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「カラフル」な弁護士に変身☆「ベターコールソウル」S2感想

「ベターコールソウル」S2も順調に視聴し、順調にしんどさでのたうちまわっている。

「ブレイキングバッド」とはやっぱり裏表の関係になっている気がするぞ、このドラマ!

さっそく感想いってみよう。ネタバレ全開につき注意!

 

 

 

チャックの歪み

1-9でわたしをブチ切れさせたチャックだが、S2ではさらに彼の歪み方が丁寧に描かれていた。そして断片的にではあるが、彼がなぜ歪んでいったのかも少しずつわかってきた。

チャックはジミーに嫉妬している。

人懐こくて、誰からも好かれて、要領がよくて、なんだかんだで努力もできて才能もある弟。

まじめで手のかからない子供だったであろうチャックには、きっとまわりがジミーばかり構い、彼の言葉で笑顔になるのが気に入らなかったのだろう。

憎まれっ子世に憚る? だめな子ほどかわいい? 

まじめ一筋でやってきたチャックにとってそんな弟が憎らしい気持ちはわからなくはない。不正などせずに生きてきた人の方が評価されるべきだとわたしも思う。しかしなかなかそんなふうに理路整然と感情を制御できる人ばかりではないわけで。

母親の亡くなるシーンが非常に象徴的だ。チャックの前で、母親はジミーの名前を呼んで亡くなった。チャックが「ジミーじゃない、ここにいるのはチャックだよ」と言っているのに、彼の声なんて聞こえていないようにジミーの名前だけを呼んで。あれは確かにつらい。戻ってきたジミーに本当のことを言えなかったのもわかる。

 

あとは妻との関係。チャックが既婚者だったことにまず驚いたわけだが、彼女とは現在別れているということだろうか。いつ? 何がきっかけで? 病気が原因?(正直、今のチャックと生活できるのはジミーくらいだと思う)

彼女はジミーのジョークに笑い、チャックのジョークはスルーである。あのシーンも確かにつらかった。チャックの心情もよくわかる。自分で彼女を笑わせたかったのだろうに(というか同居相手と笑いのポイントが違うというのはなかなかの苦痛だと思うのだが、よく結婚に至ったな)。

 

父親のエピソードは少々ベクトルが違う。

チャックがキムにあの話を語ったとき、真っ先に「お金を盗っていたのはジミーではなかったのでは?」と思った。その誤解がいろいろなことの原因だったのではないかと。

実際のところジミーも盗っていたわけだが、町中の小悪党のカモにされてたんじゃ仕方ないよな~~! そしてジミーは彼らから「やり方」を学んでいたわけだ。自分は羊ではなくオオカミになるのだと心に決めて。

父親が亡くなり、ジミーが疑われたのが何歳の頃だったのかはわからない。だがまったく自分の言うことに聞く耳を持たず、自分だけを責め続ける兄の姿に何も感じなかったことはないだろう。それともその頃にはもう「自分の役回りはこういうもの」だと思ってしまっていたのだろうか。だとしたらそれも悲しい。

わたしはチャックに信じてもらえなかったことが、ジミーが「小悪党」になった原因なのかと思ったが、子供の頃からお金を盗っていたのならそうでもないのか。

ただあのエピソードを「あの自称『オオカミ』が煙草を買って出ていったことを知ったら父親が傷つく」から、ジミーはお金を「隠した」のだと解釈することもできなくはないなと。

 

ともかく、そういうあれこれを重ねてジミーを憎むようになったチャック。わからなくはない。

そして弟ばかりがかわいがられる環境で、法律が唯一の自分の強みになっていったのもわからなくはない。チャックにとってジミーがしたこと(司法試験合格)は、そんな彼のアイデンティティを脅かすことだったのだろうということもわからなくはない。たぶんそのことが彼の発病の原因だったのだろうと、もうほとんどわたしは確信している。

でもだからって、妨害はだめだろ!

それから、ジミーが自分のことをどれほど大事に思っていてどれほど心配していてどれほど弁護士として尊敬しているか、をきっちり理解した上で、それを前提としてジミーをはめるのもダメだろ!(ジミーの行為も完全にアウトなわけだが、それはそれとして)

アレが本当に法的な証拠になるのかどうかわたしにはわからないのだが、ほかでもないチャックがやったことなのだから、何か作戦があるのだろう。あ~どうなってしまうんだ。

 

キムからチャックへの本音

S2ではなかなかはっちゃけた姿を見せたキム。アレはキム的にはアリなのか。確かに明白な違法行為ではないわけだが、なんていうか結局彼女も「オオカミ」の側なのだろうか……。"More" を望む彼女だしな。相手が明らかに「羊」ではないから、まだアリに感じられるのかもしれないけれど。

しかしジミーのせいで彼女の立場は上下しすぎである。あれはドラマだから起こることだと言ってしまえばそれまでかもしれないが、アメリカにおける雇用者の立場が不安定すぎてわたしならすぐに精神を病みそうだ。

そしてチャックがキムにジミーのしたことを話した際、キムは事実をおおよそ推察しながらもチャックの言葉を退けた。彼女はジミーの献身的な姿を知っていて、なおかつチャックの裏切りも知っているから。彼女があそこでジミーの側についてくれたことでわたしはほっとした。

しかし「ブレイキングバッド」で彼女の姿が見えないということは、どこかで彼女は退場してしまうのだろうか。S2で新設した事務所もBrBa時代のジミーの事務所とは違う。どこかで袂を分かつことになるのだろう。

彼女が死んだら、ジミーも視聴者も揃って闇堕ちしそうだ。それくらい彼女はこの番組の癒しであり良心になっている。

 

風船人形からの変身シーン

S2いちばんの見せ場といえば、やっぱり7話の風船人形でしょ!

あれは音楽も画面構成も配色も、何もかもがうまく絡み合ってテンション爆上げだった。なんだよ~あの魔法少女の変身シーン並の演出! 最高か! その前にジミーが言った「カラフル」な弁護士というセリフも活きて……いやカラフルってじゃないから!! あと大は流そう! な!

ジミーがひとつずつ段階を踏んで「ソウル・グッドマン」になっていくのが楽しくもあり、悲しくもある。デイヴィス&メインをクビになったあとは衣装が戻ってしまったから、あれが普段着になるにはもう一段階必要だということか。

S1の最後ではデイヴィス&メインからの申し出を断る雰囲気に見えたが、1話で彼はやはり話を受けることにする。今度はキムが彼の良心になったわけだ。彼女の「正しさ」を、ジミーは外部装置として受け入れようとする。チャックはもう彼の「正しさ」にはなれないから。

ところが彼女のくれたタンブラーは、社用車のカップホルダーにはまらない。BrBaでもこの類いの比喩表現がとても上手かったが(ハエ回とかな!)、今回もベタながら上手く機能していたと思う。

キムの「正しさ」=ジミーの良心は、デイヴィス&メインの枠にうまくかみ合わない。このためジミーはあのオフィスでやっていけず、彼のあおりをくらってキムも降格されてしまう。

この流れで、ジミーは「キムのために」何かしたいと考える。そこからの一緒に独立の流れは納得感があった。別々のオフィスとはいえキムが独立に同意したのも嬉しかった。ジミーの良心が形を結んだかに見えた。

しかしキムよりもチャックの方が一枚も二枚も上手だった。チャックがあそこで無理を押して出てきたのは、やはりジミーへの対抗心からか。

で、結局ジミーは「キムのために」不正を働く。あの状況でキムを応援したくなる気持ちはよくわかる。あれだけのことをしたチャックに義理を感じる必要がないのもわかる。しかしここではキムはジミーの良心として機能していない。

 

「兄のために」正しいことをしようとしたS1のジミー。

「キムのために」正しいことをしようとしたS2のジミー。

彼はまだ「自分のために」生きることができていない。

スリッピングジミー」だって、1-10を見る限りほとんど「マルコのために」存在しているようにも思えるのだ。

果たしてBrBa時代のジミーは「自分のために」生きているのだろうか。そしてBrBa後のジミーは? 

 

つくづく、ジミーは「ブレイキングバッド」という物語のスピンオフ主人公としてしっくりくる。ウォルターは「家族のために」メスを作り始め、しかし最後はそれらは「自分のために」したことだと認めて死んでいった。

ジミーも同じ道をたどるのだろうか?

わたしはそれはあまり望んでいない。クリエイターがまったく同じものを作りたがるとは思えないからだ。

しかしどういう形であれ、一度はジミーも「自分のために」生きる方に舵を切る日が来るのだと思う。それが楽しみでもあり、不安でもあるが、ひとまずまだある続きを見ていくことにしよう。一気見できる幸せである。

 

各話感想

以下はドラマを見ながらのメモ。

 

1話

なんか1話目からもう泣きそう。キムとジミーの笑顔が……もうこんな幸せな日は二度とないような気がして。ココボロ? で笑ったと同時に泣いちゃった。どうしてかな……。ジミーは夢をかなえたけど、もうかつての夢はそこにないんだなって。キュウリジュースも切っちゃダメシールも、全部今までのジミーならやらなかったこと。だんだんジミーからソウルに「なって」いくのかなあ。

 

2話

これが天才というやつか……。マイクさんも相変わらず有能。そして絶妙に「ぱいしったー」やりそうな依頼人なのがまた。公共交通機関の中で見るのは危険な話であった。

(この回は本当に笑わせてもらった。あのダメな売人の役者さんもすごすぎる)

 

3話

あかん……わたしキャラがいかにもバレそうな隠し事をするのがめちゃくちゃ苦手で…(なんでBrBa見たんだって話なんだけど面白かったから胃を痛くしながら頑張って見た)これも苦手な展開になってきた! うう……いずれあそこから出ていくだろうというのはわかってたけどしんどい。

(CMの件を隠す展開に胃を痛めているところ)

 

4話

マクギル兄弟はちょっと共依存入ってるんじゃないかな。ジミーの方も兄に依存して、「献身を続ければいつか認めてもらえる」と思っているように見える。

チャックは「お前は自分の罪を認めないのがダメだ」って言うけど、それそのまま自己紹介になってるってわかってないよね。相手が自分の下にいてくれないと安心できないんだろうな。病気の原因もそれだよね絶対。

 

5話

お金を盗ったのはジミーじゃないんじゃないかな…。それがいろんなことのきっかけだったらつらいな。

 

6話

ジミーの素足

これはドラマだしいくらなんでも極端なケースだと思うけど、アメリカの弁護士事務所の雇用の不安定さがやばすぎてわたしならすぐに病みそう。身分のジェットコースターすぎる。

(わたしは素足フェチである)

 

7話

あのバルーンに、まわりに翻弄される自分を見て切なくなってしまったのかなあと思ってたら、なんなのその不敵な笑顔!? からの変身シーンでしょ……今まででいちばんテンション上がっちゃった! で、キムには何て返事をするのかなー。

 

8話

・キムをすごく応援したいんだけど、チャックがガチで有能で……。でもこれ絶対もたないよね。

・ジミーは何を仕掛けたのかwktk

・今頃言うけどオマールは最後までいいやつだったな。出世するといいね。

・マイクさんの物騒なわくわくさんっぷりも楽しみ。今回ジミーもマイクさんもいけない工作シーンがあってどっちも好きだった。

(工作回でしたねー)

 

9話

日頃思ってることが明確に表現されてて興味深い。

二者の間に情報の食い違い(意見ではなく情報)があった場合、自分と相手どちらが間違っていると感じるか。わたしは自分が相当のうっかり者だという自覚があるのでまず自分が間違えたと思うんだけど、必ず相手が間違ってると主張する人っているよね。実際に相手が間違えている場合もあれば、本人が間違えていたところも見たことがある。

思い違いなんて誰にでもあることなのに、なぜ確認する前から自分の正しさを確信できるんだろう? いったいどれほどの成功を積めば、そんな精神に至るのか。あるいは「失敗した数が足りない」のかもしれない。

わたしはチャックについては、「ミス」そのものよりもその後相手が(しかも顧客が)間違っていると決めつけた態度が問題だったと思う。いくらそう確信できるだけの自信があったとしても、そういう反応をする人と仕事したくないもの。

 

10話

おいいいいいいいそんな! もうジミーはいろいろと彼から離れた方がいいと思うんだけど、やっぱり共依存っぽいところあるよね。逆にどこまでのことが起これば離れられるんだろ。キムの本心が聞けたのはよかったな。

で、マイクさんは誰にメッセージもらったんだろ。一人しか思いつかないけど……。もうS2のマイクさんはかっこいいシーンの連続で、銃を構える姿がほんと絵になるなあと思いながら見てた。

今回も長々と語ってしまったが、ジミーの気持ちに寄り添いながら見ていると精神的負担が重すぎてなかなかにつらい。「ブレイキングバッド」の頃からそうだったよなあというのをひしひしと感じながら見ている。
さて、胃が痛いけどS3いくか……!