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タロットカードの謎を解く「サイバーパンク2077」考察・後編

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さてタロットカード考察、後半戦にいってみよう! 初めて来た方は、できれば前編から楽しんでいってね!

ssayu.hatenablog.com

引用しているタロットカードはすべてウェイト版。

ストーリー全部にわたってネタバレ注意!

エスト中では見つけることができないカードについてもネタバレしているので、自力で見つけたい方も引き返すの推奨。

 

 

 

 

11. 正義

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後半一発目の「正義」のカードなのだが、いきなりこれがわからない。

場所はエヴリンを救出すべく乗り込んだ発電所だから、「正義」=エヴリンか? とも思うのだが、カードの説明とエヴリンの人物像がいまいちかみあわない。彼女に関して「公正な裁き」なんてあったか?

またここまでカードに描かれている人物とそれが象徴する人物の性別はほぼ一致してきた。「正義」のカードに描かれているのは男性に見える。本来のタロットでは「正義」のカードに描かれているのは女性であるにもかかわらず、だ。エヴリンよりももっと適当な人がいる気がしてならない。

主要キャラの中でこの説明文の人物像に最も近いのはリバー・ウォード刑事ではないだろうか。しかし彼と一緒にこの発電所に来た記憶がない。わたしが忘れているだけかもしれないのだが(ここを結び付けられる情報を持っている方、コメントください!!)。

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カードに描かれているのは剣と天秤、ヨーロッパの裁判所でよく見るモチーフだ。

「正義」のアルカナが象徴するのは「公正な判断、平等、均衡、善意」など。やはりエヴリンよりもリバーな気がするんだよな。

 

12. 吊るされた男

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「刑死者」と訳されることもあるこのアルカナだが、一般的には死刑の場面ではなく試練、通過儀礼を受け入れる人物だとみなされている。

アルカナが意味するものも「忍耐、試練、努力、奉仕」など。

このグラフィティがあるのはナイトシティのはずれにある油田。ジョニーの遺体が埋められた場所だ。

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前編にてVくんとジョニーというバディを表すアルカナが「恋人」であると書いたが、ジョニーを単独で表すカードがこの「吊られた男」ではないだろうか。そう考えると、ゲーム内のカードの説明文にある「犠牲」、「新たな命に生まれ変わる道」「その先には死が待っている」あたりの記述がしっくりくる。

この油田でジョニーは自らの人生を振り返り、Vに歩み寄る。「俺が入ったのがほかの誰でもなく、お前の頭でよかったよ」というせりふが印象深い。

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ジョニーがVくんを助けるのを最優先にしようと決めたのはこのときだったのではないだろうか。

 

13. 死神

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「13番目」のアルカナ、不吉なカード「死神」。鎧を身につけ、鎌ではなく剣を持った異色の「死神」である。

このグラフィティがあるのはエンバース、ハナコと会う建物の外。

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なぜこんなところに? 誰の象徴だ? と考えこんでしまったが、どうやらまだわたしの見ていない死神エンドなるものがあるらしい。ほかのエンディング絡みのカードのことを考えると、これも死神エンドで最後に行きつく場所だと考えられる。

このアルカナが象徴するのは「破滅、消滅、強制終了」などどれをとっても悲惨な終わり方しか想像できないが、いったいどんな感じなのか。

これについてはいずれ見ることができるまで保留である。

 

14. 節制

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本来のタロットカードでは「節制」といえば水差しから水差しへと水を移し替える女性が描かれるものである。すなわち対極にあるものを混ぜ合わせる「仲介者」の姿と、水差しの中でふたつのものが調和し混ざり合う姿を描いたカードだ。

ジョニーがVくんの体におさまり、最も延命できそうなエンディングであるところの「節制エンド」を表すのにはちょうどいい。グラフィティがあるのは「節制エンド」で最後に向かう場所、慰霊堂だ。

だがこのカード、全然水差しが描かれてないし水を移し替えてもいなくない? とても「調和」には見えないんだけど……と思って拡大してみたら、これは別の体(たぶん死体)から直接輸血してるところなのか!! うっわすごい、あの図柄からよくこんなアレンジを思いつくな……。まさにジョニーとVくんだよ。そして確かに水を移し替えていた。これは文句のつけようもない「節制」のカードだった。

しかしここに描かれているのは「ジョニー」であるべきなのだが、ジョニーは左腕が銀腕なんだよな。ここに描かれている人物は右腕が銀である。これはいったいどう考えるべきだろうか。

「節制」が象徴するのは「節度、献身、抑制」ということで、およそジョニー・シルヴァーハンドというもとの人物像からはかけ離れているのだが、しかし「節制エンド」で彼が見せた姿はまさにこれだった。

最後のクエストでジョニーに体を開け渡してローグと協力すると、ローグに「大人になった」と言われる。

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「節制」のカードが表しているのは、まさに「大人になる」ということなのかもしれない。ジョニーはずっと「子供」だった。40代だけど。「子供」だからこそ「反逆者」になれた。「美しくないもの」が許せなかった。そして「抑制」がきかず攻撃的だった。

Vくんと「調和」することで彼は大人になり、あんなふうに静かなエンディングを迎えたのだろう。最初はジョニーがVくんの元気な体を手に入れたらどんな破壊行為に走るのかと思ったものだが、全然そんなことはなかった。

ジョニーは、自分たちの起こした決死のテロ行動の結果を目にしている。「アラサカの支配は何も変わらなかった」という結果だ。つまり真に世界を変えるには、暴力以外の方法を模索しなければならないと、彼は悟ったはずだ。Vくんの影響もあり、ジョニーはそんなふうに考えたのかもしれない。あのエンディングの後ジョニーがどう生きたのかは語られないが、「真の反逆者」として真に社会を変える道を探しているといいなあと思う。このゲームは元テロリストの目から見た反テロリズムをも表現しているのであった。

あのエンディングのときVくんゲージは0%になるが、ジョニーゲージも90%止まりだったんだよな。

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ここまでの選択肢次第でジョニーゲージが100%になることもあるのかもしれないが、わたしはジョニーが100%復活したわけではないことにむしろ救いを感じた。それこそがVくんが生きた証、彼の遺したもののはずだから。

ついでに「節制エンド」のスティーブについて語るが、彼の暮らすあの環境では、あんないいギターはすぐに盗まれるか、売り払われるか、壊されるかの道をたどりそうな気がする。

だが一方で、それこそが新たな「反逆者」としてのスティーブのスタート地点になりうるのかもしれない。「本物」を知った彼がそれを奪われることにより、より切迫して「本物」を希求し、いつか自分の力で「本物」を掴みとるのだ……みたいなアフターストーリーを、スタッフロールを見ながら夢想した。

 

15. 悪魔

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わたしはまだこのカードだけ見ていない。だがそれが「悪魔エンド」のどこかに配置されているらしいということは知っている。You Tube で Cyberpunk devil tarot と検索するとそれらしい動画も出てくる。が、わたしはまだ見る予定がないのでここには貼らない。何もかもタケムラさんが死んでしまったのが悪い。

 

16. 塔

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「死神」よりもなお悪い、最悪のタロットカードが「塔」。人類には分不相応な技術、崩壊するべくして崩壊したバベルの塔、そのまんま、アラサカタワーの象徴である。グラフィティがあったのは、崩壊した旧アラサカタワー跡地。

稲妻と崩壊する塔、それに火の粉が飛んでいる様子はもとのタロットカードと同じだが、人が描かれていない点が異なっている。

アルカナの意味は「崩壊、悲劇、自己破壊」など。

あえて人物をはずしてデザインされていることからも、「塔」は特定の人物というよりも「アラサカ」あるいは「コーポ」全体を指しているような気がする。

 

17. 星

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空には星、地上には器から水を灌ぐという女性というモチーフはもとのタロットカードどおり。だがもとのタロットカードでは女性は俯き、左側(内面、過去志向)を向いているのに対し、こちらの女性は空を見上げ右側(未来志向)を向いている。ゲーム内にあるカードの中で、右向きなのはこの一枚だけ。これは「星エンド」に希望を見出せる要因のひとつかもしれない。

「星」のカードが表すのは「インスピレーション、希望、吉兆」など。

グラフィティがあるのは、「星エンド」の最後に州境をこえるために合流した場所だ。

「ここから始まる」のだと言った直後に死んだかもしれないところが実にこのゲームらしくていいのだが、しかし一方で希望を持ちたい欲もある。アルデカルドスはアラサカから空母を作れるくらいの素材を盗み出せたことだし、そのお金でVくんをいい医者にみせてやってくれ、頼むよ。

 

18. 月

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夜空に浮かぶ大きな月、二匹の犬、荒野、建物。概ねもとのタロットカードの意匠と一致する図柄。

このグラフィティがあるのはアラサカエステーの塀である。こんなに意味ありげなのにメインストーリーでここに来なかった。わたしはカードの場所確認に来たついでに中に侵入して庭と家を荒らしまわった。トイレがものすごく広いんだよな。

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アラサカエステートのトイレ

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この場所に何の意味があるのかわからず、いろいろ調べてみたところ、どうやらここは悪魔エンドにおいてハナコ絡みで訪れるらしい。しかしハナコは「女教皇」である。

「月」が意味するのは「不安、誤解、欺瞞、隠れた敵」などである。もしかしてヨリノブ・アラサカのことだろうか。「塔」のカードがヨリノブかとも思ったのだが、アルカナの意味を眺めているとこっちの方が合っているような。ただ、このカードも人物が描かれていないから必ずしも特定のキャラクターのことを指しているわけではないのかも。

「月」をヨリノブとすると、説明文に書かれた「見たままのものではない」というのはサブロウ殺しの真実のことを指すのだろうか。でもあれはどちらかというと「見たまま(絞殺)」のことが「毒殺」として欺かれた事件だからな。ほんとトラウマチームの検死はガバガバだぜ。

それともヨリノブのキャラクター自体に、まだわたしの知らない秘密があるとか?

 

19. 太陽

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大きな太陽を背景に、馬ではなくバイクに乗った姿。ただ「太陽」のカードにしては、なぜ背景が黒なのか。何も知らずにこの一枚だけを見たら、背景にあるのは月だと感じる人が多いのではないか。なぜこんな配色にしたのか、やや不思議である。

「太陽」が意味するのは「成功、誕生、明るい未来」など。「太陽エンド」の結末を考えれば、わからなくもない。Vくんは最初の希望どおり、ナイトシティのレジェンドとして太く短く生きることを選んだわけだ。

エンディング分岐を示すものの中では「太陽」が最も後のアルカナであるため、開発としてはこの「太陽」エンドが最も「成長した」愚者の姿だと考えていることになる。

ただ自分としては、長い旅路を経たVくんが行きつく先が「最初の希望どおり」の結末というのは、必ずしも「成長」とは言えないような気がしている。「太陽エンド」のVくんは自分の生き方に納得&満足しており、そういう意味での「ベストエンド」かもしれないが、「愚者」が「愚者」に戻っているとも言えるのだ。

このへんは結局、プレイヤーごとに「Vくんがどう成長したか」が異なるため、各自が自分の納得できる落としどころを考えるしかないのかもしれない。

この「太陽」のグラフィティがある場所の意味が、本当にわからなかった。

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エンディングでこんなところに来たっけ??? と相当悩んだのだが、ここは「太陽エンド」でVくんが住んでいたあの邸宅のふもとなのだ。前の家からだいぶ近いところに引越したんだねVくん。

 

20. 審判

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で、これが隠しカード。

ヨハネの黙示録』の一場面、天使がラッパを吹き鳴らし死者たちが蘇る場面

このグラフィティがあるのは、パナムもしくはローグと協力してアラサカタワーに乗り込み、アダム・スマッシャーを倒した場所。

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結構堂々と掲げられている

カードが示すのは「復活、覚醒、自尊心」。「悪魔=アラサカ」に魂を売ることなく、自らの力で復活を遂げるルートでこのカードを見ることができるわけだ。

 

21. 世界

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愚者の行きつく最後のカード。そこに描かれる「世界」はまさにナイトシティ。Vくんとプレイヤーにとって「世界=ナイトシティ」だもんな。もとのカードには宇宙とそれを構成する四大元素が描かれているが、そういうものは全部ない。

「成就、成功」などを意味する、エンディングにふさわしいカードで、どのエンドに至っても「世界」のトロフィーはとることができるはず。

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このグラフィティがあるのは、言わずと知れたあのエンディング分岐の選択をする場所。ヴィクターとミスティの店の屋上だ。ちなみにわたしが見たエンディングではいずれも、ボイスメッセージの最初がヴィクターで、最後がミスティだった。

では「世界」のカードに描かれた人物はこのふたりのどちらかかといえばそうではなく、これはやはりVくんだろう。成長した「愚者」の最後の姿であると思われる。

 

「化け猫」と消えたグラフィティ

さて、〈神輿〉に接続した直後にVくんの意識はこの建物に戻ってくる。彼はエレベーターを降り、階段を上がってこの屋上でペンダントを拾う。

そのときこの屋上に「世界」のグラフィティはない。グラフィティを見せているのは <Relic> なのだから、それが抜け落ちた後にグラフィティが見えなくなるのは当然だ。

だがグラフィティと入れ替わりに、このときにだけ見えるものがある。

二匹の「化け猫」である。

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自分で確認したが、このタイミング以外で屋上に来ても猫はいない。またこの猫は、そばを通り過ぎると消えるのである。

この猫が何を意味するにせよ、タケムラさんの語る「化け猫」としてここに配置されているのは間違いない。あのときタケムラさんがやや唐突に語りだした「化け猫」の話、彼はあのとき「化け猫」のことを「不幸を呼び寄せ、死者を蘇らせる力を持つ」と語った。

Vくん、あるいはジョニー復活のタイミングで猫が配置されているのは偶然ではあるまい。またタケムラさんのあの語りはこの場面につながるものだろう。

「西洋」思想に基づくタロットカードがちりばめられたナイトシティ。だが最後にタロットは消え、「東洋」の化け猫が現れる。和要素が随所に見られる作品ではあったが、こんなところにも潜んでいたわけだ。

 

 

22枚分のカードの場所をもう一度まわってシナリオとの関係を調べる旅、猛烈に時間がかかったが謎解きの楽しさはめちゃくちゃ味わえた! まだ誰もやっていない(たぶん)うちに自分でやるのはとても楽しいし、そんなことができるゲームはあまりない。最速攻略勢ってこんな気分なのかな。

各地をまわってみて改めて思ったが、タロット集めは <Relic> 取得後いつでもできるが、メインクエストで訪れたときについでに集めるのがいい気がする(それだとエンディング絡みのカードや「塔」のカードはなかなか集まらないが)。

また最初から全部マップに印がついているのではなく、クエストで訪れた先でたまたま見つけるものであった方が演出として面白かったようにも思う。そうなるとクリア時点で5枚程度くらいしか集まらない人が多そうだが、それこそウェブ上で情報交換して全部集めてもいいのではないか。ゲームにおける「コレクション要素」というのは大体そういうものだし。

とはいえ、早々に全部見てまわったおかげでナイトシティの構造を理解できたわたしのようなプレイヤーもいることだし、そのへんはいろいろ考えた上での製作者によるゲームデザインなのだろう。

ひとまず「サイバーパンク2077」の考察はこれにておしまい。二周目をやりながらまた考えたことがあれば加筆しに来るかもしれない。

 

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