろう。

ただ、それは本当にアリセントのためになることだっただろうか?

アリセントとその子供を守る(=王位につける)ためには、レイニラのスキャンダル話を大きくすべきではなかっただろうか。

 

いや、ラリスくんはひと息にそこに到達しようとは思っていないのかもしれない。

「王の手は身内への情など抜きで中立な判断ができる者でなくてはならない」

というのが彼の主張だ(今回の彼の言葉をそのまま受け取るならば、である)。これ自体は実にもっともな主張だ。

もし本当に彼が国家の安定のために、中立な判断ができなくなった王の手を排除すべく父親を暗殺したのなら、それもまあ……お手柄と言えなくもない。本当にそういう話ならば、ラリスくんは小指というよりはむしろヴァリスポジションと考えるべきかもしれない。

王の手がまた空位になったが、このあとはアリセントがオットーを呼び戻すのだろうか? 当面はそうなるかもしれない。

だがラリスくん的にはオットーも中立な判断ができる者ではない。オットーもまた、アリセントに味方する「父親」である。「非中立者」だ。

 

ではいったい誰がふさわしいのか。彼の認める「中立な判断ができる者」とはいったい誰を指すのか。

それはもちろんラリス自身である。

彼こそ「身内への情を抜きにして真に国家のためになる判断ができる者」である。

何しろまさに自分の父と兄を暗殺してまで「ダメな王の手」を排除したわけで。あと子供がいる様子もない。

ラリスくんにはラリスくんの理想があり、そこに至る野心を持っている。

その野心にとって、父と兄はむしろ邪魔だった。「邪魔者がいては道は開けない」。

少なくとも父親が健在な間は、ラリスくんに王の手が回ってくることはない。今回の事件は、彼を少しだけ王の手に近づけた。

このままラリスくんがアリセントに味方し、もし本当にエイゴンが王位につくことになれば(今回の描写を見る限りろくな王になりそうにないが)、そのときの王の手はラリスくんということになるかもしれない。

 

蛇足ながら、やはりラリスくん自身にも「場違いなところで咲く花」であるという自認があったのだと思われる。ひとりだけ狩りに出られず、女性陣とテントで待機していたシーンが印象的だった。

騎士として身を立てることもできず、足が不自由ということはダンスもできず(つまり礼儀として女性をダンスに誘うことができない=社交の場での最低限のふるまいができない)、あの世界で「男性」に求められることがほぼできない彼が、一族の中でもろくな扱いを受けていなかったことは、あの狩り回だけでもなんとなく伝わった。

そういう意味ではもともと中立な判断を狂わせるような「家族への情」なんてなかったのかもしれない。だからサクッと殺れたのかな、とも思う。

そして同じく「(ターガリエンに囲まれた)場違いなところで咲く花」であるところのアリセントを、自分と同じ属性を持つ相手だとみなしているのも間違いないだろう。

その共感は、少なくとも今のところは「愛」ではないように見える。

一方ラリスと食事するときのアリセントはかなりリラックスしているように見えた。あんなふうにお行儀悪く靴を脱いでポイするなんて、ほかの人の前ではやらないだろう。おそらく今のレッドキープで唯一気を許せるのがラリスだったはず。

「わたしが殺りました」の告白後、それに何か変化はあるだろうか。

 

今回やっと見えてきたラリスくんのキャラクターにウッキウキでいろいろ想像してしまったが、この先どうなるのかな~!

 

 

「ゲームオブスローンズ」シーズン1との比較

今回の話が非常に面白かったのは、「ゲームオブスローンズ」シーズン1で描かれたことに近い事態が進行しているということ。

ゲースロS1では、ネッドが「ロバートの子供たち」が実はロバートの子供ではなかった!!!!!!1 というバレバレの事実を暴いて消されることになる。

ネッドはバラシオン家の家系図を閲覧し、代々黒髪の子供が産まれていることを確かめて、金髪の子供たちの血を疑った(そういえばこういう話だった今回、「エダード」という名前のキャラが出てきたのがとても示唆的。模型職人さんの名前だった)。

そんなもん閲覧せんでも子供たちを一目見ればわかるやんけ!!!! と全世界からつっこみが入っていたと思われるが、当時のレッドキープ内でもそう思われていたことだろう。シーズンが後の方になると実際にほぼバレバレだったことがわかるし。

リトルフィンガーも、せっかくネッドをレッドキープにおびき寄せることができたのに、ネッドがあまりにも鈍すぎでイライラだっただろう。もしもう少しネッドが察しのいい人で有能だったら、リトルフィンガーがのしあがるための駒としてもう少し長生きできたかもしれないのに。リトルフィンガーの最優先目標は「梯子をのぼること」であって、復讐したい相手であろうとも利用価値があるならば、目標のためにしばらく生かしておくくらいのことはするはず。

何が言いたいかというと、やっぱり「ハウスオブザドラゴン」の方の描写がリアルな反応で、なかなか気づかなかったネッドが鈍すぎなんだよな、である。

いや別にそれは結論ではない。

 

髪の色がゲースロと逆なところが面白い。バラシオンの髪色は黒であり、ターガリエンの髪色はプラチナブロンドである。

また浮気する女性の立場もゲースロとは逆なところが面白い。サーセイはラニスター家からバラシオン家に嫁入りしたクイーンであり、レイニラは彼女自身が王位継承権を持つプリンセスである(レイニラの行為は夫公認なので厳密には「浮気」とは言えない気もするが)。

さらに、今作はここまで「男性はいくら遊んでもいいが、女性には貞淑さが求められる」ことの理不尽を描いてきたが、ここにきて「女性が遊んだ結果、男性が報いを受ける」形になった。これをどう理解すべきだろうか。

この作品は今回の火事を肯定的に描いているわけでは決してないし、この事件が今後どんな影響を及ぼしてくるのかもまだわからない。しかし「これまでとは逆のことが起こった」のは間違いない。それを起こしたのが「場違いな花」であるところのラリスくんであることは注視しておくべきかもしれない。

 

 

レーナのお産と死の選択

ドラゴンライダーの血があろうとも、ドラゴンの炎によってなら燃えるという設定確認がひとつ。

そしてエイマの死との比較。つまり男性の選択によって女性が命を奪われるケースを描いたエイマと、女性が自らの選択で死を覚悟し、死に方も選ぶケースを描いたレーナ。

この対比はかなり強烈だった。が、しかし。

結局、ドラゴンという武力がなければ女性は強さを獲得できないのだろうか。自らの選択もできないのだろうか?

武力を得た女性の描写は確かにかっこいいしエンタメ的に映えるのだが、わたしとしてはそうではないケースの方が好みなので、デナーリスよりもサンサが好きだし、アリセントの成長を楽しみにしている。わたしは普通の女性が当たり前に自分の選択をできるようになるところが見たい。

そういえば、レーナのドラゴンはこのあとあの娘ちゃん(卵がなかなか孵らないと言っていた子)に引き継がれたりするのかな。

ゲースロにおける物語パターンとして、力を持たない者が強くなっていくプロットは多用されているので、あの娘ちゃんやアリセントの次男くんみたいなまだドラゴンを持たない子供たちにこれからスポットがあたっていくのかもしれない。

 

 

アリセントの今後に期待

キングスランディングでの長期間にわたるストレスフルな生活(ただしキングスランディングにいた頃のサンサほど命の危機には晒されていない)、強制的に男をあてがわされ、結婚させられ(ただし結婚相手はラムジーほどヤバい男ではない)(いやラムジー以上にヤバい男はなかなかおらんやろ)、信用していた相手から裏切られる(ただしサンサはアリセントがレイニラを信用していたほどにはピーター・ベイリッシュを信用していなかっただろうし、レイニラはピーターくんほどのひどい裏切りをしたわけでもない)という過程を経て、今のアリセントはかなりの強さを備えていると思われる。

(ただしこうやって書き連ねてみるとサンサを襲った試練に比べればやわやわで、やはり最終形態サンサにはまだ及ばないだろうとも思う)

期待値爆上げの結婚式「ハウスオブザドラゴン」1-5感想 - なぜ面白いのか

 

これが前回の感想。

そうね、まだ及んでなかったね……というのが今回の感想。レイニラに先制パンチをもらってしまうし、ラリスくんへの最後の反応もあんな感じだし、まだそこまでの覚悟は完了してなかったみたいだ。

最終形態のサンサなら、国家転覆の危機の芽を摘むことについては是認、あるいは黙認するだろうと思っている。何しろ国家転覆の危機の芽を摘むために、自分の命の恩人であり自軍の敗北の危機に大軍を率いて救援に来た、おそらくはかすかな恋心すら抱いていたであろう相手を泣きながら処刑できる彼女だ。

しかしアリセントはきっとまだこの先2回くらいは変身を残しているだろう。

今回ラリスくんが割とあっさり(まだS1の半ばだぞ!?)狙いを明かしてしまったので(あれがすべてではないにしろ)、逆にさっくり退場しないかと不安になってきた。

が、アリセントのストーリーはまだまだ続くだろうし、彼女がラリスくんを喰らって成長するくらいの勢いが見られたらいいな~!!

 

 

エイゴンのアレ

ダイナミック自慰からのダイナミック親バレ。きっつー。

いやそういう意味でも確かにきつかったが、わたしはあのシーンを見た瞬間、ゲースロ6-10を思い出した。トメン王が飛び降りるシーンと、窓辺に立つ構図が似てなかった?

なんか不吉な連想をしてしまうのは深読みしすぎか?

なおトメンについて語った記事はこちら。

ssayu.hatenablog.com

 

王の小指

今週の王の小指コーナー!

ていうかもう小指がどうとかいう話じゃないわ! 肘から先が切断されとるやないか!!!!

毎週毎週「まだ生きてる!?」という驚きをもたらしてくれるヴィセーリスだが、このペースでいくと来週には肩から先を失い、再来週には上半身がなくなるかもしれないが、その前に死ぬのではないだろうか。

いや、でも先週の時点で「もう長くないな」と思わせておいて10年後に普通に出てきたし、わからんぞ。

しかし以前の彼に比べてもいささか耄碌しているというか、衰えを感じる。身内への目は曇りまくりだし、アリセントに主導権を握られているし。今の彼女にオットーを呼び戻せと言われたら頷いてしまいかねない。

最後のシーンで彼が泣きながらキスしていた指輪は誰のものだろう。キングスランディングを離れたレイニラが置いていったものかな? そのシーンで流れているのが親子に関するラリスくんスピーチだったので、単純に娘の指輪なのかと思ったが、エイマの指輪だったりする可能性もある? いずれにしても指輪のサイズは女性のものなのか、ヴィセーリスの指にははまっていなかった。

ヴィセーリスの死がS1の山場になるのだろうか。つまり彼はロバートポジなのか、ネッドポジなのかという問題である。ちなみにロバートが亡くなったのは1-7だった。「ハウスオブザドラゴン」は次回が1-7。さあどうなるかな~!

 

 

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