「バディミッションBOND」クリアした!
これはこういうシナリオが好きな人にちゃんと届いてほしいゲームだと思ったので、あと完全新規タイトルだということもあって、まずは珍しくネタバレなしでの感想を書いてみる。
まず実際にやってみたところ、このゲームはいわゆる「推理系アドベンチャーゲーム」ではなく、「バディシミュレーションゲーム」である。ゲームとしての面白さは推理や謎解きではなく、キャラクターの関係性や物語の進展を踏まえて、4人のキャラクターをどう組み合わせてミッションに向かわせるかを考える&その結果を見守るところにあり、そっちに全振りしていてゲームとしてのほかの要素はおまけ程度である。
「逆転裁判」や「ダンガンロンパ」が好きな人におすすめという話が散見されるが、両作品は推理や謎解きの部分にがっつりゲーム性がありその部分も楽しかった。
バディミにも一応選択肢を選ぶような場面はあるが、正直なところこのゲームを推理・謎解きの面で楽しめるのは未就学児童までである。ほとんどすべての選択肢が単なる記憶力クイズで、およそCero C(15歳以上対象)とは思えない。
QTEにいたってはさらにひどく、あれは全撤廃した方がテンポが損なわれずよかったのではないかと思うくらいだ。特に面白みのないクイズでためたポイントが、特に面白みのないQTEでガンガン減らされていくのを見つめる虚しさよ。
いきなりボロクソに書いたが、このゲームの面白さはそういうところではないというのをまずは強調しておきたかった。
そんなダメなところを補って余りあるくらいにいったい何がよかったのかというと、4人のキャラクターとシナリオである。キャラクターの関係性とその変化、うまく組み立てられたシナリオ、あちこちに撒かれた細かい伏線、サブシナリオの種が一気に収穫されていく爽快感、そういった部分だ。
特に、「あのとき救えなかったあの人」にまつわる傷を抱えた人たちが仲間と出会い成長し、「今度こそ救うことができる」という形で閉じられる物語が好きな人にはとても響くシナリオである。この作品には何層にもわたってこの物語構造が重ねられていて、何杯でもおかわり可能である。
あえて「逆転裁判」「ダンガンロンパ」との共通点をあげるなら、トンデモ世界観の中で魅力的なキャラクターたちがトンデモな事件を解決するという部分だろうか。両作品のぶっとんだ世界観が好きな人なら、バディミ世界も受け入れられるとは思う。
ただ「この世界の公的機関と企業のコンプライアンスってどうなってるん?」とか「世界観的にこれはアリでこれはナシってどういうこと?」みたいなことはちょくちょく発生するガバガバな世界観なので、そういう部分も目をつぶれないと苦しい。
減点方式だと単位が出るかどうかもあやしいレベルだが、加点方式だと5万点くらいとるゲームなんだこれは。
本編に引き継げる体験版で割とがっつり遊べるので、気になった人はまず体験版をやってみてほしい。体験版にもクイズパートはあって、本編後半になると多少難易度は上がるものの基本的にはあのノリが延々と続くので、あれが許容できてシナリオが気になった人は買いである。
あの特に面白みのないクイズが許容できない人は体験版の時点で100%切ると思うので、商売としてはフェアだと思う。
「面白いシナリオをボイス・音楽つき、フルカラーで18巻+サイドストーリー分一気読みできて、ところどころ物語に介入できる形で楽しめるサウンドコミック」として見ればめちゃくちゃお買い得だ。
このシナリオは間違いなくネタバレなしで体験した方が楽しいので、興味をひかれた人はどこかでネタバレを踏む前にやってしまうのを強く推奨する。
ここまでの話は読んでも読まなくてもいいので、とにかくオープニングムービーを見てくれ。
このオープニングを見て「これは自分向けだな」と感じた人、その感覚は絶対に間違っていないので体験版をやってくれ。
ちなみに自分は体験版でオープニングを見て、最後の10秒で「これは自分向けだな」と感じて購入を決めた。
クリア後にオープニングを見ると、冒頭の流星のシーンから始まって何から何まで意味がわかって面白い。
(20200213追記)------
記事がずいぶんバズっている&QTEへの嘆きを多く見るので、わたしが聞いたQTE攻略法をここに書いておく。
縮小していく円形をどんなに見つめてもタイミングはとれない。
「円の色が変わったのを目視してからボタンを押す」
これでミスになるのだけは防げるはず。
わたしもQTEには散々苦労させられたが、色にだけ注目してやってみたら何度目かのリトライで評価Sがとれた。なお評価Sをとるだけなら満点でなくてもいけるので、数回ミスしてもあきらめずにやってみてほしい。
(追記ここまで)------
ネタバレなしの感想はこんな感じでいいかな! 俺は一刻も早くネタバレ感想をぶちまけたいんだ! 未プレイの者はここで去るんだな!
サイドシナリオまで全部見てから読んでね!
さて例によって、この手のジャンルのゲームはキャラ語りの形で感想を書いていくことにする。
ルーク・ウィリアムズ
ものすごい主人公メンタル。「何者でもない者がヒーローになる」というテーマを体現したキャラクター。
こういう主人公が「結局本当に何者でもなかった」というパターンは割とレア(最近だとスターウォーズとかかな)なのだが、わたしは血筋とかで運命が決まるのよりもこっちが好き。
体験版をやったときは「こんなコミュ力の高い好青年が、アーロンと出会うまで同年代の友達がゼロってありえる???」という部分が最大の疑問だった。
本編を進めるとさらにその疑問は深まる。チェズレイによる催眠療法でも、掘り返される少年時代の思い出は父親とのものばかり。子供の頃は全然同世代の友達に目が向いている様子がない。父親への依存を深めて同世代の友達と交流させないって、エドワードは相当の毒親なのでは? とわたしは相当もやもやしていた。
だからファントムとの対決に至ってなるほどそういうことだったかと納得できた。「父親への依存を深めて同世代の友達と交流させない」のは、そもそもそういう子育て方針だったからか。ハスマリーではちゃんと「同世代の友達」を作っていたのだから、エドワードに引き取られた後に友達がいないのはやはりエドワードの影響だと考えられる。
できればルーク自身がそこをちゃんと自覚してくれるとこのもやもやがすっかり晴れるのだが。
「ヒーローだからみんな助ける」という方針を徹底した真エンドはよかったな。ルークがルークだからこそたどり着いたエンディング。
彼にとって「かつて救えなかった人」とは、「ルーク」とエドワード。
幼い頃に守りきれなかった(一応命は救ったのだが、その後名前も経歴も奪われてハスマリーでひとり過ごすことになったのを思うとやはり「守りきれなかった」とカウントしていいと思う)「ルーク」を、成長して出会いなおして今度こそ救うことができた。
エドワードのことも、成長して出会いなおして、そして「救った」と言っていいだろう。エドワードと出会う前から、ヒーローはヒーローだった。それは彼にとって誤算だったはずだ。ルークの「ヒーロー」ぶりを甘く見たというか。
一人っ子だがBONDの中では末っ子属性で、しかしかつては「頼れるお兄ちゃん」だったんだなあ。いやBONDの末っ子ポジションでいるときの彼はとてもかわいらしいのでそのままでいてほしい。モクマさんとの食レポは大変楽しかった。この子にいろいろ食べさせたくなる気持ち、わかるよモクマさん。
一方で未成年には手を出さないという成人男性としての倫理観、これは素直に推せる。本当にエライ。シナリオライターさんもエライ。あそこで手を出してたら解釈違いだよ。
そういえば BOND の D はどこかで Detective になるものだと思っていたのだが、結局最後まで Doggie だったな。あれはみんなわかってるから言わないってことなのか……?
アーロン
なぜ彼が頑なに「ヒーロー」を否定してきたのか、全部わかってからもう一度いろいろ見直したくなるキャラ。
ルークの相棒としてうまく造形されていたし、何から何まで運命だったんだなあ。
彼の善性が幼いヒーローを生かし(しかし当時のアーロンはやはりこの件で無力感を抱くばかりで、アーロンにとってのヒーローは「守り切れなかったあの人」にカウントしていいと思う)、そのヒーローが彼を救い、次の機会では彼自身の手でヒーローを救うことができたわけだ。
しかしアーロンにとっておそらく「最初に裏切ったのはヒーロー」なんだよな。彼の根底にずっとその考えがあって、意識的にか無意識にかはわからないが、それがM8での彼の裏切りにつながったのだろう。
それだけに、このふたりがもう一度信頼関係を結んでバディとして成長していくのを見られて安心した。王道だなあ。
バディエピソードの中ではアーロンとモクマさんとのエピソードがどれも安定して面白い。年の差がある中で、お互いに対等に認め合える関係っていいよね。
このふたりのバディエピソード11と13の流れも好き。「大事な人にはちゃんと自分を尊重してほしい」と真っ向から諭せるアーロン、やっぱりいいやつだし大人なんだよな。エンディング後のモクマさんが自分を大切にできるようになったのがわかるのも嬉しかった。「自分で自分を貶めるようなことをすると悲しむ人がいる」ということがわかるようになったんだな。
アーロンに対して、エンディング後のモクマさんはテレビ電話だがチェズレイは非通知で電話をかけてくるのが笑える。なんだかんだでみんな彼とハスマリーのことを気にかけているようだ。あの国の内戦を終わらせる続編とかこないかなあ。
それにしても全体的にボケ揃いの BOND メンバーの中でつっこみ寄りのキャラなため、酷使されている印象がある。ナデシコさんアーロンにボーナスあげて。
体験版をやったときは「宝石の鑑定という高度に専門的な知識をアーロンに身に着けさせた人物がいるはず!」「あのDIYできそうにないカギ爪を作ってくれた人がいるはず!」でストーリーのどこかでその人と出会うのかと思っていたが、そんなことはなかったぜ。
結局視力の高さで宝石の分子構造の違いまで肉眼で判別できるってことなの……?
モクマ・エンドウ
この人が気になってゲームを買ったわけなんだけど、こんなにもわたしの好きなものを詰め込んだキャラだとは思わなんだ。
身近な人間関係を全部狂わせる魔性の男で、主君殺しで、その罪の意識でずっと死にたがっているのに後追いは禁じられていて、やっと自分を殺してくれそうな人と出会えたと思ったらその人に「本当は生きてみんなを守りたい」という気持ちを暴かれ自覚させられたっていう。
マイカの里で起こった不幸は全部自分の「魔性」のせいだとある程度自覚したからこそ、その後はあえて周囲に嫌われるように(自罰的な意識もあったはず)、深い人間関係を誰とも結ぶことがないように、軽薄な言動を繰り返していたっていう。
実際のところ、フウガ視点で見ると本当にこの魔性の男はタチが悪い。父親も妹もモクマにとられたようなもので、それなのに自分自身もどうしようもなくモクマに惹かれる気持ちを抑えられず、しかし肝心のモクマ本人は絶望的なまでにフウガに関心がない。モクマが里からいなくなった後、どんなに多くの者を従えられるようになっても、本当に屈服させたい唯一の男はそこにはいない。そりゃねじ曲がりますわ。
モクマさんにとって「守れなかったあの人」とはタンバ様であり、イズミ様であり、マイカの里そのものであり、あとはナデシコさんである。
スイ(そういえばスイって「水」よりむしろ「彗」なのかな)を守り、フウガの野望から里を守ることで、モクマは呪いの大半から解放される。
(タンバ、フウガ、イズミとあの一族のモクマへの傾倒ぶりはヤバいので、スイかシキとモクマの縁についてサイドストーリーでちょっと補完が見たかった)
ナデシコさんに救われた当時、モクマはナデシコさんの気持ちに気づいていただろう。それでもその気持ちに応えることはできず、ミカグラ島にとどまることもできず、彼は逃げることしかできなかった。ナデシコさんの気持ちを置き去りにすることをわかっていながら。
だからナデシコさんがモクマさんを「利用」する形で任務を成功させ、最後に心から笑いあって別れたとき、モクマさんの中で呪いが全部解けたのではないか。
チェズレイの隣でいきいきと「世界征服」のお手伝いができるようになったのも、そういう諸々が吹っ切れたからこそだろう。
たぶんこれからはやたらと軽薄な言動は減っていくのだろうし、そうなると魔性のおじさんにランクアップしそうなのだが、まあチェズレイならしっかりつかまえていられるだろう。
あと、わたしはモクマさんのテーマ曲が好きだ。
バディを組んで捜査するとき、4人それぞれのテーマ曲が組み合わさって流れるのがとても好きなのだが、中でもモクマさんのテーマがお気に入りだ。
ルーク→トランペット
アーロン→エレキギター
モクマ→横笛(たぶん篠笛?)
チェズレイ→ピアノ
という楽器のチョイスもそれぞれのキャラらしくて良い。モクマとチェズレイのテーマを掛け合わせたとき、いい感じに旋律の動くところがずれて交互に聞こえてくるのがいいよね。
チェズレイ・ニコルズ
たぶんこのゲームでいちばん丁寧に、そして巧みに造形されている人物。
「父親」との関係がクローズアップされるBONDメンバーの中で(ルークとアーロンはもちろん、モクマとタンバの関係も疑似父子である)唯一「母親」との関係がキーになっている。
自分が原因で母親を失うことになり、目の前で飛び降りようとする母親を救いあげることができなかった少年チェズレイ。
おそらくその母親とそっくりの姿(もしかして声も同じ?)に変装して飛行機から墜ちる計画をたてるゆがみっぷり。その彼を「空まで迎えに来た」のがモクマである。
この瞬間、彼はモクマに無自覚な恋心を抱いたのだとわたしは思っている。「自分の計画を台無しにした」とか「ファントムに似ている」とかは全部後付けの理由。かつての自分ができなかったことを難なくやってのけた男だよ? 本当は「誰かに救われたかった」自分を迎えに来てくれた男だよ? 好きにならずにはいられないけれど、同時にそんな気持ちを認められるわけもない。自分の無力を認めることになってしまうから。
これはわたしの想像だが、チェズレイはこれまでにも何度も別の作戦の場で「母親の姿で飛び降りる」ことを繰り返していたのではないだろうか。そのたびに「誰にも止められず救えない」ことを確かめていたのではないだろうか。「母親」を救えないのは自分だけではないのだと、単に自分が無力だっただけではないのだと、繰り返し確かめていたのではないだろうか。その先で出会ってしまったモクマである。
しかしそのモクマさん自身が「死にたがり」なのだ。もう本当に、チェズレイには許せなかったことだろう。疑似的に「母親の自殺を止めた」男にとって、その行動が「遠回りな自殺」だったなんてひどすぎる。許せない、けれどどうしようもなく惹かれてしまう(魔性の男なんだよなあ……)二律背反。顔芸のひとつやふたつ、やってしまいたくもなりますわ。
とはいえチェズレイも聡いので、モクマの行動の根底にあるのが善性だということにもうっすら気づいていたはず。彼にとって本当に許せないのは、モクマのような「善意の人」が幸せに生きられない世の中の方だ(それが「世界征服」につながる)。だからこそ彼はモクマを暴こうとした。
モクマの「生きてみんなを守りたい」という本心を知ったとき、チェズレイはそこに自分が求め続けた本物の「ヒーロー」を見たのかもしれない。「母親(の姿をした自分)」を助けてくれた人が本当に「守りたい」と思う気持ちも持っていたのなら、「救われてもいい」と思えたのかも。
そしてM14でのアレ。
墜ちていくモクマを「今度こそ救う」ことができたチェズレイ。あれは母親に対する贖罪であり、少年時代の自分の救済であり、仇敵を討つよりも大切な人を守りたい気持ちが上回った結果だ。そこにはきっと「目の前の人を見捨てない」というルークの信条も影響していたはず。
モクマを救うことができたとき、つまり少年時代にはかなわなかったことをかなえたとき、チェズレイの(あるいは母親のかけた)呪いは解け、チェズレイは自分自身を救うことができたのである。
チェズレイにとって母親の呪いはあまりにも重い。ファントムへの執着以上に重い。そもそもファントムを追っているのも、自分が「濁る」ことに対する恐怖と嫌悪からだ。
ファントムの横を素通りしてモクマを追ったとき、その呪いはほとんど解けたのではないだろうか。だからこそ「指切り」が可能になった。きっとこれからはあの潔癖症ぶりも多少はやわらいで、そのうち温泉にも入れたりするのではないかと思っている。
母親の呪いが緩み始めたのと同時進行で、母親からもらった愛情の記憶がチェズレイを少しずつ優しくしていく。その優しさは主にルークに向けられる。連弾におまじない、そして野菜ときた。
自分をルークの「母親」にたとえるチェズレイは、その行為にどこまで自覚的なのだろうか。彼の知る「優しさ」は「母親的なもの」だけなのだ。そしてルークは「母親」というものを知らない。これはこれで、いい感じに補い合っている関係だと思う。
(20210215追記)-------
ちなみにわたしはこのあたりの描写を指して「BL」とか「腐向け」とかいわれるのが気に入らない。普通に当たり前に恋でええやんか。令和の時代になんで関係性を性別でくくって思考をそこに依存させる必要がありますの。
バディミはルークがスイのひたむきさに憧れてスイもルークのひたむきさに憧れる対称性とか、互いに互いの救済となるモクマとチェズレイの対称性とか、できる限りどの組み合わせも対等な関係を描こうという努力と工夫があちこちに見られる。そのどれもが当たり前に並立していて、誰もその関係性を否定しない。関係性を性別でくくってジャッジするような描写もない。その描写を「そのまま」に受け取るというのは、そんなにも難しいことだろうか?
(ここまで)-------
それにしてもあの落下ダメージキャンセルは謎だ。チェズレイならメリー・ポピンズ式に着地しましたと言われても納得しそうになるが。
おそらく、51階でのミッションという話になった時点でモクマとチェズレイは高層からの脱出手段を何かしら用意していたものと思われる。特にチェズレイはクレーン車の襲撃を知っていたわけで、壁に穴があくこともわかっていたのだから余計に。
その後の「その言い方、ドキドキしちゃうね」や「いつでも、いくらでも」あたりのリフレインは、お約束ながら丁寧に関係性をしめくくるやりとりでニヤニヤしてしまう。最初に出会ったときのやりとりをふたりとも当たり前のように覚えているんだなあ。
……という感じで、めちゃくちゃ楽しませてもらったこのお話。何かしら続編があったらうれしいので売り上げのびてほしい! という願いをこめつつ、今日のところはこれにておしまい。