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王の小指は誰のもの?「ハウスオブザドラゴン」1-1,2感想

いよいよ始まった「ハウスオブザドラゴン」、本日2話まで見てわくわくが止まらないので感想というかメモ書きを残しておく。

先日久しぶりに過去の「ゲームオブスローンズ」記事を読み直して、炎上しないようにものすごく言葉を選びながらむちゃくちゃ慎重に書いてんなー、と面白くなってしまった。

ssayu.hatenablog.com

しかしこれはこれで、当時の熱狂を今に残す資料のひとつにはなっていることと思う。

「ハウスオブザドラゴン」も、ゲースロと同じくらい……とまではいかなくても、わたしにとって刺激的な、心揺さぶられるドラマであってほしいと期待している。

また気づいたことや感想はぽつぽつとここで綴っていきたいと思っているので、お付き合いくださる方はぜひ一緒に楽しみましょう。

なおわたしは原作設定の家系図はあえて見直さず、今のところはなるべく前提知識を入れずに楽しんでいるので、コメントからのネタバレもなしでお願いします!

 

というわけで以下、本編のネタバレ注意。

当然ながら「ゲームオブスローンズ」のネタバレも注意。

 

 

 

 

 

ヴィセーリス・ターガリエン

ひとまず各登場人物の現時点での印象を語っておくことにしよう。いつ死ぬかわからんからな。

まずはヴィセーリス・ターガリエン(固体で戴冠した方)

いやまずね、西洋の人たちの、一族で同じ名前をつけていく風習のせいで、ヴィセーリス・ターガリエンやらリコン・スタークやらをどう区別していけばいいのか。ヴィセーリス(H)とヴィセーリス(G)とかか? 「固体で戴冠した方」と「液体で戴冠した方」で通じる?

とにかくその固体の方の人ね。

この人がS1を生きて越えられると思っている人は全世界でもごくわずかだと思われるが、それが「9話」になるのか「それ以前」になるのかは見解が分かれるところだろう。つまりネッドポジションの人なのか、ロバートポジションの人なのか。

(いや、あまりにもフラグを積みすぎなのでマイナスとマイナスが打ち消し合ってS4くらいまで生きるかもしれない)

 

彼はあまり「わたしの知るターガリエン」らしさがない人物だ。彼の備えるターガリエン的特徴といえば、プラチナブロンドと、近親相姦に少なくとも露骨な嫌悪感は見せないところくらいだろうか。

彼はターガリエンにしては常識人っぽいし(普通に戦争を避けようとしているし、国土や国民を守ろうとしているし、普通にひとりの妻を愛しているように見えたし、12歳の子と結婚するのはちょっと……みたいな態度だったし)、ターガリエンらしい苛烈さとか暴力性とか独善性とか愛に対する感受性のおかしさとかがないような。

そういう「ターガリエンらしさ」はだいたいデイモンが備えているように見える。

レイニラの「ターガリエンらしさ」についてはまだ保留しておきたい。

とにかく「意外と普通じゃん」と思わせる王なのだ。デナーリスと比べても、あるいはロバート・バラシオンと比べても。

だからこそ早死にしそうなんだよなあ

 

今作は面白いが、小指成分が足りないことだけが寂しい。いやピーター・ベイリッシュの初登場回も1-3だったし、まだまだ盛り上がるのはこれからだ。

一方で王の小指が大変なことになっている。

ほらー鉄の玉座は危ないって何年も前から言ってたじゃん! ピーターくんもあの玉座で怪我してたけど、ヴィセーリスもかよ。絶対過去にあの玉座で死人が出たことあるでしょ?

あんな突起のあるデザインは家具(家具か?)として危険すぎるし座り心地も悪そうなので、ちゃっちゃとターガリエンの予算でもっとゆるふわな玉座を作っとけばよかったんや。なんだよあの御前試合、GoTのS1と予算規模が違いすぎるだろ。さすがターガリエンの予算はバラシオンとは違うぜ。いやバラシオン朝の国庫は小指が握っていたのだった……。

 

で、誰が毒を盛ったんですか?

今のところ、S1の注目ポイントはそこかな。

親愛なる我が友が仮説をたてていたので、許可を得て引用させてもらう。

①偶然怪我が悪化したよ(物語の装置だよ)
②王の手がやったよ(権力を確実にしたいよ)
③海軍相がやったよ(王が気に入らないよ)
④王弟がやったよ(兄が気に入らないよ)
⑤別の人がやったよ(小指ちゃんポジだよ)

 

②③は露骨すぎるし④はどちらかというところすくらいならいっしょにしぬタイプのような気がするので目の届かないところで苦しむような毒は盛らない気がする やはり⑤

①は普通にありえる。「そういう設定」として始まった、今作の鉄の玉座は「そういう装置」としてのキャラクターを与えられたのだという説。

②は現状では正直メリットがない。せっかくアリセントが王妃というポジションを手に入れたのに王がぽっくり逝ってしまっては……いや、王妃というポジションを手に入れた以上、王は用済みなのか? いやいや、殺るにしても世継ぎを産んでからだよな。ただし毒を塗った時点ではまだ前王妃のエイマが生きていた。その時点では動機があったかもしれない。うーん、でもハイタワーさんは王とうまくやりつつ自分の家も繁栄させることを主目的として動いているように見えるからやっぱりないかな?

③もないかな。王のことは気に入らないし隙があれば権力を握りたいと思っているだろうけど、あの時点ですでに毒を盛っていたなら「うちの子と結婚しませんか」案は出さないだろう。

④については、友と同じくわたしも、デイモンはやるなら直接がいいタイプではないかと思っている。卵を盗んでお手紙を書いたあとも、おにいちゃん来ないの? と言っていたし。あとやっぱりデイモンはターガリエン的暴力野郎であり、毒殺という手段を選ぶのはターガリエン仕草ではないよなとも思う。

となるとやはり⑤!

もし小指ポジションのキャラがいるとしたら、わたしもこの犯人になるのかなと思っている。

現状見えている登場人物の中では、小評議会の残り二名があやしいことになるが、彼らはまだ十分にキャラが立っているとはいえず、こいつがあやしい! と言える状態ではない。

小評議会のギスギスがGoTほどでないのは蜘蛛小指みたいなペアがいないからか? まずはその他の対立軸をわかりやすく示すためか? そのうちもっと各キャラの掘り下げがあるかもしれない。何しろまだ1-2なのだ。GoTだって1-2の時点では何も出そろっていなかった。

ちなみにわたしはGoTに一気に引き込まれたのは、S4でジョン・アリン殺人事件の真相を理解したときだった。それ以前にもう「このドラマすげー」とは思っていたのだが、この作品は「ミステリー」としても抜群に面白いと感じて、そこから自分の中での作品評価が2段階くらい上がった。

動機のない者は疑われない。

今作にもそんなキャラがいてほしいと思っている。わたしはGRRMを「ミステリー作家」としても信頼しているので、王の小指にもちゃんと納得できる答えが出るものだと期待している。

期待はする、期待はするが……HBOがその気になれば真相が明かされるのは10年20年後ということも可能だろう……ということ……(ジョン・アリン殺人事件の真相もS4まで引っ張ったし)

いややっぱり普通に①かもしれん……

 

なお「小指」というのは英語圏においても約束の象徴なので、王の小指が死にそうになっているのは、王が何かしら大事な約束を違える前兆かもしれないと思っている。

そんなあだ名を持つピーターくんが I did warn you not to trust me なキャラだったことが、わたしはとても気に入っている。この作品において「小指」はそういう意味を持つキーワードなはず。

 

 

アリセント・ハイタワー

レイニラの前に、ヴィセーリス絡みでこっちからいっちゃう。

プラチナブロンドのレイニラと並ぶととても絵になる、ブルネットの彼女。

彼女は絶妙に、レイニラよりも「少し大人」なキャラクターだ。

「レイニラよりも」「少し大人」にならなければならなかったキャラクターでもある。

わたしとしては、妻を亡くしたばかりの男性をお慰めするのには彼女は幼すぎるのではないかという気がしたのだが(もう少し分別ある大人の方が……)、しかしアリセントも母親を亡くした悲しみを知る者であり、悲しみを共有する者として、ヴィセーリスにとっては申し分ない相手だったわけだ。

あのドラゴンのフィギュアは非常にわかりやすかった。フィギュアの破損はそのままターガリエンがドラゴンを失うことの象徴で、すなわちターガリエンの権威の失墜をも象徴する。それを直してプレゼントするというのは、ドラゴン、ひいてはターガリエンの復権の象徴である。ヴィセーリスにはその象徴する部分まで感じられていたはず。だからこそ「彼女が必要だ」という結論に至った。

 

ちなみにデイモンが娼婦と結婚してターガリエンの血を引く世継ぎを残すのだという宣戦布告をしてきた際、友がすかさず「もうアリセントが世継ぎを身ごもってるんじゃないの」というつっこみを入れていた。ほんとそれな。

ヴィセーリスはレイニラに再婚の話をふるのなら、相手が誰かまでその時点で言っておくべきだったと思うよ。身内への根回しこそ手を抜いたらダメよ。王であったとしても、というか王だからこそだよ。

現状のまま順当にいけば、ヴィセーリスはアリセントと再婚し、アリセントが子供を身ごもり、ヴィセーリスはどっちを王位継承者にするか悩んだ末、指名する前に死亡し、アリセントとレイニラの対立が血みどろの内戦に発展という地獄が待っている(順当とは????)。

(しかしわたしはヴィセーリスがレーナと再婚し、アリセントは秘密の愛人になるが子供を身ごもってしまうというさらに最悪なルートも想像していたので、まだこっちのルートでよかったと思っている)

まあそうならなかったとしても、この物語の行く末は狂王が殺されてターガリエン朝が終わり、デナーリスもターガリエン朝の復興前に死亡して、唯一残った(と思われる)ターガリエンの末裔は壁で子孫を残すことなく一生を終える可能性が高いという滅亡エンドだということはもうすでに確定的に明らかである。バッドエンド一直線に決まっているのである。何もかも取り返しがつかない状態になってから1-1を見直して、仲睦まじいふたりを見て「この頃はよかった」と泣く準備をしておいた方がいい。

 

 

デイモン・ターガリエン

ターガリエン仕草全開マン。

デナーリス要素をいちばん持っているのは現状ではこの人かな。我々の知る「ターガリエン」らしい苛烈さとか暴力性とか独善性とかを最も備えているのは、現状この人だ。

2話を見たあと、友と少し語り合った。デイモンの愛情観について。

デイモンはあの娼婦を愛しているだろうか。彼女を彼女個人として愛しているだろうか。

現状の描写では、デイモンは兄への反発として「ターガリエンが娼婦を娶る」という行為をしたいだけに見える。政略結婚であてがわれた相手以外なら誰でもよく、娼婦だったら傑作だ、くらいのノリで。彼女こそ自分の理解者だ、という部分がないわけではないのだろうけども。

わたしはデナーリスの愛情観について、GoT8-5の感想で長々と語っている。ちょっと長くなるが引用してみる。

 

ウェスタロスに来たデナーリスは最大の問題にぶちあたる。誰も彼女を愛さない。北も南も、身分の上も下も彼女に見向きもしない。向けられるのはドラゴンへの恐怖だけ

確かにジョンは彼女を愛してくれた。でも彼女にとって結局、愛はどれくらいの価値を持つものなのだろうか。

ドロゴからの愛の意味は大きかった。彼女に初めて自己肯定感を与えてくれた。でも彼を失って、彼女は強くなった。ダーリオ・ナハリスは捨てられた。ダーリオを捨ててウェスタロスに来た彼女は、さらに凶悪になった。

ではジョンからの愛は? 玉座のためなら捨てられる程度のものではないかというのが、これまでのデナーリス描写から得たわたしの印象だ。そしてジョンを捨てれば、彼女はさらに凶悪になる。

今のデナーリスが望んでいるものは、ひとりからの真摯な愛よりもすべての民からの愛ではないのか。

「多くの人々から愛されていても、自分が真に愛するひとりからの愛が得られないなら意味がない」みたいなキャラは割とありふれている。その対極にいるのがデナーリスであるというのがわたしの理解だ。

「視聴者」はいつデナーリスに殺されたか「ゲームオブスローンズ」8-5考察 - なぜ面白いのか

 

まだ情報量が少なすぎるのでなんとも言えないが、デイモンもこのメンタリティに近い可能性もあると思っている。すべての民から愛されるなら、ひとりからの真摯な愛なんて捨てても惜しくないのでは? 娼婦も別に真摯な愛を注いでくれているわけではないからあんまり比較にならないかな。

単に「おにいちゃんに構ってもらいたいだけだったの!」という部分もありそうだが、それがすべてではないだろう。

 

デイモンからレイニラへは、それなりに親しみを感じていたようである。1-1の時点においては。だがそれは「お互い王位を継承できない者同士」という哀れみや仲間意識からくるものだったかもしれない。

王位を継承することになった今のレイニラには果たしてどんな感情を抱いているのだろうか。「私を殺せばいい」と言った彼女を殺すことはできなかった。そう、クーデターをしたいのならあれは絶好のチャンスだったはず。でも彼はやらなかった。あの場でやってたらあの場で殺されていた可能性が高いから、単に無理だったということだろうか?

では、アリセントが子供を身ごもり、レイニラの王位継承権が危うくなったとしたら?

デイモンはどう出るだろうか?

それまで生きているだろうか?(重要)

生きているとしたら、そのへんはひとつの見どころになるはずだ。

とりあえずわたしは1-2で示された戦争の火種にわくわくしている。よっしゃよっしゃさっさと戦争して国土を焼こうぜ! それでこそターガリエンだろ!

 

 

レイニラ・ターガリエン

この物語のポイントは、基本的に視聴者の誰もがデナーリスの結末を知っているという前提で作られていること。

そしてその前提の上で、レイニラの造形を露骨にデナーリスに寄せているということ。

苛烈で、独善的で、問題の解決方法はすべて暴力、国土を焼き、民を焼き、それを「救済」だと信じきっていたデナーリス。そのあまりにも危険すぎる人格のすべてを、「美人の白人女性」という属性によって覆い隠してきた彼女。

レイニラは、そんな彼女にそっくりだ。よくこんなそっくりな子を連れてきたものだ。特に体型がそっくりなので、1-1の最初のシーンなんて、彼女が振り返るまで本当にデナーリスと見紛うほどだった。

ドラゴンに乗った彼女がドラゴンストーンに現れる描写は、実にヒロイックだった。彼女がドラゴンの卵を取り戻すやりとりは胸がすくようだった。だからこそ危険なのだ、彼女を英雄的に描くことの意味を考えろと頭の中で警鐘がガンガン鳴って、あのシーンでは本当に胸がむかむかした。

GoT履修済みの視聴者の多くがその二律背反に苦しんだはず。彼女の英雄的行為を称えるべきか? それとも危険視するべきか? そんな視聴者の悩みを想定して製作されているはず。

 

レイニラはこの先どうなるのか。どれだけデナーリスと似せるのか。どれだけデナーリスから離れるのか。ふたりの描き分けはどうするのか。その方向性だけでもS1のうちに示してくれると嬉しい。

ただし一般論として、クリエイターは「同じもの」を作ろうとはしない。

だからデナーリスにそっくりな彼女が、デナーリスとは別の道を行くルートの方が可能性は高いと思っている。

少なくとも彼女はまだ誰も燃やしていない。

犠牲を出さずに卵を取り返した」ことをヴィセーリスに強調してすらいる。

だから現時点では、レイニラの行為は素直に賞賛してもいいのだろう。

いつか彼女が生きた人間相手に「ドラカリス」と口にする日が来るだろうか?

しかし彼女がデナーリスと同じ道を行くとしても、別の道を行くとしても、どちらにしても待っているのはターガリエンの滅亡である。レイニラは、デナーリスがどうなったかを知ってその反省の上で成長するキャラではないのだ。そうである以上、うーん……やっぱりどっちのルートの可能性もある。

現時点ではどっちとも言えないので、ここはおとなしく続きを待つべし。

ただわたしとしては別ルートが見たいし、その片鱗だけでもS1で見たい! という希望は書き残しておく(希望が爆散したときに読み返す用)。

 

 

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