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星竜馬と動機ビデオ「ニューダンガンロンパV3」キャラ語り09

本日は「超高校級のテニス選手」、星竜馬くんについて語ってみよう。前回の斬美さんとは対になる存在である。

例によってネタバレ注意。

 

 

 

 

 

 

求められる/求められない

国民の皆様から求められているという動機で殺人に及んだ斬美さんと、誰にも求められていないことを知って命を投げ出してしまった星くん。あまりにも残酷な対比である。

そしてシリーズ中で最も絶望したまま死んでいったキャラかもしれない。2章までに星くんと仲良くなっていた場合、「自分は彼の生きる理由にはなれなかったのか」と最原くんまで絶望すること請け合いである。

 

過去が現在の動機になる

二人とも「過去」を現在の行動理由にしているところは共通である。といっても人類の大半は「過去」を理由に「現在」を決めるところはあるのだが、その比重が重すぎるのが二人に共通している。逆に言えば、二人とも自分の手で未来を変える気がないのだ。

星くんも斬美さんも、過去を知った上で未来の路線を変えることはできたはず。星くんはせっかく出会ったV3メンバーと絆を結んでいけばよかったし、斬美さんだって職務を投げ出す選択肢だってあったはず。しかしそれをしなかったのは、二人ともたぐいまれなレベルで強いキャラだったから。

 

強キャラ設定

高校生の身で一国を任されているとか、自分を待つ人はいないとか、普通の人なら投げ出してしまうような過去なのだが、残念ながら(というべきなのだろう)二人とも、この「事実」を受け入れることができるだけの強さを持ったキャラだった。

星くんも斬美さんも、もし後半まで生きていたら、捜査でも裁判でも活躍できたキャラだっただろう。頭は切れるし冷静だし、戦闘レベルも高い。そして精神的にも強い。だからこそ壮絶な過去を否定することなくそのまま受け入れることができ、納得した上で自らの死/殺人を実行してしまった。

たとえば2章時点での最原くんであれば、斬美さんのような過去を思い出したとしても受け入れられず投げ出しそうだし、星くんのような過去を思い出した場合でも、一人では処理しきれず百田くんに打ち明けたりしそうだ。

二人とも、強キャラ設定が悪い方に作用してしまった例である。もちろんそのように二人を「設定」し、シナリオがそう発展するよう仕向けたのは主催者側なのだが。

 

フィクション的造形

過去シリーズに比べて、キャラ造形が一段とフィクション的だったV3キャラの中にあっても、斬美さんと星くんは抜きんでてフィクション的である。漫画的であるといってもいい。

前回、斬美さんは「メイド+蜘蛛+石川五エ門東条英機」だと書いたが、星くんはさらに露骨である。

忍者ハットリくん越前リョーマ+猫+囚人=星竜馬

たぶんこんな感じ。

たぶんと書いたのは、わたしは「テニスの王子様」をろくに読んでいないからだ。星くんを語る上で、これは致命的である。全巻読んでから出直すべきだろうか。

星くんの通信簿情報によれば、好きなものはロシアンブルー。猫である。青みがかったグレーの毛並みが特徴。星くんのかぶっている帽子はロシアンブルーがモチーフなのだろう。育成計画モードでも星くんは猫を探していたし(斬美さんと一緒に……)、よほど好きなのだろう。

そして嫌いなものはネムリプカ。なんだそりゃと思ってぐぐったところ、どうやらサメの一種らしい。過去に何があったというのか。サメが嫌いな星くんが、死後ピラニアに食べられるという皮肉。

ともかく、通信簿イベントで語られるエピソードは、両者ともに漫画的だ。星くんのエピソードの元ネタが理解できれば、もっと面白かったに違いない。知識は人生における楽しみを増やすものである。

 

設定が可能にしたトリック

2章のトリックは、星くんが極端に小柄なことを前提にしているといってもいいのではないだろうか。たとえば星くんが最原くん並の身長・体重だった場合、あのトリックは不可能ではないとしても難易度が上がったように思われる。

つまりあのトリックは、抱えた状態でタイヤに乗って空中を横断しても問題ない被害者・半分に区切った水槽に入りきる被害者でなければ成立しない。

前の記事でも書いたように、わたしは体育館ープールー星くんの研究教室という「通り道」は、主催者によってあらかじめ用意されていた「利用してもらうための舞台装置」だと考えている。さらに考えると、あの「通り道」を被害者を抱えて通るとすれば、最も適した被害者は星くんだ。だからこそあの窓は「星くんの研究教室」だった。

2章は動機ビデオによって斬美さんを殺人に走らせ、星くんに死ぬ覚悟を固めさせ、トリックに使うための舞台装置も用意され(星くんの研究教室もプールも2章で解放された)、トリック用の小道具も用意され(夢野さんの研究教室)、何もかもお膳立てされたうえでできあがった事件だった。

過去作においても、各章で用意された「動機」は特定のキャラを狙い撃ちしている点についてはしばしば指摘されてきたが、この2章に関しては被害者も舞台も用意された、まさに「蜘蛛の巣」な事件だったように思う。

 

動機ビデオについて

星くんに動機ビデオの持ち主を教え、結果として彼を死に至らしめたことになってしまったのは王馬くんだった。1周目プレイ時は最原くんの視点から「やはり王馬くんは危険だ」と感じたが、2周目では少し印象が変わった。

星くんのビデオを持っていたのは春川さん。しかし彼女は内容を確認していない。彼女は自室に鍵もかけずに研究教室にいたため、王馬くんが忍び込むのは簡単だった。この際、王馬くんはビデオの中身を確認したのだろうか? わたしは、可能性は半々だと思っている。

あのときはできるだけ多くの上映会参加者を集めるため、王馬くんは急いでいた。誰が誰のビデオを持っているかという情報だけ把握して(冒頭のみ見ればよい)、内容は知らなかった可能性もある。

また王馬くんが内容まで知っていた場合も、その後上映会をしようとしていたことを考えると、その意図がうかがえる。王馬くんとしては、星くんの大切な人がもうどこにもいないという話をみんなで共有し、その上でその動機を無効化=みんなで新しく星くんの「大切な人」になろうと切り出したかったのかもしれない。

そうだとすると、結局王馬くんが上映会を開催できず(しかもよりによって斬美さんのアリバイトリックのために)、星くんが絶望したまま死んだことが残念でならない。いっそ春川さんの部屋からモノパッドを盗んでいればと思うのだが、あの時点の王馬くんは嘘はつくものの、露骨な「悪いこと」はやっていない。春川さんのことも説得するつもりだったのかもしれない。

結局、王馬くんの計画を「蜘蛛の罠」があらゆる意味で上回った。そのことが王馬くんに「覚悟」を固めさせる一因になったということだろう。

 

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