なぜ面白いのか

見たもの触れたものを保存しておく場所。映画、ドラマ、ゲーム、書籍の感想や考察。

聖剣無双で自らの嗜好と向き合う「キング・アーサー」感想

巷で噂の「聖剣無双」に、我が愛しのリトルフィンガー(の中の人、エイダン・ギレンが出演していると知って、ダッシュで見に行ってきた。

 

このブログでもかつて何度か書いた気がするが、およそ「感想」と呼ばれるものはすべて、対象を通して自己を語るものである。作品は自分を映す鏡であり、それを見て何を感じるかは、それまでの自分の人生、触れてきた作品、読んできたもの、それらによって得られた知識と教養によって左右される。感想を書く行為はすべて自己紹介だ。

という前提に立つと、この映画の感想を書くことはひどくリスキーだ。

キング・アーサー」、これは性的嗜好の缶詰というか煮凝りというか茶碗蒸しというか(そんな上品なものじゃないな)、とにかくそういうモノなので、反応してしまった部分はそのまま自分の嗜好の吐露となってしまう。

まあいいか。今さらだよね。

以下、ネタバレを含む感想。

 

 

 

 

音楽がツボ

ストーリーは「スラムのガキから王になれ」+「エクスカリバー無双」の二言で表せるのでとりあえずおいておく。

 

この映画、とにかく最初から最後まで音楽がかっこいい。端的に言うと打楽器乱舞である。さまざまな重さ、軽さ、材質の打楽器が重ねられ、そこにときどき吐息が入る。それが艶めかしい。聴く者の鼓動と呼吸の両方を支配するパワーのある音楽だ。

アクションシーンでは効果音の入る場所まで最初から計算して作ったのかというくらい、タイミングが完璧。サントラには効果音まで含めて収録してほしいと思えるくらい。映画を見て即サントラをポチったのは初めてだ。出勤前とかに流して闘争意欲を高めるのだ。

 

(170713追記)

公式さんがサントラの一部を公開中。貼っておこう。あー聞くだけで映画の場面が思い出される……

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

(追記ここまで)

 

ついでに自己紹介しておくと、わたしは神楽の町で育ったので、太鼓がドコドコ鳴るのを聞くと無条件に興奮と郷愁が呼び醒まされる。映画のアクションシーンでそういう曲が流れるのは大好物である。が、今まで数々の「そういう曲」を聞いてきたなかでもこの映画のは特にど真ん中に直撃するサウンドだった。好き。

 

 

衣装がツボ

時代考証などという些事はどうでもいいと言わんばかりに振り切った衣装の数々、おそらくどなたかが趣味全開でデザインしたのだろうと思わせる。ジュード・ロウに悪役っぽい高貴な黒を着せたかったんだね、わかるよ。特に牢獄へアーサーを訪ねてきたときの、白の開襟シャツ+黒の革ジャンがたまらん。ヴォーティガンには黒、アーサーには白を配置するわかりやすい配置も、画面全体の配色バランスもあいまってツボ。

 

毛皮の描写もツボ。あれ絶対、スタッフに毛皮フェチ的な人がいるでしょ。光の加減で毛の一本一本をあんなに美しく撮るなんて。特にリトルアーサーの着ていた毛の長い毛皮、高貴さと重厚さとそれに包まれた少年の儚い美しさが強調されていて素晴らしい。

 

メイジのフードもツボ。あの質感、あの布の流れ方、アレに憧れない人なんている? 最初はマーリン出ないの? とか思ってたけど、メイジちゃんで魔法使い成分は十分堪能できた。

 

水中から聖剣を持って出てきた女性の衣装もツボ。出たのは本当に一瞬だが、アレに憧れない人なんてry
水の中でのあのスカートの広がり方、漂い方、光のあたり方、あれもフェチ的な職人の仕事だと思った。

 

 

剣を引きずるのがツボ

わたしにとってこの映画で最大の収穫は、大剣を無造作に引きずって歩く描写がツボだと自覚したことだ。

聖剣エクスカリバー、この映画でやたら扱いが雑である。そのへんにポンと置いてあったり、川に投げこまれたり、しまいにはずるずる引きずられる。

アーサーにとってエクスカリバーは「突然つきつけられた自分の過去」「思い出すのもつらい両親との別れ」「戦わなければならない運命」の象徴であり、父親を殺した凶器そのものでもある。ゆえに大事なものだということはわかっていても、どう向き合ってよいかわからない鬱陶しいものでもある。

エクスカリバーの扱いが雑なのはアーサーの複雑な心境を表しているわけだが、この際それはどうでもよくて、でかい人がでかい剣を無造作に(ここ重要)引きずるシーンは素晴らしい、もっと見ていたいと思った。

エクスカリバーはこの映画の第二の主役のようなもので、それを使って何をどう表現するかという点は制作開始時に吟味されたと思うのだが、そう来たか、という感じ。剣技のシーンは「無双の新作PVかな?」的な既視感があったが(とはいえ「ゲームではなく映画で」大真面目に無双描写を試みたという意味では新しそうだし、意義があると思う)、あの大剣ズルズルは本当にかっこよかった。「剣を使ってアーサーの大物ぶりを示す」のに、振りかざす以外にあんな方法があるなんて。

 

 

蛇の目がツボ

逆に知ってた速報、そりゃそういうのは好きですよ当然でしょうの筆頭が、メイジの目が爬虫類、というか蛇っぽくなるシーン。たまらん。たまりませんよこれは。

「ゲームオブスローンズ」でいうところの「狼潜り(ウォーグ)」の能力、それ自体かなり好きなのだが、それに蛇の目を組み合わせられたら、そりゃもうコロっといってしまう。

 

若い女性が蛇を操る」という展開もそれはそれは倒錯的で、しかもそれが巨大化して屈強な男たちを薙ぎ払うとなると、いやあ、あれは鑑賞しながら「アカン」と言いそうになった。ジュード・ロウが巨大化した蛇に襲われるとか、あの場面がこの映画でいちばんヤバいシーンだったのではないか。製作者の趣味が大爆発したとしか思えない。

(それ以前にヴォーティガンは触手モンスターに実質支配されているので、最初から趣味爆発してた。いったいどういうアレなの? いやソレを撮りたかったんだよね、わかるよ……)

 

 

グースファット・ビルがツボ

エイダン・ギレンの演じる彼を目当てに映画を見に行ったわけだが、案の定最初から最後まで彼に釘付けだった。今のところ彼の出演作は「ゲームオブスローンズ」「ザ・ワイヤー」「ブリッツ」を見たが、芸風の幅広さにいつも驚かされる。そういえば今回は脱ぐシーンがなかった。

あの顔は娼館の主というイメージがすっかり刷り込まれているわたしは、序盤で娼館に逃げこんできたグースファットがそのまま娼館の経営者におさまって、部屋を改装し女の子を面接し演技指導までして、あの店をロンディニウム一の娼館に発展させるまでを幻視したのだが、そんなことはなかったぜ

なんとなんとこの映画ではエイダン・ギレンの貴重なアクションシーンを見られる。グースファットさんは剣技よりも弓が得意。アーチャーにしてスナイパーのポジション。あの目でじっとり見つめられようものなら、それだけでターゲットが寝込みそうなのだが、ともかく「射抜く」シーンの彼のアップにはぞくっとした。

「ついでだからマーシアも殺っちゃおう」→「マーシアとグースファットの間には因縁が云々」の流れはもっと詳しく説明してほしい。そこのところ、いろいろ設定があるはずのやつでしょ。過去を高速モンタージュで準備しててもおかしくないところでしょ。DVDの特典とかにつけていただけませんか。別に高速モンタージュではなく2時間スペシャルとかにしていただいても一向に構いませんよ。

 

冒頭でユーサー王の背後にいたことから、おそらくリトルアーサーのことも知っていたであろうグースファット。アーサー誕生のときは王と一緒に喜んだのだろうし、ひょっとしたらお世話をしたりしたこともあったかもしれない。

そんな彼が、成長したアーサーを王に叙任し「我が王」と呼ぶシーンは感慨深い。ユーサーの叙任のときのことを思い出していたかもしれない。あるいはヴォーティガンの戴冠式を思い出していたかもしれない。アーサーの20年と同じだけ、グースファットにも過ごした20年があり、それは平坦なものではなかったはず。

その苦難の先に掴んだ「我が王」との新生活、どんなものになるのかは次回作のお楽しみ、ということだと思うのだが、次回作は制作されるのだろうか。なんとかして続きを見たい。お布施ならする。

 

ssayu.hatenablog.com

ssayu.hatenablog.com