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揺りかごにして墓場「十三機兵防衛圏」クリア後ネタバレ感想

あけましておめでとうございます!

今年もいろんな作品に触れてワーキャー言いたいと思います!!(抱負)

 

年明け一発目は、年末にやりまくった「十三機兵防衛圏」の感想。

群像劇的なものを期待してやってみたら、思った以上に群像劇として面白く、しかもSFとしてもよくできたプロットだった。

正直ジュブナイルものにはあまり惹かれないのだが、全体的にトーンを抑えた色味にあわせたのか、声優さんたちの演技もトーンが抑えめで、あまりきつくなかった。

メインとなる舞台が1984年なので、そのへんの世代もターゲットにして作った結果、あまりキャッキャしてないジュブナイルものになったのかもしれない。わたしにとっては遊びやすくてありがたかった。

二転三転どころか五転も六転もするプロットには驚かされたし、面白かった。後半はどのキャラのストーリーでも衝撃の事実が判明するし、戦闘パートでさらっと重要な情報が出たりするし、気が抜けないゲームだった。

面白いのは、プレイヤーによって情報開示の順番がだいぶ違うのではないかという部分。どの順番で物語をなぞるかによってキャラクターへの印象も謎のポイントとなる部分も変わったりするのではないだろうか。

それにしてもなかなかに複雑なプロットで、ひととおりクリアはしたもののまだ細かいところまで把握できているとは言い難い。ちゃんとした感想を書くにはあやふやな理解のままだが、しかしながら勢いのある感想を書くにはクリアした直後がいちばんである。

これまたキャラ語りの形でひとりずつ感想を書いていくことにする。

エンディングまでのネタバレ注意!!

 

わたしがクリアしたのは

緒方→冬坂→東雲→鞍部→網口→如月→三浦→薬師寺→鷹宮→関ケ原→南→比治山→郷登

の順なので、この順番でいくか。

 

 

 

 

 

 

 

機兵起動シーンはどれもかっこいいのだが、ここまでが長かった

 

 

 

箱舟計画への疑問

キャラ語りの前に、総括としてこの世界観について少し語っておくか!

わたしがいちばん気になったのは、人類滅亡回避のために用意された遺伝情報にしては、遺伝的多様性が少なすぎない? という点。多様性の確保は滅亡回避のための最優先事項ではないのか。

なんで日本人ばっかり?? 箱舟計画の中心人物も日本人ばかりだし。2188年の大企業なら当然多国籍企業になってる気がするのだが。ひょっとして日本以外は先に滅んでた??? それなら納得だ。

それから血縁関係も多すぎない? 森村(冬坂)と沖野、鷹宮と南は血がつながっている。15人しかいないのに遺伝子情報がかぶりすぎじゃね?? 森村博士は遺伝子情報を調べたときに沖野を候補から外すことは考えなかったのか。まあ母性的なものを感じていたようだから無理だったのかな。森村先生は人類存続をかけたプロジェクトに割と私情をはさみまくりだ。

これも、箱舟計画の初期段階では残す遺伝子の選別もじっくり行う予定だったのかもしれないけど、準備を進めている途中でいよいよ人類がアカンことになって、コロニー在住者以外は滅亡してしまった。で、最終的にある時点でのコロニーの生存者の遺伝子情報を全部記録したか、あるいは最終的な生存者が死体からもサンプルを集めて箱舟に乗せたのかもしれない。

いやもし全部が計画通りに進んでいたら、暗殺者の遺伝子情報はこの計画に積み込まない気がして。恵ちゃんの遺伝子が残されたのもイレギュラーっぽいし。というか全部が計画どおりなら、箱舟に乗せる遺伝子情報を奇数にするはずがない

しかしそういうわけで、彼らはあの星でこれから人類を再繁殖させていくことになるわけだが、数世代もたてば近親相姦不可避ではないのか。大丈夫か。

 

 

緒方稔二

同じ遺伝情報から生まれた人間でも、片や大企業の社長、片やリーゼントの不良。

現実的には郷登みたいなのと緒方みたいなのが同じ入試を経て同じ高校に入学してくるとは考えられないが、まあフィクションだし……と思って納得しようとしていた。が、実際には郷登は入試を経て入学したわけではなさそうだし、そもそもあの学校は「15人のための学び舎」という設定の場所だったんだな。

緒方からウサミちゃんへの恋心が明確にいつ芽生えたのかは不明。でもセクター3での一連の出来事がきっかけということでいいのかな。自分が彼女を守らなきゃ! と強く思うようになったんだろうな。

もしかしたら、あのループも緒方の恋心を加速させた要因のひとつだったかもしれない。守りたいのに守れない、何度ループしても失ってしまう友人のことを、いつのまにかただの「友人」とは思えなくなっていた、みたいな。もしそうなら沖野の責任大である。ウサミちゃんと緒方のカップルはかわいくて応援しがいがありそう。

あの突然のループモードには驚いたけど、あれはひょっとしてこの物語全体がループものなのではないかとミスリードさせる意味もあったのかもしれない。わたしは緒方編開始以降、最優先で進めていたのでがっつりミスリードされましたとも。

崩壊編では、マジで緒方無双だった。ハイパーコンデンサーつきデモリッシュブレードが凶悪だし、そもそもラッシュが普通に強い。大変お世話になりました。

 

ここはわたしもジンときた

 

冬坂五百里

森村先生?? えっ千尋ちゃん???? といちばん混乱させられたキャラ。

イオリちゃんは乳児の時点で冬坂家に預けられてセクター4で育ったから、森村先生とももちろん森村博士とも違うキャラになったんだな。それに連日の寝不足のせいでだいぶぽやんとしていたので、そのせいもあって森村先生と全然印象が違うことになったものと思われる。

遺伝子提供者が研究者なのだから、彼女もエンディング後はその才を発揮して人類存続のために尽くすことになるのかな。

瑛くんとの直球すぎる、80年代の少女漫画のような(まあ80年代の少女だからね)恋愛はほほえましくて好感が持てた。そしてイオリちゃんを見ていると、箱舟計画に私情はさみまくりの森村博士についてもまあ、そういう人だったんだろうなと思わされる。

でもこれ、暗殺者と暗殺対象が結ばれる結果なんだけど大丈夫か。いや出会い方ひとつで人間関係って変わるし、そもそも生育環境もオリジナルとは別なのだからほぼ別人と言っていいはず。

オリジナルの彼らは全員そこそこの年齢差があったようだが、全員が同年齢として生まれたらのIFという設定が面白いよね。

 

ウサミちゃんは「次の『私』の人格を乗っ取って生き返るなんてダメ」と主張していたのに、森村先生はがっつりイオリちゃんを乗っ取る予定だったのは、彼女たちの倫理観の差であり、事態の深刻さの差でもある。この件については森村先生の選択は私情ではない。

いや待て、やっぱり私情かもしれん。森村先生は鞍部十郎を和泉十郎(2周前の)に戻そうとしてたんだよね?? それで同時にイオリちゃんの体も乗っ取る予定だったんだよね??? 2周前の記憶を持った森村と和泉を作りなおそうとしてたということは??? やってること井田くんとかわらなくね??? それによって世界を守ろうとしていたということはわかるんだけど、森村先生の感覚もだいぶ振り切れてるよなー。世界崩壊を目撃してしまうというのはそれくらいのことなのかもしれない。

ちなみにイージス作戦がそのまま決行された場合、ポッド内での学習要領は修了せず、ポッドの中のクローンたちは死亡して、施設の耐用年数がくるので施設を全部作り直して(さすがにテラフォーミングからやり直すことはないはず)、もう一度ループの最初からということになるのかな。

つーかループのたびにポッドの中のクローンは死んでたのだろうと考えると、あのコクピットはマジで揺りかごにして墓場じゃん。

すれ違ったまま殺してしまった和泉十郎と最後にああいう形ではあるけど結ばれたのは、よかったということにしよう。イオリちゃんと十郎はパッケージにデカデカと載っているから、このふたりが結ばれるのか? と最初は思ったものだけど、あのパッケージって2周前の彼らだったりするのかな。

 

 

東雲諒子

いやホラーでしょ!!!!

自分の記憶がどんどんなくなっていくのもホラーだけど、凶悪犯を追っていたと思ったら突然「犯人はお前だ」と言われるとか、マジホラー。怖すぎる。

この瞬間本気で手が止まったからね

今思うと、ほかのキャラからクリアしていけば機兵汚染事件の犯人に目星がついた状態でこのシーンに辿り着けたような気もする。でもわたしは東雲先輩を3番目にクリアしたし、この時点で瑛くんや三浦くんはまだ全然途中だったからなあ。ある意味衝撃パンチが最大効果だったかもしれない。

東雲先輩のストーリーを進めるほどに、崩壊編で一緒に戦っている東雲先輩は何がどうしてこんな感じに安定するんだ?? という謎が出てくるわけだが、機兵の扱い以外の記憶がなくなってるのか……どこまでも不幸を背負っている。

オリジナルの東雲博士が、人類最後の生存者だったということになるのかな。井田博士と最後の時間を過ごそうとして裏切られて絶望した感じ? これオリジナルの東雲博士も井田博士を殺してるでしょ。

でもその時点で、箱舟はもう宇宙の彼方に出発してたんだろうな。そうでなければ出発中止! ですんだわけだし。東雲博士にできたのは遠隔操作だけで、それもちょっとだけコードを書きかえる程度のことしかできなかったのだろう。プログラミングは彼女の専門外だろうし。

しかしそれにあたって書きかえたコードが、テラフォーミングだとか生命維持装置だとかの直接的な部分ではなくて、仮想空間の生活環境をコントロールする部分だったというのがなんとも回りくどい……いや、そのへんの直接的な部分のコードについては念入りに保護されてて専門外の彼女には触れなかったのかも。

井田博士は東雲博士に何を言ったのかは結局わからない。最後の人類が殺し合ってふたりにまで減ったという時点で人類全体に絶望するには十分な気もするが、最後のトリガーは井田博士だったわけでしょ?

「箱舟に乗ったわたしたちの遺伝子がいずれ育って、わたしとあなたがやがてアダムとイブになるのね……」的なことを東雲博士が言って希望を持とうとしたら、「いやきみと僕では振り分けられたセクターが違うからそれはないかな。僕は前から如月博士のことが気になってたから彼女と同じセクターになってるんだよね」みたいなことを言ったとかだったら、さすがに井田博士が空気読めなさすぎなのでこれはないかな……。

もっと何か根本的な、はっきり裏切りと言えるようなことをされたのかもね。いずれにしても人類最後のひとりになって宇宙空間を漂うなんて想像を絶する事態だ。しかも周囲は他殺死体まみれなわけでしょ。井田博士が何も言わなかったとしても発狂して何をしたかわからなかった気がするな。箱舟出発後に母船からコードの修正可能な設定にしておいたのが間違いのもとな気もする。

 

ともかく、このゲームをアドベンチャーゲームとして見た場合、わたしにとっては東雲編がいちばんおもしろかった。「426とは誰か?」という謎が二転三転していくのを追うのは、中盤のひとつの盛り上がりであった。

中学生の頃に郷登とつきあっていたようで、エンディングではこのふたりが最終的にカップルになったということなのか。郷登は東雲先輩がどれだけ一途で不安定かよくわかっているはずなので、お付き合いするにしてもそのへんをふまえて責任をもってやってくれるのではないか。あれだけ有能な彼なのだから、完璧なパートナーも務まる……かな……。とにかく人類存続のためにも頼んだぞ。

 

 

鞍部十郎

いややっぱりきみが主人公だよ。

ループを乗り越えて世界を救うための孤独な戦いを続けて、しかしその「彼」とは別人の「僕」として戦うことを決める十郎、それでこそ主人公だ。

ほかのクラスメイトたちのパートに芝くんがまったく現れないので、芝くんの存在については割と序盤から疑っていた(プロローグの時点で十郎としてのセリフがあるしね)。芝くんと426が自分の中で結びついたときが、個人的にシナリオのクライマックスだった(そこからさらに二転三転するのだけど)。

網口くんと仲良くしようとしていたのも、和泉の誘導だったんだな。網口くん視点だと、芝くんが見えないのもよくできている。

オリジナルの和泉とそのクローンの和泉と、今の鞍部くんはだいぶ性格が違うようだ。「鞍部十郎」を作る過程でそうならざるを得なかったのだろうけど、恵ちゃん的にそれは大丈夫だったのだろうか。大丈夫ではなかったようだが、最終的には大丈夫だったようだ。最終的にポッドから出たときの十郎の人格は、やっぱり「鞍部十郎」だったんだよね。

和泉十郎がこの世界の秘密とDコードの正体を知ったときのショックを想像するとなかなかだな。でもそこから解決法=ゲーム機能を解放して機兵を育成すれば勝てるという発想に至ったのは素晴らしい。もしかして、2周前の和泉十郎はセクター1で暮らしていたときにダイモスのゲームをやったことがあったのかも。かなり流行したゲームだというから、その可能性はある。自分がやりこんだゲームだったとしたら、解決法もすぐに思い至ったかもしれないな……と思ったけど、確認したら「ダイモス」の発売はセクター1の時代より後じゃないの! 残念。

ゲームパートとストーリーパートがこんな形で結びついたあの瞬間は、わたしの中でもうひとつのクライマックスであった。うまいな~!

ゲームなんだから機兵の育成ができるなんて当たり前だったけど、彼らにとっては何を燃料にして何をやってるんだ? という話だもんな。そしてこのループ以前の彼らは、育成機能ナシでダイモスと戦っていたわけで、それは無理ゲーですわ。

 

何もかもわかってから見直すととても切ないのが、薬師寺が自分を撃った後のしっぽのモノローグ。

和泉十郎は森村千尋が好きだった。鞍部くんの記憶を操作して、森村千尋への恋心を取り戻させたい(=2周前の和泉十郎の人格にしたい)という欲があったと彼は告白している。

しかしこれが成功すれば、薬師寺の好きだった今回のループの和泉十郎は取り戻せない。

それをふまえた上で――しっぽは、今回のループの和泉十郎の記憶の修復を試みていた。十分にうまくいったとは言えない状況ではあったが、それでもやろうとはしていたわけだ。それは2周前の和泉十郎の目的からは何の益もない行為だったのに。

それはやっぱり薬師寺の気持ちに心が動かされたということなのかな。自分の恋心をあきらめてでも、今の彼らの気持ちを優先させようとしたということなのか。

森村先生も芝くんも、鞍部十郎を2周前の和泉十郎に作りかえようとしていた。

しかし鞍部くんは鞍部くんとしての人格のままに、2周前の和泉十郎の記憶も、今回の和泉十郎の記憶も備えることになった。やっぱりそれって主人公補正のなせるわざというか、和泉十郎が処理領域を「譲った」ことになるのかなとか、だからこそ勝てたんだよなとか、いろいろ考えられて楽しい。いいキャラだ。

オリジナルの和泉と森村、クローンの和泉と森村はどれも恋愛関係にあったようだが、最後にポッドから出た鞍部は薬師寺と結ばれるという結末、面白いなあ。遺伝情報がすべてではなく、環境や出会い方によって関係性は変わるという一例だな。変わらない例もちゃんと用意されていて(三浦・南とか比治山・沖野とかね)、そっちも好きなんだけどね。

 

 

 

 

という感じでこのまま語っているとものすごい字数になってしまうと思われるので、今日はいったんここまで。

ほかのキャラについてはまた後日!

こうしてみると第二世代機搭乗者から集中的にクリアしてるな……。

 

 

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