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ジョン・スノウ=オイディプス王説「ゲームオブスローンズ」考察

また明日の夜には阿鼻叫喚になるのがわかっているため、今夜のうちに8-1を見て考えたことを出しておきたい。

今日は You know nothing っぷりが最高潮のジョン・スノウについて。

ネタバレ全開につき注意。

 

 

成長しない主人公

ジョン・スノウが主人公かどうかについては議論の余地があるが、メインキャラのひとりだということは間違いない。

しかしこの主人公、作中でも最も変化しないキャラのひとりでもある。最終シーズンまできて You know nothing の独走体勢。そろそろ分別を身につけてほしい。

 

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こちらは8-1放送後に公開された、ベニオフ&ワイスのインタビュー記事。S1時代から最も変化したキャラクターは? との問いに、彼らはサンサだと答えている。わたしも同意見だ。

S1の頃は王子様にあこがれる田舎育ちのお嬢様、得意なことはお裁縫でーす! だった彼女は、ウェスタロス屈指の政治家、策謀家の間で揉まれた結果、いまや北部随一の賢人となった。今のサーセイに対抗できるのは彼女くらいではないのか(少なくとも8-1の書き方ではティリオンが気づいていないサーセイの危険性に、サンサは気付いている)。

スタークの理想とする女性は、キャトリンのような「夫を支え、子供をたくさん産み、育て、裁縫ができる」タイプなのだろう。そして幼いサンサはそんな女性になろうと努力していた。そんな生き方が彼女を守ってくれることはなく、結局彼女はスタークの理想とはまったくはずれた成長をとげる。

「理想的なスタークの女」からはずれるだけではない。彼女の生き方は「理想的なスタークの男」からも大きくはずれる。理想的なスタークの男とは、よくいえば誠実、悪くいえば愚直であり、S1でジョフリーに処刑されるような人間である。嘘の証言をしたり、生き残るすべを探して敵と手を組んだり、人を処刑するのに犬を使ったりとかはスターク的には言語道断ではないのか。そんな「理想のスターク」に育たなかったからこそサンサはここまで生き延びた。ピーター・ベイリッシュの教えのおかげである。

 

一方のジョンはといえば、確かに成長描写もあったように思う。壁で訓練を始めたばかりの頃、自分が剣技に優れているのは必ずしも身体能力の高さや才能のためではなく、まがりなりにも「スタークの息子」として剣技の稽古を受けさせてもらえた、その恵まれた環境のゆえだと指摘され、理解したこと。このエピソードは印象に残っている。

それ以外には……「スノウ」という日陰者の人生を歩むことを半ば受け入れていた彼が、ナイツウォッチ総帥、そして北の王になる覚悟を決めた、あたりは成長と言えるのかな。

しかしジョンはまったくどこまでも「スターク」なのである。よくいえば誠実、悪くいえば愚直であり、S5で人望を失いアリザー・ソーンその他に殺されるような人間である。しかもせっかく生き返ったのにそこからほとんど学んでいない。いまだに You know nothing 路線をひた走っている。これがいちばんまずい気がする。

ジョンが殺されたのは、ざっくりいえば壁に野人を連れてきたから。ホワイトウォーカーに対抗するため、協力関係を敷かねばならないという判断からの行動ではあるが、受け入れられずに反発を招いた。

ジョンの判断は現場での合理的なもので、強大な敵を前にして協力すべきだというのはド正論である。しかし正論がどんな場面でもすべての人に受け入れられるかといえば、そんなわけがない。誰にだってそんな経験があるはずだ。

本当に人類のためを思うなら、ジョンはスターク式正論ゴリ押しではなくもっと有用な手を考えるべきだった。アリザー・ソーンのような汚い大人に正論砲なんて通じるわけがないが、上手に顔を立てておけば根回しが不可能な相手とも思えない(今のサンサなら、そのへんうまくやると思う)。またオリーのような感情的になっている子供に対して正論砲の後に放置なんて、悪手中の悪手である。

あそこでジョンが死にっぱなしだったらどうなっていたか。野人は露頭に迷い、ホワイトウォーカーの危険性を周知できず、人類はさっくり滅んだかもしれない。スターク式正論砲の結果、人類が滅ぶところだったわけだ。

なのにジョンはそんな大変な経験からあまり学んでいないように見える。

ホワイトウォーカーに対抗するため、人類は協力すべし。壁に野人を連れてきたのと同じように、北部によそ者やドラゴン(なんでも食べるよ!)を連れてきた。お前、ここにきていまだに正論砲一択かよ。もうちょっと何かないの? 人は正義感や漠然とした危機感だけでは動かない。大事なのはインセンティブなんすよ。

ていうかマジで兵站どうなってんの。それを気にしてるのがサンサだけって大丈夫なの。

頼む! そろそろ覚醒を見せてくれ! 出自を知ることによって俺はスタークをやめるぞネッドーッ!! ってことになってくれないかな!

 

 

ジョン・スノウ=オイディプス王

前置きが長くなったが、8-1を見た直後に書いた記事でジョンのことを「オイディプス王」と書いて以来、なんとなくこの発想が気になったのでその件についてまとめておくことにする。

まずはざっくりと両者の共通点について。

貴種流離譚

高貴な生まれの人が誕生時のごたごたで、正統な立場で育てられないんだけどたくましく成長して戻ってくる話のパターン。

幼いうちに出生の秘密が周囲に知られたら殺されていたであろう点、いろいろあって戻ってきた場所で王になる点も共通。

 

近親相姦

実の父を殺して実の母と結ばれるのがオイディプス。実の叔母と結ばれたのがジョン。

 

女性の知性の軽視

先に真相を察した母(兼妻である)が自殺しようとしてオイディプスのもとを離れるが、You know nothing なオイディプスはそれを「女性は気が弱いからこの話の続きを聞きたくないんだな」と勘違いする。もちろん彼女はオイディプスの見ていないところでさっくり死ぬ。

ジョンがサンサの成長をまったく理解していないのはS7でたっぷり描かれたが、8-1でもアップデートされていない。

 

全部割とよくある話のパターン、というかオイディプス王がもとになった物語なんて世の中に山のようにあるのでこれが元ネタだ! とか言う気はないのだが(そもそも You know nothing 譚のおおもとがオイディプス王なわけで)、このままいくとデナーリスかサンサが死んでジョンは盲目になるぞ。

そういえばオイディプス王は卜占によって真相を聞かされたときは信じようとしないどころか逆ギレするわけだが、ジョンはこのあとどんな反応をみせるだろうか。伝えたのがサムで、根拠がブランだから……いやジョンはブランが三つ目の鴉になってるのをまだ理解してないっぽいしな……。

ジョンが真相を信じたとして、それをデナーリスにも信じさせるのは至難のわざだと思われる。彼女が信じたとしても「そっちの王位継承権の方が上なら仕方ないね」と正論砲に納得するかどうかは疑問である。なお過去に正統な王位継承権にスターク式正論砲で固執した結果、処刑されたのがネッドである。

さらにデナーリスをクリアしたとしても、民衆にジョンの正統性を理解させるのはさらに難易度が高いと思われる。ブランの能力を知らないからなあ(リトルフィンガー処刑シーンで全員がブランの能力を理解していたとは思えないのだが、そこは見なかったことにする)。

ターガリエンだと信じてもらうのにいちばん手っ取り早いのはいっぺんドラカリスされてみることなのだが、いかがだろうか。ターガリエンでもヴィセーリスは緊急戴冠式で死んでしまったし、ジョンも壁にいたときは火傷していたような気がするが、残り話数を考えるとじっくり足場を固めるには時間が足りないのでさくっと燃やされてくるのがいい気がする。いかがですかエイゴン・ターガリエンさん!!!

 

オイディプス王が自ら盲目になったのは、今まで世界を見ていたつもりだったのに、理解できていなかったのだということを象徴している(英語などの諸言語で、see は「見る」と「わかる」の意味を兼ね備えているから、日本人よりもここの重なりはかなり実質的なものだと思われる)。

つまり You know nothing の行きつく先の出来事である。

ジョンにはエンディングまでオイディプス王と同じにはならないでほしいので、そろそろ You know nothing 路線から降りよう。

ただ、スターク式正論砲を改めたとして、変化後がターガリエン式ドラゴン砲だとしたら未来は暗いかもしれない。

がんばれジョン。サンサの叡智を借りるんだ。

 

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