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「ゲームオブスローンズ」を振り返ってキャラ語り ピーター・”リトルフィンガー”・ベイリッシュ

「ゲームオブスローンズ」が終わって一か月以上がたち、やっと少し心が落ち着いてきたので、思い出を振り返りながら好きなキャラについて語ってみたい。

なお好きなキャラの筆頭は当然ながらピーター・ベイリッシュであり、当然ながらまったく落ち着いて語れるわけもなく、まっとうな倫理観を持ち合わせているわけもなく、いつも以上に気持ち悪いテンションでお送りすることになる(宣言)。

改めて考えてみると彼のどこがどんなふうに好きなのか、きちんと語ったことはなかった気がするので、この機会にまとめておこう。

まだ見てない人がこんなページに来るとは思えないが、ネタバレ全開につき注意。

 

 

 

ではでは、リトルフィンガーのここすきポイントを片っ端からあげていくぞ!

 

1. 顔

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http://gameofthrones.com/game-of-thrones/season-4/episode-10/people/100/petyr-littlefinger-baelish

なんて身も蓋もない……いややっぱまず顔でしょ。

この顔がたまらなく好きなわけ。もう初登場シーンから心を持っていかれたわけ。

中の人のチャーミングな表情とのギャップもたまらないわけ。

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2. 衣装&スタイル

当然ながらリトルフィンガーの衣装もたまらん。もう初登場シーンからry

シリーズ後半の鴉っぽいコートも大好きなのだが、個人的にはキングスランディングにいた頃の、あの腰の細さを強調した衣装がいちばん好きだ。エイダン・ギレンがあの衣装を着るために体型に気をつかって自転車をこぎまくっていたエピソードも好きだ。

S2になってちょっとリッチになったリトルフィンガーが衣装チェンジして、サーセイのと似たベルトをつけているところも深読みできる。王家の人間が買い物をするような店で服を買えるようになったのかな、とか。ほしいけど手が届かなかったベルトをやっと買えたのかな、とか。

あの鴉っぽいコートはパープルウェディング前に、サンサの分もおそろいで仕立てていたはずだが、彼ら二人が北に旅立つという噂が暗殺前に広まるのはあまりにも危険。よほど信頼できる仕立屋に頼んだか、ピーターくんが夜なべして自作したのか。二人分。

 

3. 声&アクセント

外見で一目ぼれしたと同時に、声と話し方にもノックアウトされた。↑のピーター・ベイリッシュPVは永久保存版ですぞ。

彼の囁くような独特の話し方は、エイダン・ギレンが意図してやっているもの。「相手が自分の話に身を乗り出したくなるような」話し方を心がけていたという。

それからあの不思議なアクセント。あれはエイダン・ギレンオリジナルの「フィンガーズアクセント」らしい。だから世界のどの国の人が聞いても「変わったアクセント」だという印象のようだ。

わたしも初めて中の人のインタビューを聞いたときは、あまりにもリトルフィンガーと話し方が違うので驚いた。

リトルフィンガーのアクセントは、シリーズ後半になるほど「フィンガーズアクセント」が強調されていく。王都を離れて北に向かうほど、地元の言葉が出るのかもしれない。

が、わたしはマネシツグミを推している。

無名のベイリッシュ家には紋章がなかった。リトルフィンガーが自分でデザインするまでは。その紋章はマネシツグミ、ほかの鳥の鳴きまねをする鳥の意匠である。

自分は相手に合わせて鳴き声を変えられる小鳥。さえずりひとつで国を傾かせる小鳥。かつて力でほかの男に屈服させられた自分の最大の武器はこの声。

そういう彼の矜持を表すのがこの紋章である。

だから、王都で客商売をし貴族たちの信頼を得るためには「標準語(ミッサンディの話す言葉があの世界の最もきれいな『標準語』のはず)」に近い話し方を。訛りの強い北部で信頼を得るには、標準語よりも自分の地元の言葉を出す方が良い。

そんな判断があったのではないかと想像する。

 

4. マネシツグミのピン

最初に見たときは「なんかかわいいピンつけてるな!」というだけの印象だったあのピン、上で書いたとおりのいわれがあると知ってからはもう、非力な彼の唯一にして最大の武器の象徴だとわかり、あのピン無しのリトルフィンガーなど考えられないレベルに。

数年前にあのピンを誕生日プレゼントとしてもらって以来、かなり普段使いしているので、周辺にスターク推しの人がいたら袋叩きにあわないかと常にヒヤヒヤである。

 

5. 出自を努力でカバーして出世するところ

特に原作では、リトルフィンガーの出自はかなり低いと明言されている。少年だった彼を半ば人質として預かり育てた(そして後に追放した)ホスター・タリーは、彼のことを「あのみすぼらしい小僧」呼ばわりしている。

「リトルフィンガー」というあだ名も、幼い頃に一緒に育ったエドミュア・タリーがつけたもの。タリー家で育てられた彼がどんな環境に置かれていたか、そしてそんな時に優しくしてくれたキャトリンにどんな感情を抱いたか、想像すると心が痛い。

でも彼はブランドン・スタークとの決闘に敗れ、タリー家を放り出されたあと(これも彼は完全に被害者だった事件がきっかけで追放されているので本当にかわいそう)、税官吏の仕事を経て王都での仕事を得る。彼は自らの努力によって一歩ずつ梯子を昇り、そしてとうとう財務大臣にまでのしあがった。

あの貴族主義社会の中で、後ろ盾になる家もなく腕っぷしも弱い彼が出世するのは困難を極めたはず。でも彼はやりとげた。まあ何人かライバルが消された可能性はあるが、些細なことである

 

6. 過去のあやまちを繰り返さない学習力・正しい努力の方向性

リトルフィンガーにとって最大の挫折は、ブランドン・スタークとの決闘に敗れてキャトリンを奪われたこと。そしてその敗北の原因は、武勇で知られるスタークの男に剣で立ち向かったことだ。

15歳の少年にとって、自分が剣の腕ではほかの男たちにかなわないと認めるのはかなりつらかったはず。でも彼はそれを認めた上で、別の方向に努力を始める。苦手分野の克服ではなく得意分野をのばす形での努力だ。

その結果、彼は見事に才をのばした。

腕っぷしでは彼を優にしのぐ男たちが、彼を暴力で屈服させようとした男たちが、つまりブランドンやネッドが(ネッドも彼のことが気に入らないからって、とりあえず力で押さえつけようとしたもんなー。ジョンも同じ。彼はスタークの男だから)、彼より先に死んでいった。権謀術数を駆使することで、彼を侮った男たちが何人も、いともたやすく死んでいった。しかもまったく疑われることなく。

これこそ正しい努力の方向性だ(現実世界で真似しないでください)。

 

7. 「動機のない者は疑われない」

凡百の推理小説作家からは出てこない台詞である。

 

8. しかしサンサを守るために危ない橋を渡る

これは4-7「月の扉」放映後に描かれた公式絵。

この回でリトルフィンガーは初めて自分の手で直接人を殺す。それは共犯者の口封じでもあり、15歳のときに怪我で動けない自分を○○○した相手への復讐でもあり、サンサを守るための行為でもあった。

アイリーを手に入れた時点でライサは用済みだったから、遠からず殺すつもりではいたのだろう。だがあんなタイミングでやっては、誰がどう見てもごまかせない。「動機のない者は疑われない」と口にし、それまでどんな相手を殺すにも周到な準備を重ねてきた彼にしては、あまりにも性急だった。

実際にあのあと彼は最大のピンチを迎えてしまう。サンサが「共犯者」になってくれなければ、彼はあそこで終わりだった。

でも、そこまでしてでもサンサを守りたい気持ちが勝ったのだろう。彼女を守り、導きたい気持ちは本物だったと思っている。

そして結局、この事件がもとで彼もまた命を落とすことになる。

ところで↑に貼ったイラストだが、いろいろな含意がありそうで読み解くのが楽しい(このイラストレーターさんは誰かが死ぬたびにそれを一枚絵で表現していて、どの絵も本当に素晴らしい)。

ロビン・アリンが月の扉から投げ捨てたガラスの鳥が、ライサに見立てられている。わたしはロビン=リトルフィンガーの息子説を推しているのでこの見立てはかなりぐっとくる。手が真っ黒なのがすごくいい。服の模様は鳥の止まり木のようでもあり、梯子のようでもある。

添えられた台詞 "I lied for you. I killed for you." はライサのだけど、これはリトルフィンガー自身の心境を表す言葉でもありそう。その場合 "you" とはキャトリンだ。キャトリンのために人々を欺き、キャトリンのために大勢を殺した。でももうその彼女はこの世におらず、残されたのは目の前にいるサンサ。

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http://www.makinggameofthrones.com/production-diary/see-the-final-beautiful-death-from-season-7?rq=littlefinger

7-7後に公開されたこの絵も素晴らしい。

蜘蛛の糸に絡めとられて死んでしまった小鳥ちゃん。地面に走る亀裂は梯子から墜ちたことを表しているのか。流れる血と地面の亀裂が梯子の形になっている。また地面の下の方には月のマーク=アリン家の紋章&月の扉の暗示がある。握りしめた手紙には赤い糸=恋心が結びついているが、糸はどこにもつながっていない。

 

9. Game of Thrones のプレイヤー

彼は「ゲームオブスローンズ」のプレイヤーだった。盤を整え、駒を並べたのは全部彼。駒を動かし、ゲームを進行させたのも彼。ティリオンすら、自分が何のゲームに巻き込まれたのか最後までわかっていなかった。

そこに盤があることに気づいたのは、人智をこえたブランだけ。

そして彼と同じステージに上がることができたのは、彼の弟子であるサンサだけ。

やっぱりわたしは、このドラマのタイトルが Game of Thrones である限り、ラスボスはピーター・ベイリッシュ――低い出自からのしあがって旧体制をことごとく破壊し梯子を昇り続けた、無力な小鳥にして「小指」――であってほしかった。

S7終了時にも書いたが、わたしにとっての "Game of Thrones" は彼の死とともに終わり、だからこそS8は最初から完全に「敗戦処理」のつもりで比較的冷静に(といってもあの騒ぎようだったが)見ることができたように思う。

……まあね、自分の推しが死ぬシーンで全世界が歓声をあげるのを目の当たりにしてしまったら、もう大抵のことには動じませんよ。あそこから立ち直るのにどれだけの時間がかかったか。

 

 

なお現在のエイダン・ギレンは、新ドラマ「プロジェクトブルーブック」で主演中。

www.youtube.com

リトルフィンガーとは正反対の、誠実で温かみのあるキャラクター(でもこれがまた知的なんだな)を演じている。

ピーター・ベイリッシュを知る人なら、キャラのギャップに驚くこと請け合いなのでぜひご覧あれ。

 

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