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誰もが「ゴッドファーザー」にはなれない「ザ・ワイヤー」S2ネタバレ感想

 Huluに上がっている「The Wire」を一通り見終えた。若き日のエイダン・ギレンはやはり素晴らしかったが、今日はその前のS2について。

ネタバレあり。

 

「The Wire」関連記事目次はこちら

 

 

なぜディーを殺したのか!!!!!!!!!!!

 S2の感想はこれに尽きる。いや、本当に尽きるわけではない。続く。

ディーことディアンジェロは The Wire の良心だった。

裏稼業で生きていく家に生まれたばかりに背負うことになったいろいろなものと付き合いながら、それでいいのかと悩み続ける青年だった。

家族は大事。でももうだまし合い、疑い合い、殺し合うような毎日は嫌だという葛藤。

誰もが「ゴッドファーザー」のマイケルになれるわけではないのだ。

 

彼はまともに生きていこうと決めたようだった。

エイヴォンらの情報を提供し、捜査に協力すれば刑期は短くなるかもしれない。

彼が普通に生きていく未来を見ることができるかもしれない、と思っていたところであっさり殺されてしまったのである。

最初は刑務所の職員や警察まで巻き込んで「死んだ振り」をしているのかと思った。

ディーが死ぬシーンや死体が発見されるシーンが映っていなかったから。

エイヴォンを罠にかけるための計画なのかと一縷の望みを持っていたのだが、葬式が始まってしまい望みも絶たれた。

あのときの絶望感、喪失感はたまらなかった。

ディーが出所して、普通の仕事に汗しながら充実した笑顔を見せてくれるところを期待していたのに。

 

しかも、彼の死の真相はS2の時点では誰にも気づかれていない。このこともさらに絶望を煽る。

あの世界は「リアル」なだけに、フィクション的な「救い」を求めてはいけないのだ。

それを改めて思わされた。

 

 

群像劇的面白さ

S1と比べ、S2はドラマとしての面白さがさらに増したように思う。

これはわたしが群像劇好きだから、余計にそう感じるのかもしれない。

S2は警察と麻薬組織に加えて港湾労働者と彼らのまわりの犯罪者たちという新たなグループが追加された。これにより物語はいっそう複雑化し、さまざまな思惑が絡み合い、ドラマを盛り上げていくことになった。

S1は少しずつ見進めていったのに対して、S2以降は睡眠時間を削って見ることになったのはこのためである。

(S2は序盤から若い女性13人が殺されるというショッキングな事件が起こるため、物語に引き込まれやすいというのもある)

 

S2でフォーカスされた港湾労働者たちも魅力的だった。

特にフランク・ソボトカ。

経営者であり、部下たちに慕われるボスであり、情勢に振り回される者でもあり、父であり、叔父であり、犯罪に手を染めることもあり、狡猾でもあるが非情に徹することもできない。

バルチェック警視と対立したばかりに追い詰められ、結局は死んでしまう。

彼の死もまたショックだった。

罪を告白しようとした者が、罪を償う機会を奪われて死んでしまうのを見るのはつらい。

しかも犯人は無事に逃亡を果たしてしまう。

もやもや度はS1の比ではない(というか「もやもや」ですむレベルではない)。

 

結局、フランク・ソボトカもヴィトー・コルレオーネにはなれなかったし、彼の息子や甥もマイケルではなかった。これは「そういう物語」ではないのだ。

 

 

エイヴォンとストリンガーの対立

さまざまなパートが入れかわり立ちかわり現れる作中で、わたしがいちばん集中して見ていたのがストリンガーの出るシーン。S2の彼は素晴らしかった。

エイヴォンの腹心として彼を立ててきたストリンガー。エイヴォンが刑務所にいる間は彼が組織を守るしかない。そして組織を守るためなら、彼はエイヴォンをも裏切る。

ストリンガーがその立場を明確にしたのが、ディアンジェロ抹殺の命令を出した場面だ。

 

もともとエイヴォンとストリンガーは違うタイプの犯罪者として描かれてきた。

麻薬の売人からのしあがり大物になっても「チンピラ」感の抜けないエイヴォンと、大学で経済学を学び「ビジネスマン」になりつつあるストリンガー。

対立の片鱗はS1から見えていたが、二人が一緒にいる間はストリンガーはエイヴォンを立ててきた。しかしストリンガーが実質ナンバーワンになったとき、その構図が崩れた。

 

エイヴォンはまだストリンガーの裏切りを知らない。

だが彼が出所すれば、対立は避けられない。

実際、S3で彼が出所すると【S3の感想に続く】

 

この二人の潜在的対立はS2の間じゅうずっと存在し、作品の緊張感を大いに高めてくれたように思う。

 

 

なかなか始動しない主人公、うまくいかない盗聴

一応、この作品の主人公はマクノルティなのだろうが、彼はS2開始時点で港湾警備に回されており、ダニエルズのチームに復帰するのは後半になってからである(ダニエルズのチームが再結成されるの自体も中盤である)。

この物語構造はかなり面白かった。

加入が引き延ばされた分、マクノルティが捜査を開始してからの物語の疾走感、躍動感も大きい。

相変わらず深酒で悪酔いするし女性への手も早いが(ラッセルとの関係は好きだ)、彼がチームに戻ってきたときは彼への好感度も高まっていた。

 

さて、このドラマには難しい点が一つあることにここで気づいた。

タイトルが「The Wire(盗聴)」である以上、盗聴をしなければならない。しかも盗聴こそがメインの捜査方法でなくてはならない。

しかし盗聴という行為には「動き」があまりない。テレビで流す「絵」としてはどうしても地味になる。

しかも盗聴を駆使して証拠をつかみ、事件を解決するだけの話なら、二回目以降は飽きられてしまう。

そこでS2ではこの盗聴に変化をつけた。

盗聴を始めてすぐ、ターゲット(ソボトカ)が盗聴に気づくのである。

S1の相手より手ごわい! ここからどうする! と思わせる展開となった。

今後シリーズが続いても盗聴をメインに置くことは変わるまい(何しろタイトルなのだし)。どうやって変化をつけ、画面に動きを生むのか楽しみである。

 

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