なぜ面白いのか

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胎内回帰と神性の剥奪「ハウスオブザドラゴン」2-5感想

https://twitter.com/HouseofDragon/status/1811430253455360083

前回のバトルの結果がどうなったかをじっくりと見せてくれた今回5話。終盤の盛り上がりに向けてのタメ回な感じだった。

そしてこの戦争に勝者などいないこともじっくり強調してくれていた。どちらにも等しく正義はなく、どちらも等しく勝者ではなかった。無益。あまりにも無益である。よく戦争の勝者は武器商人のみだと言われるが、鍛冶屋すら破産しかけているのでマジモンの無益である。

現在まさにFF14でも王位継承をめぐる争いが勃発していて、否応なく比較してしまうのだけども、FF14ではとにかく統治には他者理解こそが求められることが強調されていて、何から何までハウスオブザドラゴンとは違っている。ハウスオブザドラゴンではどいつもこいつもディスコミュニケーションでほうれんそうもできない連中ばかり。FF14をやりながら、どうしてこうならなかったと思うばかりである。

FF14の方では多くの部族をまとめるべく、異文化理解、他者理解の難しさ、面白さ、相互理解から生まれる共感や関心の重要性が強調されていて、こちらもとても面白い。七王国みたいな複数の文化圏を持つ土地を治めるうえでも、まったく同じことが要求されるだろうに。「ハウスオブザドラゴン」視聴者の方もぜひプレイしていただいて、どうしてこうならなかったと溜息をついてほしい。

フリートライアル分だけでも数カ月遊べるくらいのボリュームがあるので、よかったらどうぞ。

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最新作の最新のネタバレだけど一応はっておくね!

ssayu.hatenablog.com

今世界中で最も楽しんでるのは、ハウスオブザドラゴンの王位継承争いとFF14の王位継承争いを同時進行している人たちだと心底思う。どっちを進めているときも、もう片方のことを思い出すもの。海外勢とか盛り上がってるんだろうな(FF14をまだクリアしていないので見に行けない)。

ではここからは「ハウスオブザドラゴン」に集中して、以下ネタバレ感想!

 

 

 

 

デイモンの動機

今回いちばん「な~るほどね!」と思ったのは、デイモンのこれまでの不可解な言動の動機がやっと判明したところ。

わたしは誰の視点にも入れるのが特技だが、ここまでデイモンとラリスくんの視点には入ることができなかった。このブログでも何度も「デイモンはわからん」と書いている。彼らはどちらも野心を抱えており、特にデイモンは1-1から玉座を求める気が全開だった(初登場シーンが玉座である)。でもその動機がよくわからなかった。

前回の感想でわたしはこう書いている。

結局デイモンも兄に愛されたかったのかな。エイゴンとデイモンというふたりの男から愛を求められるヴィセーリス、しかしその愛はレイニラにしか向いていないのだった。そう書くと、エイゴンとデイモンはうまく対になっている。

ヴァリリア語力は何を意味するか「ハウスオブザドラゴン」2-4感想 - なぜ面白いのか

 

実際、これは彼の動機の一部ではあっただろう。でもそれだけでは説明がつかないシーンが多すぎた。ヴィセーリスを軽蔑し、侮るセリフは彼の本心からのものに見えた。ヴィセーリスが死にかけていたときも、心配するよりも自分たちの地位確認しかしていない。ヴィセーリスの訃報を聞いても「暗殺されたのでは」と疑うばかりで悼む気がない。

そもそもデイモンがヴィセーリスからの愛を純粋に求めているのであれば、ヴィセーリスに評価されるような振舞いをすべきなのだが、実際のデイモンの言動はそれからは程遠い。彼はとにかく「自分の方がヴィセーリスよりも王にふさわしい」ことを示したがっているように見えた。

すべての動機は、亡くした母親だったのか。

確認したところ、ヴィセーリスとデイモンの母アリッサは、デイモンが2歳のときに亡くなっている。デイモンの弟エイゴンを産んでから亡くなり、エイゴン自身もすぐに亡くなってしまったらしい。

ということはヴィセーリスやデイモンにとって「エイゴン」という名は、偉大なる祖先征服王の名であると同時に、亡くした弟の名であり、母を奪った原因の名でもあったんだな。ヴィセーリスは自分の子供の名前にエイゴンとつけることに抵抗はなかったのだろうか。

当時まだ2歳だったのなら、デイモンにはあまり記憶は残ってないだろうなあ。母親に愛されたかった・十分に愛されなかったという記憶だけが残ってしまっているのか。

「自分の方がヴィセーリスよりも優れている・自分の方がヴィセーリスよりも王にふさわしい」と、誰よりも母親に認めてもらいたかったんだな。だからヴィセーリスへの態度はまったく一貫せず、矛盾をはらんだものになった。民からの承認も彼にとってはほとんど価値を持たない。だから世間からの評価なんか気にしない。

なぜ彼の言動はここまで一貫性がないのかとなかなか理解できなかったのだが、これで全部がつながった。自分でもはっきり自覚していない過去の傷が彼を動かしてきたなら、言動が支離滅裂になるのも頷ける。もうこれで彼の視点にも入ることができる。

彼にとって玉座につくことは、母に認められること・母から愛されることとイコールで結ばれていたのだ。あの無数の剣に包まれた環境こそが、デイモンにとって母の子宮。彼が抱えているのは一種の胎内回帰願望。しかしその子宮には兄が居座っていたのだった。これがS1開始時点での状況だった。

デイモン視点だと、この物語は貴種流離譚になるわけだ。視聴者からすると貴種(まあ貴種は貴種だが)流離(自業自得やんけ)譚(笑)という感じだが、デイモンは大真面目なのだ。大真面目に「自分が主人公の物語」を演じているのだ。少年が苦難の末に栄光を掴む物語を。もうすぐ50になろうという人が。

でもデイモンって徹底的に「大人になれてない、年齢だけ重ねたわがままおじさん」だから(たぶんそこが一部のファンを惹きつけている)。愛されないまま育ち、「少年が大人になる」ために必要な経験、すなわち他者からの容認や客観的な評価の受容をせずに大人になってしまった。まあでもこれはターガリエンの男全員にあてはまるかもしれないけど(ゲースロ時代のヴィセーリスに至るまで)。

 

アリッサの役者さん、メイクのおかげもあってレイニラに似ていたよね。デイモンがレイニラに魅かれたのは、最初から母親の面影を感じていたからだったのかも。本人に自覚はなかっただろうけど。アリッサも純度100%のターガリエンだから、レイニラと似ていても不思議はない。

それからこれは原作の時点でどこまで意図的だったのかわからないけども、アリッサ Alyssa とアリス Alys ってそっくりな名前じゃないの。高貴な人の名前にあやかって子供に名前をつける習慣はウェスタロス各地で見られるから、アリスの親はアリッサか、もしくはその親のアリサン Alyssan(ジェヘアリース1世の妻)にちなんで名付けたのだろうけど。

アリスの名前と存在が、デイモンの中のアリッサを喚び起こしたのかもしれない。あるいは逆で、アリスが自分の名前を利用してデイモンの視る幻覚を誘導したとか。

ていうか本当に何なんだよあのホーンテッドマンションはよ~~~! アリスはどこまでわかってるんだよ~~! あんな超特大の事故物件、修繕なんかせずにさっさと引っ越した方がいいでしょ。フレイさんもあんな事故物件をほしがってどうするのよ。絶対いっぺん更地にして全部建て直した方がいい。

 

 

エイモンドへの飛び火

さてデイモンのこの話は、さらにエイモンドに飛び火する。

今回念願のトップの座を手に入れたエイモンドくん。とりあえず摂政という立場に収まったみたいだけど、本当にそれで満足してる?

アリセントはエイモンドが戦場で何をしたのか薄々察し始めているし、ヘレイナはほぼわかっているみたい。まあ目撃者もめっちゃいたしね。

でもヘレイナの Was it worth the price? の the price は何を指してるんだろう。少なくとも今回の件でエイモンド個人が支払った代償はまだないはず。ここまでにエイモンドが代償を払って得たものといえば、目を失って得たヴァーガーくらいではないだろうか。

目を失ったことが彼の勝利をもたらしたね、とヘレイナが言いたかったのならこの言い回しはわかる。ちなみにエイモンド自身が、目を失ってヴァーガーを得たことを a fair exchange と言っていた(1-7)。

「エイモンドが(実質的な)玉座を得るため」の代償として考えると、エイゴンの致命的な負傷、さかのぼればヘレイナとエイゴンの息子ジェヘアリースの暗殺、それにルークの死亡まで含んでいるかもしれない。その場合はエイモンドの払った代償ではなく、ターガリエン家が払った代償ということになる。

あるいはヘレイナに未来を感知する力があるのなら、エイモンドが代償を支払うのはこの先なのかもしれない。未来を感知できるなら時制がむちゃくちゃになるのも納得である。

 

で、肝心の飛び火の話。

ここまでデイモンとエイモンドは対になる存在として描かれてきた。本人たち同士もかなり意識しあっている。先日はデイモンがエイモンド風の自分(?)の幻影まで視ていた。

今回はデイモンの凄まじいマザコンぶりが全世界一斉公開されてしまった。そして、エイモンドもまたマザコンである。2-2の感想でわたしはこう書いている。

エイモンドは率直に申し上げて……相当なマザコンなんだろうな。あの娼婦はアリセントと同世代かもうちょっと年上だろうか。そしてアリセントと同じブルネットのゆるウェーブ。膝枕してもらって頭を撫でてもらって……子供が母親にやってもらうようなことを娼婦にねだっている。そして自分の誇らしさと後悔を語る。

世界中のヘイトを一手に集める男「ハウスオブザドラゴン」2-2感想 - なぜ面白いのか

 

彼らは「そういう意味」でも対になる存在だったのか。エイモンドも、「自分の方がエイゴンよりも優れている・自分の方がエイゴンよりも王にふさわしい」と考えてここまでのあれこれをやらかしているわけだけど、それもまた「母に認められたい」という動機が根底にあるのかもしれない。

エイモンドはアリセントに愛されているし、彼もその自覚・実感はあるはずなのにな。さっき1-7を見直したら、「ルークの目も奪え」と言ってヴァリリアンナイフでレイニラに切りつけたアリセントを止めた後、エイモンドはしっかり母親に寄り添っている。

でも結局、「母親のいちばんにはなれない」ことが次男の意識をこじらせたのかもしれない。あるいは単に「男はみんな潜在的にはマザコン」というだけの話なのかもしれない。

戦争を始めるのは男たち。なぜならママに「強い」と認められたいから。ジェイスもルークもエイゴンもみんなそう。ひょっとしたらラリスの動機もそこにあるのかもしれない(ラリスも次男だ)。今回の MOTHER FXXKER(literally)なシーンは、物語全体を刺し貫いている。

 

 

ティリオンとの比較

ちなみにゲームオブスローンズでの次男キャラといえばティリオンだ。彼は自分の誕生時に母親が亡くなり、そのことで父親からも双子の兄妹からも無言の非難を(時には無言ではない非難を)浴びて育った。

彼は自分の生が、母親の生と死が無為ではないことを証明するために学び、智慧をつけ、「インプ」としての生き方を身につけていく。

ティリオンは王位を継ぐ立場ではないが、母親への鬱屈した感情を抱えた次男という意味ではデイモンやエイモンドと比較できる。

そしてティリオンといちばん立場が近いのはラリスくんではないかと思う。名家で、兄が強くて優秀で、自分には戦う力がなく、女性とまともにお付き合いすることもできず、ただ学ぶことで自分の価値を高め、しかし父親からは認められない。かなりよく似た造形なのは間違いない。まだラリスくんのキャラは掴めないけれど、何かティリオンとラリスを分けるものがあるとすればそれは何だろうか。

ゲームオブスローンズが2020年代に製作されていたら、ティリオンが母親に抱えた感情にもっとフォーカスされていたかもしれない。ティリオンのあの描き方はわたしは大好きだったが、ある意味で2010年代の限界をも表している。

 

 

どいつもこいつもほうれんそう不足

ほうれんそう不足の結果、王が黒焦げになってしまったチームグリーン。

一方チームブラックもほうれんそう不足で立ちいかなくなっている。ついにハレンホールに人が送られることになってしまった。もっと早くそうするべきだったと思う。

そしてジェイスくんよ。

母親のほうれんそう不足によってバチクソに会議が滞ってみんなが困ったのを見ていたのに、お前も許可なく勝手に飛んでいくんかい! ママがやってたからいいと思った? そういうのを子供って言うんだよ。

デイモンが現地でどういう交渉をしているのかまったく知らない状況でフレイさんちに勝手に口約束するとか、お前はイギリスか! あ、この話イギリス史がモデルだったわ、ガハハ! そりゃ二枚舌三枚舌外交もお手の物よ。

デイモンはデイモンで、デイモンガチギレクラブのメンバーを増やす一方で、それを全然レイニラに報告する気がないし(まあ「戦力を確保してくる!」と言って出ていったのに、地元民全員に石を投げられる結果になっちゃったテヘペロとか報告できんわな)。七王国の王に、おれはなる! とか言いだしちゃったし。もうめちゃくちゃだよ。

 

 

ドラゴンの神性の剥奪

さて最後に、最初に書こうと思っていたこの話題。

今回メレイズの首をキングスランディングに持ち帰ったサー・クリストンたち。戦勝の報告として敵将の首を晒すのは、ゲームオブスローンズ時代にも見られた彼らの常識である(ついでに我々の祖先の常識でもあった)。

だが今回、おそらくレイニスの遺体は発見できなかった。あるいは発見できたが損傷が激しく、首実検ができる状態ではなかった。ゆえにドラゴンの首を持ち帰ることになった。

常識に照らし合わせれば、敵将の首を持ち帰った者は「英雄」となる。だが民の反応は違った。ドラゴンは七王国で信仰されている七神とは無関係な存在ではあるが、それでもドラゴンを神のように思っていた民も少なからずいたはず。畏敬の念を抱いていた民はさらに多かったはず。その畏敬の念こそがターガリエンの神性を裏付けるものだったはず。

だが今回、民は見知った。ドラゴンは、殺せる。

ドラゴンの神性は剥奪された

それはすなわち、ターガリエンの神性の剥奪を意味する

凶兆だと感じる民が多いのも無理はない。ターガリエンがキングスランディングに住まう以上、ドラゴンは民にとっても「守り神」だったはず。それが殺されたということは、「守り神」の絶対的信頼が損なわれたということ。ひいては、ターガリエン家が自分たちの身を守ってくれるという信頼も損なわれたということ。

 

そして今回の最後、レイニラたちはドラゴンシードたちをドラゴンライダーにすることを思いつく。

これもまた、ドラゴンの神性の剥奪につながる。「ドラゴンはドラゴンロードしか乗せない」のが通説だった。それはターガリエン家の神性を守るための「神話」だったはず。今度はその「神話」が剥奪されようとしている。

城で育った「ロード」や「プリンセス」でなくてもドラゴンに乗れるのなら、自分たちが崇めていた「ターガリエン」とは何だったのかという話になる。

この話を、ジェイスが持ち出したのは実に気がきいているというか、ジェイス自身も自分の出自をわかっているのだろうなと思わせてくれる。レイニラはそのことに気づいているだろうか。「自分もまた半分しかターガリエンではないが、ドラゴンライダーになれた。それなら純度100%のターガリエンでなくてもドラゴンに乗れるということ」という発想に。

 

チームグリーンとチームブラックの両方から、ドラゴンの神性が少しずつ剥奪されている。

「神」という存在は人々の信仰心が生みだしている。人々に信仰されなくなった「神」はもはや神ではない。「神」としての力も失われてしまう。

もしかしてこの先ドラゴンが滅ぶ(双竜の舞踏後、子竜がまともに育たなくなり、卵も孵らなくなるという話だったはず)のは、人々からドラゴン信仰の意識が失われ、ドラゴンの神性が完全に剥奪されてしまうからじゃないかな、なんて。

だとしたら、その発端となる出来事がチームグリーンとチームブラックの双方からほぼ同時に出てきたのは素晴らしい構成だ。

 

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せっかくなのでどうぞ(前書き部分にHotDへの言及があります)。

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