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愛と呪いとその先について「バディミッションBOND ヴィンウェイより愛をこめて」感想

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「バディミッションBOND」に何らかの形で続編が出たらいいなあとこのブログで書いたのは今年の初めの頃だった。それがあれよあれよという間に実現し、CDドラマ発売の運びとなった。

バディミの売り方を見ていて、これはある程度売り上げがあったらCDドラマなりノベライズなりの形で展開を見込んでいそうだとは思っていたが、思った以上に迅速な流れ。わたしは基本的にはゲームの続編はゲームで出してくれ派だけど、それにはそれなりにお金も時間も必要なので、「何かしらの続編」が出てくれたことにとりあえずの感謝だ。正直にいえばQTEとクイズに邪魔されないバディミはストレスがなくて良い(まだ言ってる)。

先日発売されたドラマCD第二段「ヴィンウェイより愛をこめて」は、あの物語の続編として申し分なく、モクマとチェズレイの間に生まれた絆の先を見せてくれるものだった。同時に、ゲーム本編のプレイヤーによる様々な考察の答え合わせにもなっていた。

そのへんについての自分の解釈と考察を書いておくことにする。

ゲームもヴィン愛もネタバレ注意。

 

ゲーム本編クリア時の感想はこちら。

ssayu.hatenablog.com

 

 

 

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サティアからの手紙

ドラマ終盤、サティアからの手紙をモクマさんが読むシーン。初めて聴いたとき、わたしはあそこでサティアの声優さんに交代するものだと思った。だが声はモクマさんから変わらなかった。すぐに、声を変えなかったことには意味があるはずだと思ってセリフを聴いた。モクマさんが、モクマさん自身の声でサティアの言葉を代読する意味があるはずだと。

そうしたらまあ、あの手紙はやっぱり、モクマさん自身の過去とも重ねられる内容になっていた。

「いちばん大切なものを手にかけてしまう」というところは完全にモクマさんの過去と重なる。

当時のモクマさんにとって「いちばん大切なもの」が何だったのかは解釈が分かれるところだろうけど、守り手として育てられた力を守るべきものに向け、結果として里での生活を失い、守りたかった「お姫様」のそばにいられなくなり、最後にはナデシコさんとも別れた。「いちばん大切だったもの」が何であったとしてもそれを守りきれず、自分の手で傷つけ、失うことになったはず。

「いちばん大切なものを手にかけてしまう」ことを恐れて自ら命を絶った人の遺書を、「いちばん大切なものを手にかけてしまった」モクマさんが読んでいることになる。つまりチェズレイの母親とモクマさんの視点がこの部分では一致している。

ある意味で、過去のモクマさんにはできなかったこと(=大切なものを守る)をサティアはやり遂げた。この時点でモクマさん自身もそれに気づいたはず。

なぜ過去のモクマさんにはそれができず、サティアにはできたのか。その差が「愛」にあったのだということも、モクマさんはこのとき気づいたはず。

モクマ少年は自分にも他人にも無頓着というか無執着で、タンバ様には敬意を、イズミにはほんのり憧れや恋心を抱いていたかもしれないが、やっぱりそれは「愛」と呼べるものではなかった。

そんなあれこれについてここで気づいた結果が、後に出てくる「君の人生は、愛することだった」につながったのではないか。

 

またその前の、嫉妬を語る部分はフウガの心情と重ねられる。あのくだりはそのまんま、フウガがモクマに向ける感情の吐露として聴いても違和感がない。彼はストレートにそんな言葉を口にするとは思えないが。ともあれ、今のモクマさんはかつてのフウガが抱えていた嫉妬の感情も理解しているはず。

(ちなみにタチアナのキャラは、チェズレイのストーリーラインにおける「フウガ役」である。本来自分に向けられるべき愛情がほかの人に向けられることへの嫉妬はそのままだし、そこから嫉妬の相手を亡きものにしようとするのも同じだし。ただしフウガが死ぬのは止められず、タチアナの死を止められたのは、バディミ本編を通した成長の差分といったところだろうか)

その後の「チェズレイを自由にしてあげて」「呪いから解き放って」の部分は、里と父親とモクマへの感情に縛られ続けたフウガとも重ねられるし、過去の罪に囚われ続けたモクマさん自身にも重ねられる。

「自分自身の過去を他人が語ったら同じようになるかもしれない」と、モクマさんはやはり気づいたはず。

サティアの言葉はチェズレイにとって「自分はちゃんと愛されていた」と今になって知ることができた意味があり、モクマさんにとっては自分の過去を客観視し、整理するきっかけをくれた意味があった。 

 

チェズCAとの会話

で、それをふまえて、モクマさんとチェズCA(シナリオブックの役名を確認して笑ってしまった)の会話を聴いてみると?

「のびのび生きてる」「傷さえ武器にする」「よく笑う」は今のモクマさん自身のことでもある。

「あの日の自分に力があれば」ももう、全力でモクマ少年と重ねられる。

「守れなくて、ごめんな」はモクマさん自身が過去に守れなかったいろいろなもの(フウガも含めて)に対する言葉でもあるし、自暴自棄になってしまった過去の自分に対する言葉でもあったかもしれない。守り手として立つためには、まず第一に自分自身を大切にしなければならないのだと、今の彼はわかっているだろうから。

あのシーンはチェズレイの救済であると同時に、モクマさんの方も自分の過去を客観視した上で受け入れることができたことを示している。

そもそもバディミ本編全体が、

「あのとき救えなかったあの人」にまつわる傷を抱えた人たちが仲間と出会い成長し、「今度こそ救うことができる」という形で閉じられる物語

  (過去記事からの引用。以下引用部分は全部この記事から)

である。BONDメンバーはそういうキャラばかりなので、実はあの手紙の内容であれば、ルークが読もうがアーロンが読もうが似たような感じで過去と重ねられるようになっている。このへんはモチーフの重ね方の妙である。

 

そんなわけでたぶん、あのあとモクマさんが母親と再会したら、チェズCAに語ったのと同じようなことを言うんじゃないかな。

「今はのびのび生きてる」「よく笑う」「今までごめんなさい」って。

そしてその隣でチェズレイが「どこかで聞いたセリフですねェ…」って内心で思ってるはずだ。 

 

チェズレイをめぐる呪いと愛について

チェズCAがチェズレイの母親の姿を模したものではないかということについては、わたしも過去記事で言及したし、おそらくファンの間ではその手の考察がそこそこ認知されていたものと思われる。ヴィン愛はその考察に対する答え合わせでもあった。

やはりチェズCAは、姿も声もチェズレイの母親を模したものだった。

それはチェズレイにとってのアニマであり、「母親を殺した」自分に対する罰であり、一方で「自分だけでなく誰にも母親は救えなかった」ことを確認する一種の試し行為でもあった。

そんなことをしていた彼が、「誰にも救えなかった」はずの「母親」を空まで迎えにきたモクマさんと出会ってしまい、しかしモクマさんのその行為が実は遠回しな自殺だったことに気づいて怒りに震え、彼の本性を暴きたて、その末に墜ちていくモクマを「今度こそ救う」ことができた。それは母親に対する贖罪であり、少年時代の自分の救済でもあった。

モクマを救うことができたとき、つまり少年時代にはかなわなかったことをかなえたとき、チェズレイの(あるいは母親のかけた)呪いは解け、チェズレイは自分自身を救うことができたのである。

と過去のわたしは書いた。

一方でわたしはこうも書いている。

ファントムの横を素通りしてモクマを追ったとき、その呪いはほとんど解けたのではないだろうか。

「ほとんど」解けた、しかし「完全に」ではない。うーん、なかなかの慧眼ではないか(正しい自画自賛)。

やっぱりあれで呪いのすべてが解けたとは、当時のわたしも思っていなかった。「母親から嫉妬され、憎まれていた」「自分のせいで母親を失った」という自己認識自体は変わっていないし、それはそう簡単に解消されるような呪いではなかったから。

それが今回、「本当はちゃんと愛されていた」「自分は母親にとって『いちばん大切なもの』だった」「幸せを願われていた」そして「母親を殺す原因となったのは自分(だけ)ではなくタチアナだった」ことがわかった。

ただ、それだけで簡単に解けるほど単純な呪いではなかった。

今度は「愛されていたはずなのになぜ自分はその愛情をまっすぐに受け取ることができなかったのか」「自分を愛してくれていた人があんなに苦しんでいたのに、なぜ助けられなかったのか」「母を犠牲にして自分が生き延びたことになるのではないか」という別の悔恨も生まれたはず。

だからこその、チェズCA再登場だったのではないか。

第一には、今の自分から母親に抱えた感情について自問自答するため。それと向き合うためには、母に対してだけではなく自分の弱さとも向き合う必要がある。要するにアニマとの対決である。

第二に、母親から自分に向けられていた感情について母親の視点から検討するため。

そしてやはり、どこかで「もう一度」モクマさんに掬い(あるいは救い)あげられることを期待して。どこかで、というか、手紙を読んだモクマさんが自分のもとに来ることを、彼はほとんど確信していたはず。「一言一句まで当てちゃう」彼なので。だから、モクマさんが現れたことに気づいたときは自分から声をかけた(これ結構大事)。

 

モクマさんはモクマさんで、チェズレイが(そもそも大けがを負っているところに)精神的に揺れているのを察して様子を見にきてみれば、「美学」に反して変装をしているときた。

その姿を見た瞬間、いろいろと察しただろう。最初にチェズレイと出会ったとき、自分が「何を」してしまったのか。「空のお姫様」を救うことが、チェズレイにとってどんな意味を持っていたのか。なぜチェズレイがあんなにも自分に怒りと執着を向けたのか、その本当の理由まで。

そしてこの変装がチェズレイなりのSOSだということにも察しがついたに違いない。

チェズレイは「チェズレイ」のままで母親からの言葉を受け止めきることができなかった。「ワンクッション」が必要だった(本当に「クッション」かどうかは疑問の余地がある。余計にダメージを増やすことになってないか? それこそがチェズレイの望みでもあるような)。

地面に足はつけていたけれど、もしかしたら初対面のとき以上に、このときのチェズレイは墜ちかけていたかもしれない。危うい状態だったかもしれない。

だからモクマさんはもう一度「受け止めた」。「いつでも、いくらでも」の人だから、たぶんチェズレイがSOSを発したときは何度だって受け止めてくれるはず。

 

モクマに向かって最初に発した問いは、「私の人生は何だったのかしら」だ。

それはそのまま、彼がひとり考え、母親に対して抱いた感情だっただろう。「母の人生は何だったのか」。「愛した相手に、その愛が届かないまま死んでしまった」人生を想って発した問いだ。

それに対してモクマさんは「君の人生は、愛することだった」とストレートに答えを返す。上記のように、モクマさんにとってその答えは自分とサティアの差を示す答えでもあった。

しかし彼はさらにこう続ける。

「その愛情を、未来につなぐことだった」と。

サティアの愛は、少年チェズレイには受け止められなかったかもしれない。でも今のチェズレイなら受け止められるはず。

またサティアの「愛情」がチェズレイを生かし、チェズレイの未来=「のびのび生きてる」「傷さえ武器にする」「よく笑う」を守ることにつながった。

愛が生前に報われなかったとしても、その愛が否定されることはない。なかったことになるわけでもない。その愛はチェズレイの中にちゃんと残っていて、今も生きている。

「そんなあいつの、得がたい風味の根底に、君がそそいだ愛情がある」

これはサティアの愛の肯定であり、今のチェズレイの肯定でもある。それこそが今のチェズレイにとって必要なものだったはず。

 

そして最後にモクマさんは、チェズレイの弱さをも認め、肯定する。

それが「助けたかったよ」であり、「守れなくて、ごめんな」である。

「助けたかった」。けれど「守れなかった」。そのふたつを同時に認めることで、やっとチェズレイは次の段階に進めるはず。

これはわたしの想像だが、チェズレイはこれまでにも何度も別の作戦の場で「母親の姿で飛び降りる」ことを繰り返していたのではないだろうか。そのたびに「誰にも止められず救えない」ことを確かめていたのではないだろうか。「母親」を救えないのは自分だけではないのだと、単に自分が無力だっただけではないのだと、繰り返し確かめていたのではないだろうか。

そんなふうに自分の無力を認められなかった彼にとって、母親への「ごめん」はきっと長い間口にできなかった言葉だったはず。それをモクマさんが代弁してくれた。

チェズレイはまだ自分で母親に「ごめん」を言うことはできない。母親と「チェズレイ」の姿のまま向き合うこともできない。しかしアニマとの対決を経て、いずれはアニマの統合を果たせるのではないか。頼もしい相棒もいることだしね。

 

(アニマ云々についてのざっくり解説はこちら。チェズレイ解釈にはこのへんの基礎知識があると便利)

rinnsyou.com

 

……という感じで記事をしめようとしたところで、公式から大変な投下があった。

ちょっとチェズレイ!!!

モクマさん泣いちゃったじゃん!!!!

そりゃそうだよなあ! 「守り手」として生きていくと決めたのに、その守るべき相手がひとりでぼろぼろになってるわけだしなあ!

ゲーム本編ではモクマさんの手術中にチェズレイがひっそりと涙していたけど、それと対になる形なわけだ。このふたり、お互いに相棒の意識がないときに泣くんだな!

あ~ちょっとこのおじさんの涙は不意打ちだった……。

ちょうど記事も書き終えたし(本当は同時視聴会の前にアップする予定だったのだが、思いのほかというべきか案の定というべきか、チェズレイの解釈にはだいぶ時間がかかってしまった)後半は同時視聴会と一緒にもう一回聴くか~。

 

 

ssayu.hatenablog.com